リアルで女声で無口な僕が幻想美少女に!?~美少女Vチューバー達にヴァーチャルワールドでは愛されて困っているボクのゲーム実況録~
#055 ヴァーチャル・ワールド! そこは夢と現実の間にあるやさしい世界!
#055 ヴァーチャル・ワールド! そこは夢と現実の間にあるやさしい世界!
『はいっ! 本日のマキマキ速報のお時間です! 本日のゲストは⋯⋯今、日本を騒がせているVチューバーのこの人だっ!』
「こんにちは皆さん、Vチューバーのアリスです。 今日はよろしくお願いします」
『うーん初々しいですね、新人さんは!』
「はは⋯⋯まだデビューして2か月の新人です」
『またまた、こんなにやらかしてもう新人とは言わせませんよ!』
「あはは⋯⋯」
今日のボクはゲストで他のVチューバーのチャンネルに参加していた。
しかもその先はボクらのヴィアラッテアではない、ライバル会社ポラリス所属のVチューバー『風巻みどり』さんのチャンネルだ。
風巻みどりさん⋯⋯彼女は主にニュース系Vチューバーとして活躍している人だった。
世界で起こっている様々な事件を、興味のないオタクにもわかりやすく伝えるニュース系のチャンネルだった。
そこで今回の『骨髄バンク』コラボの事を取り上げてもらったのだ。
⋯⋯ボクがゲスト出演することが条件で。
まあリモート参加なのでボクの正体が男だとまではバレる心配はないけどね。
そしてこれが正式なヴィアラッテアとポラリスのVチューバーの初コラボとなったのだ。
⋯⋯ボクとシオンでしたかったな。
まあそれは今更仕方ないが⋯⋯。
『それでは今回の騒動の火付け役のアリスちゃんに、骨髄バンクコラボのお話を聞きたいです!』
「はい⋯⋯、いま日本では白血病に苦しむ人は年間1万人を超えると言われてて、その治療となる骨髄提供はせいぜい2000件くらいらしいです。 そのため少しでも多くの人が助かるチャンスが増えるお手伝いをしたいと考えて今回の活動を始めました」
今回の骨髄コラボは世間ではちょっとした話題になってしまった。
これまで無かったVチューバーとのコラボというのもあったが、実際に効果が見え始めたからだった。
コラボ開始からまだ1週間だけど、その間に500人ほどの登録者数が増加したとの事だった。
さっきも言った年間2000件という数を考えればこの短期間だけで凄く増えたという事だ。
これまでこんなことに興味の無かった僕にとってはたった500人という数字に思えるけど、医療関係者からすれば大きな成果らしい。
『はー、素晴らしい立派な考えですね』
「いえそうじゃなくて、独善的な独りよがりでした。 でも⋯⋯周りの皆様の暖かい支援でここまで話が大きくなって、具体的な数字も出て、やってよかったと思ってます」
しかしまだこの作戦のきっかけになった留美さんのお母さんに適合する人は、まだ見つかってはいない。
でも諦めない。
どんなレアドロップだって狩り続ければいつかは出ると、僕はとあるゲームの『赤い依頼』から学んだのだから⋯⋯。
こうしてボクは風巻さんの力も借りて、今回の宣伝番組に駆り出されることになったのだった。
照れ臭かったが何もできないあの無力さに比べれば平気だった。
むしろ喜びと言っていい。
このボクの声で人々の心を動かせるのならば⋯⋯。
『はい、お話ありがとうございました! この骨髄バンクコラボは今後も継続して本チャンネル、マキマキ速報でも支援していきたいと考えています!』
「はい、ありがとうございます風巻さん」
『もー硬いなアリスちゃんは! みどりでいいよっ!』
「⋯⋯はい、みどりさん」
ハイテンションな人だな⋯⋯疲れる。
こうしてボクの出来る活動はまた一つ終わったのだ。
── ※ ── ※ ──
『はいカーット! アリスちゃんお疲れ!』
「お疲れさまでした、そしてありがとうございましたみどりさん」
風巻みどり、ニュース系Vチューバーとして登録者数160万人の人だ。
彼女の宣伝力は大きな助けになるだろう。
しかし気になることがあった。
「あの、どうして今回手助けしてくれたんですか?」
ポラリスとボクらヴィアラッテアのコラボはまだ始まったばかりだ。
むしろ今まで敵対した関係だったと言っていい。
『紫音ちゃんに頼まれたからね⋯⋯』
「シオンに? そっか⋯⋯ありがとうございます」
今回の事でどれだけシオンが助けてくれたのか、想像もつかないな。
『あの子さ⋯⋯笑わなかったんだよね、私らの前では⋯⋯』
「⋯⋯え?」
『うちらさ仕事でたまにリアルで会う事があるんだけど、紫音ちゃんはすごく礼儀正しいけど⋯⋯ずっと距離があった。 配信でもあんまりコラボしないしね』
「そうだったんですか⋯⋯」
『でも嬉しかったよ、今回初めて頼ってもらえてさ』
「好きなんですね、シオンの事」
『あたりきじゃん! だってリアルのあの子、アリスちゃんも知ってるんだよねっ? くっそ可愛いじゃんアレ!』
「あはは⋯⋯」
『今回の協力の報酬に紫音ちゃんとのオフコラボも取り付けたし⋯⋯最高じゃん!』
シオン⋯⋯愛されているな、安心した。
「シオンの事これからもよろしくお願いします、みどりさん」
『ホントに紫音ちゃんとリアフレなんだ、アリスちゃん?』
「ええそうですよ、再会したのは最近だけど⋯⋯」
『てことは⋯⋯アリスちゃんも紫音ちゃんと同い年くらいの美少女か⋯⋯どう? 今度お姉さんともオフコラボしない?』
「その⋯⋯考えておきます⋯⋯」
『いい返事待ってるよ、アリスちゃん!』
こうして風巻さんはログアウトした。
⋯⋯疲れたな、知らない人と話すのは。
こうしてまた一つボクに出来る仕事が終わったのだった。
── ※ ── ※ ──
「⋯⋯アリスか、いい子ちゃんだね。 きっとこの子はまだこの世界が優しいと思っているお子ちゃまなんだな⋯⋯としか思えない」
私は汚い世界を見すぎた。
でもこの子はまだ信じられるのだろう、この世界の美しさを⋯⋯。
「はー、
こうして私はもうちょっとだけこのアリスの手伝いをしてやることにしたのだ。
かつてニュースキャスターをしていた私に出来るすべてで⋯⋯。
「⋯⋯守れるといいね、君の大切な人」
── ※ ── ※ ──
骨髄バンクコラボが始まって10日が過ぎた。
その間、僕は多くのメディアの取材を受けることになってしまった。
うっかりボクが今回の言い出しっぺだとばらしてしまったせいで⋯⋯。
でもその分の効果はあって本当によかった。
そのおかげでこの骨髄バンクコラボの件は多くの一般人にも知れ渡ったのだから。
あとは留美さんのお母さんが救われればいう事なしなのだが⋯⋯。
最近留美さんは笑わない。
あの眩しい笑顔がまた見たい。
神様どうかお願いします!
今後一生僕はゲームでレアドロップが出なくてもいい!
一生分の運を今使い切ってもいい!
だからどうかお願いします。
留美さんが笑える世界であってください⋯⋯。
その運命の電話は夕飯の最中だった。
「はい、もしもし芹沢です⋯⋯先生なんでしょうか?」
どうやら病院からみたいだった。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ホントですか?」
その様子を僕ら3人が見守る。
僕と姉さんと映子さんの見ている前で留美さんの目から涙が零れた──。
「はい⋯⋯本当にありがとうございました」
そう言って留美さんは電話を切った。
「留美さん⋯⋯どうしたの?」
「見つかった」
「⋯⋯え?」
「見つかったの! お母さんのドナーが見つかったの!」
「⋯⋯ホントに?」
「夢じゃない、夢じゃないよねこれ!?」
「おめでとう留美!」
立ち上がった姉さんが留美さんを優しく抱きしめた。
「よかった⋯⋯これでお母さん助かる⋯⋯」
留美さんは子供みたいに泣きじゃくっていた。
それを姉さんが優しく抱きしめ続けていた⋯⋯。
悔しい⋯⋯美味しいところを姉さん⋯⋯。
僕はこっそりと料理の付け合わせのピーマンの僕の分を、姉の皿に移した。
「やった──! おめでとう!」
映子さんも大喜びだった。
気がつくと映子さんのお皿からもピーマンが消えていた⋯⋯姉の皿には3倍あるのに。
「よかったね、留美さん」
「ありがとう⋯⋯アリスケ君」
「運が良かっただけだよ」
「でもアリスケ君が始めてくれなかったら⋯⋯」
そう泣きながらお礼を言う留美さんを僕は何となく複雑な気分で見た。
本当に今回のコラボの結果で助かったのか確信できないからだ。
たとえ今回のコラボで500人の人が助かったとしても、その中に留美さんのお母さんが居るとは限らないのだ。
なんかモヤモヤする⋯⋯。
何もしなくても同じ結果だったんじゃないかとか思ってしまうのだ。
たくさんの人たちを巻き込んで行われた今回の騒動。
それを僕だけの手柄にしていいはずがない。
⋯⋯だから。
「みんなでお礼しようよ」
「⋯⋯そうね」
「私たちの義務だもんね!」
「そうね、しましょう! みんなにありがとうって言わなきゃ!」
こうして僕ら4人は大慌てで動画の配信を始めるのだった。
ファンのみんなに助かった命の報告が出来て本当によかった⋯⋯。
そして冷めきった夕飯を食べに戻ると⋯⋯。
「なによコレ!? 私のピーマン、マシマシなんだけどっ!」
そんな姉を見て僕らは笑い合った。
これが僕らが勝ち取った、これからも続く日常なのだと──。
── ※ ── ※ ──
『皆様にご報告します。 本日ドナーが見つかったというお便りを頂きました、今回のコラボをやってよかったと思いました。 協力してくれた全ての人たちに感謝します、ありがとうございました』
ちょっとだけ脚色された報告だったけど⋯⋯。
ファンのみんなも喜んでくれた。
厳しい現実と優しい夢の世界。
その二つを繋ぐ世界がそこにあった。
『声』の力でその世界は存在している、その幻想の世界の名はヴァーチャル・ワールド。
そしてボクはその世界のアイドル『Vチューバーアリス』なのだ!
これからもそれは続いていく。
僕が愛し、ボクたちを愛してくれるこの世界をこれからも楽しませ、楽しみ続ける。
⋯⋯これからも。
いつまでも。
── ※ ── ※ ──
「ねえお母さん。 みんながお母さんのために力を貸してくれたんだよ」
「はいはい、またアリスケ君のお話ね」
「⋯⋯そんなに何回もしたっけ私?」
「あら? 自覚ないのねこの子ってば」
「もうっ、違うわよ! アリスケ君は! ⋯⋯アリスケ君は」
「素直になりなさい留美。 それにしても今日は綺麗な青空ね」
「⋯⋯そうね」
病院の窓からお母さんと一緒に見上げる空はどこまでも晴れ渡っていた。
まるで天使が祝福しているかのように⋯⋯。
「ありがとう⋯⋯アリスケ君」
口にするとなんだか胸がぽかぽかする⋯⋯。
「あらあら⋯⋯」
「⋯⋯いいじゃない。 ⋯⋯──なんだから」
ある日突然現れた不思議な少年は⋯⋯、
今日この時、私の『特別な人』になった。
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