#085 アリスの冒険世界 3日目その3 総力戦!

「どうする!」


 強敵ダークナイトの全体攻撃の前に我がパーティーは瀕死と言っていい。


「次食らったら死ぬかも?」


 そうみどりんも判断した。


 現時点ではボクたちに蘇生の手段はない、死ねばそれまでだ。

 だから全員死なないことが最優先になる!


 防御力の高いボクやシオンは、あともう一発食らっても即死は無いだろう。

 なら優先するのは!


 そう考えているとみどりんは自分でポーションを使って回復した。

 よしならば!


「ルーミアにヒールだ!」


 ボクは盾を両方外してヒールをかけた。

 すると回復量は増大してルーミアのHPは全回復したのだった。


「まったく見ちゃいられないな」


 そう言ってボクの盾になるようにダークナイトとの射線上に割り込んだのはシオンだった!

 そしてシオンはボクにポーションを使ってくれた。


「今アリスに死なれたら全部終わるからね」

「ありがとうシオン!」


 ルーミアの回復を優先させたのは判断ミスだったかもしれないが、それでもカバーしてくれる頼もしい仲間がボクには居る!

 その頼もしさがボクに冷静さを取り戻させた。


「陣形を変えよう! みんな、敵を囲むんだ!」


 さっきの必殺技はボクの後ろにいたルーミアにも当たった。

 つまり範囲攻撃だけでなく貫通性能もあるのだ!


「なるほど、巻き添えを避けるのね!」


 こうしてパーティーの陣形はダークナイトを中心に上下左右に散開した!


 上にボク、左右にシオンとルーミア。

 そして下にはみどりんだ。


「みどりんのところまではヒールが届かないから気を付けて!」

「それならこれね! 『インビジブル』」


 みどりんは透明化の補助魔法を使ったおかげで姿が消えた!


「よし、これで回復は間に合うはず!」


 そこからはダークナイトの攻撃で2人以上ダメージを食らうことは無くなった。


 ボク、ルーミア、シオンの誰かが被弾すれば、すかさずボクのヒールで回復する!

 みどりんは透明化してからは被弾しなかったが、もしダメージを負えば自分でポーションを使う段取りだった。


 ボクはヒールで手がいっぱい、みどりんは攻撃したら透明化が解除されるのでずっと防御している。


「これでいい、このままで押し切れ!」


 残るシオンとルーミアに攻撃役は委ねられた!


「『サンダー・アロー』!」


 試行錯誤の末にルーミアは一番有効な攻撃魔法を見つけたようだ。

 さっきからそればっかり使用している。


「くらえ! 『パワースラッシュ』!」


 シオンも戦士の職業で覚えた攻撃技でダメージを加速させる!

 器用さの低いシオンなので命中率は80%くらいだが十分に削れている。


 この状態を維持すれば勝ちが見える!

 ⋯⋯しかし!


「マズイ! そろそろMPが切れそう!」

 毎ターン魔法を使うボクとルーミアのMPが枯渇しそうだった。


「そろそろ沈めよ!」


 シオンも焦ってきたようだ。


「私のMPが尽きてもみんなは戦えるけど⋯⋯アリスのMPが尽きたら負けちゃうわ!」


 それは初心者のルーミアにもわかる展開だった。


 くそ⋯⋯こんなことならもっとMPを増加させる魔力値にポイントを振っておけばよかった!

 そう後悔したところでもう遅い!


「これが最後のヒールだ!」


 それで回復したシオンの剣がダークナイトを襲う!

 これで終わってくれ!


「いっけ──!」


 しかしそのシオンの気合もむなしくダークナイトはまだ倒れない!


「終わった⋯⋯?」


 これで手詰まりだ。

 ここから先は毎ターン誰かが力尽きていくだろう。


 ここから全員で特攻すればもしかしたら倒せるかもしれないが⋯⋯犠牲は必ずでる!

 それを止める手段はもうない!


「こうなったらボクが1発でも多く防ぐ!」


 もう一度ボクは両手に盾を装備して防御力を上げた、そして防御する!

 そんなボクにダークナイトの攻撃が来た!

 ⋯⋯よし、まだ生きている!


「これが最後の手段ね⋯⋯アリス受け取って!」


 運命を賭けたみどりんの選択は──!


「ボクのMPが回復した!?」

「残り少ない私のMPだけど、全部あげるわ!」


 吟遊詩人の補助魔法『マナ・コンバート』だ!

 みどりんの残りMP全てを受け取ってボクのヒールは維持される。


「みんな! あともうちょっとだ!」


 そうボクが叫んだときにルーミアの最後の魔法がヒットしたが⋯⋯まだ倒れない!


「MP切れたわ!」

「ルーミアはもうここからはずっと『防御』してて!」


 それならばあと2発くらいは耐えられるかもしれない。


「⋯⋯わかった」


 ルーミアの声は無念そうだった。

 くそ! 開発、調整ミスだろこの強さは!


 シオンもさっきから通常攻撃になっている、もう技をつかうMPが残っていないようだ。


 ボクもMPが回復したとはいえそう何度もヒールは出来ないし⋯⋯いいかげん沈めよ!


 そしてついにみどりんも透明化の効果が切れるのに構わず攻撃をし始める。

 きっと少しでもダメージを稼ぐのと、ボクやシオンの弾除けになれればいいという考えなのだろう。


 まさに総力戦だった!


 そしてルーミアのターンが来た!

 もうルーミアにはMPが残っていない、打撃もたいして効かないだろうからこのまま防御に回るとボクは思い込んでいた。


 しかし──!


「これでも食らいなさい!」


 ルーミアは驚くべき行動に出たのだった!


 ── ※ ── ※ ──


 MPの尽きた私のターンが来てしまった。

 ここからはもう防御するしかないのか⋯⋯。


 しかしみんなまだ諦めずに戦っている、それなのに私だけ生き残る事だけ考えて行動するなんて⋯⋯。


 でも現実的に考えて私にはもう武器が無い。

 この杖で殴りかかるくらいしかできないが⋯⋯スライムくらいしかギリギリ倒せない程度の打撃では、やるだけ無駄なのは私でもわかる。


 アリスの言う通り防御してみんなの弾除けに1回でもなれればその方が貢献できる。


 しかし⋯⋯。

 悔しい、負けたくない。


 ネーベルもみどりんも、自分に出来る精一杯で戦っているのに私だけ。


 なにか無いの? 私に残った武器は──!


 ──「殴り魔道士、強いんだけどなー」


 それはネーベルさんに言われた一言だった。


 ライバルとして負けたくない相手の。

 かつてVチューバーとしてお手本にもした先輩のアドバイス。


 私はいま装備している杖の説明文を思い出す。


 [見習い魔法使いの杖:魔法の力をほんの少しだけ高める、ただし打撃には向いていない]


 この魔法の力を高める効果は検証したことがある。

 スライム相手に『10』の威力が『11』になるくらいの微々たるものだった。


 しかし打撃に関しては検証していなかった!?


 私はアリスの行動を思い出す。

 さっきから頻繁に盾を装備したり外したりを繰り返している。

 きっと装備した盾にはヒールの効果を弱くする副作用があるのだろう。


 ⋯⋯じゃあこの杖にも?


 私はぶっつけ本番で試してみることにした。

 両手の装備を全て外す⋯⋯素手だ!


 そして私は『こうげき』を選んだ!


「これでも食らいなさい!」


 ── ※ ── ※ ──


 ルーミアの驚くべき行動!

 それは両手を素手にして殴りかかるという暴挙だった!?


 ボカッボカッボカッ!


 というエフェクトが出て『15』というダメージが出る!

 ダークナイトの防御力を考えればいいダメージだと言える、しかし決定打とは言えない!


 ガガッガガッガガッ!


 というエフェクトが出て、さらに追加ダメージが入った!?


 なんで? ⋯⋯そうか『両手素手』は二刀流扱いになるんだ!

 だから連続攻撃になる!

 しかも2発目は『クリティカルヒット』のエフェクトだった! ダメージは『30』だ!


 しかし攻撃したルーミアがダークナイトの反撃を受ければ⋯⋯!?


 その時ダークナイトの漆黒の兜が割れた!

 ダークナイトの素顔が見えた!

 なかなかのイケメン魔族といった風貌だった。


 [くっ⋯⋯ここまでとは、な]


 そして⋯⋯戦闘が終わった!


「よっしゃー!」

「やったわ!」

「やっと終わったー!」

「あら、いい男じゃない」


 こうしてボクたちの長い戦いはようやく終わったのだった。

 てかみどりんさあ⋯⋯イケメンなら何でもいいのかよ!

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