Ⅻ ナイトの称号

 平民のなかには貴族を毛嫌いする者が一定数いる。逆にそれ以上に、貴族的な生活に憧れ、Bランク以上の冒険者を目指す者も多数いる。


 魔力を使いこなす血統である貴族は、労せずともCランクくらいの力はある。つまり、貴族ならみな、至近距離で飛んでくる矢を手でつかみとることができる。


 魔力をまとい、身体強化によって筋力はもちろんのこと動体視力も高めることができ、平民から見れば、生まれながらの剣術の達人である。そのうえ高名な師を得て相伝の特別な魔法を修得している。


 BランクとCランクの大きな違いは空中戦ができるかどうかだ。Bランクは、おもに魔力壁を使って、高くジャンプしたり、空中で自身の動きを急激に変化させたりできる。


 すなわち空間を立体的に動き回ることができる。そうなるとCランクでは太刀打ちできない。防戦一方となる。


 「Bランク認定を希望するのは彼女だけだ。才能があるので──」


 私はミリフィアを指して、受付の女性に、やや強い口調で、そう申し出る。


 (アトマは?)


 すぐさまミリフィアの念話が入る。


 (必要ない。たぶん戦うことがないだろうからね。けど、ミリフィアは違う。心が弱いから、戦う必要が出てくるんだよ。そのときCランク冒険者だったら、そのことが足枷になってしまう。それにBランク認定は、ミリフィアの身分を保証してくれる)


 「わかりました」


 受付の女性はかしこまると、先ほど来、私たちのランクチェックをおこなっていた女に目配せをした。人を呼びに行かせたようだ。


 私たちはふたたび中庭に移動させられて、


 「認定試験といっても特別なものではありません。はしごを使わず、この試練の塔に駆け上がって、適当に空中移動しながら降りてくるだけのことです。やり方は魔法の瞬間移動のようなものでも構いません」


 そのとき人を呼びにいった女が、中年の男を連れてやってきた。にこやかな顔つきのその男は、


 「へえ、こんなお嬢さんが──」


 一般的にBランク認定を希望する者は、あらかじめ魔力壁を使ってのジャンプが必須だということがわかっているので、当然みなできるようになってから認定試験を受けるのがつねだ。だからその男も、Bランク認定に伴うナイトの称号カードを発行するために、ただ確認のために見に来たにすぎない。


 ミリフィアはいちど軽くジャンプしてから魔力壁を出して駆け上がり、塔の上までたどり着く寸前に、その勢いを殺すために足を空に突き出して半回転してからてっぺんに降り立つ。


 すぐにも飛び降りると、回転しながら何度か軌道を変えて、不規則な移動ができることを見せ、どんな体勢でも魔力壁が使えることをアピールした。審査する側は、審査される側が、自分たちの意図をちゃんと理解しているかも審査している。


 魔力操作のできる者の知能が低いということは基本的にあり得ない。しかし例外は必ずある。その例外を見つけるのもギルドの仕事だ。


 平民の集まる冒険者ギルドでは、Bランク認定される者はたまにしかいない。後見人として私もミリフィアと一緒に2階の別室に連れて行かれた。


 ミリフィアは、途中からやってきた男と受付の女性の二人から、ナイトの称号カードを授与され、その説明を受ける。彼らも出自を明かさないが貴族だろう。物腰からそれが察せられる。男は、ミリフィアに向かって、


 「ナイトの称号カードは、あなたが貴族と同等であることを証明しますが、貴族と対等であると勘違いしないでください。かりに貴族とのあいだにトラブルがあって、あなたに明確な正当性が確認できなかった場合、一方的に処分されます。貴族に逆らったということで、罪は重いですよ。気をつけてください」


 過去に何かあったのか隣にいた女性も気を遣って補足をする。


 「明確な正当性ですよ。自分たちがそう思っているというだけでは不十分です。そのことも念頭に置いて行動してください」


 ミリフィアはすでにAランク以上の実力はあった。だが、冒険者ギルドにはAランク認定を下す裁量はない。


 Aランクへ昇格は、超弩級の魔法が使えたりすることで推薦されるが、空に浮かび上がる空中浮遊もその一つである。本来、空気中の魔素を理解し、魔素に魔力で自身の体を乗せることで、人は空に向かって浮遊することができる。つまり、空が飛べる。


 魔素を理解しえない者の空中浮遊は、魔力壁を使ったジャンプであり、跳びはねた勢いを魔力でコントロールしたものにすぎない。勇者の空中を駆け巡る疾走も、魔力壁の上をただ走っただけだ。


 だが、人々はそういったものでも、人が空を飛んだり、空を自由に動き回るという現象に、畏怖の念を感じる。


 それに加えて、ふだん見たこともない規模の大きな魔法は、まるで神が起こす奇跡のように受け止められる。だから貴族といえど、Aランク冒険者となると尊敬や崇拝の対象となり、その認定に際しても多くの意見が取り入れられる。冒険者や人々のあいだでは信憑性のない噂までされて、さまざまな評判も立つ。


 ギルドの二人はミリフィアに、


 「今後の活躍によって、あなたはAランクに昇格できるだろうと思いますよ」


 「私もあなたにはAランク冒険者になってほしいですね。なにせ才能があるので──」


 女性は最後に横目で私を見ながらそう言った。


 魔力を持つ者は、非凡な力を得ると人格を失い、魔物堕ちする場合がある。ギルドの二人はわずかな時間であったが、ミリフィアの態度から人となりを判断して、期待をかけているのだろう。


 私たちは部屋を出た後、1階に降りて、仕事の依頼内容が貼られている掲示板をしばらく眺めていた。魔獣の高額な買取も出されていて、ガンゾーイやソニンが大金をせしめただろうと想像する。


 彼らは、冒険者にはなっていないし、なるつもりもないだろうが、実力としては、Aランクを超えたSランクだ。しかしそれはここでは想定外のものとされている。


 じつのところ魔素と同様に、超越域や神域も、ほとんど一般的には知られていない。一部の者たちを除いては、伝説や神話の話であり、それらがほんとうにあるのかどうさえも判断できず、低層の巷では、いろいろ尾ひれのついた与太話として取り扱われている。


 冒険者ギルドの外に出ると、私はミリフィアに言った。


 「城壁の外にテント村があって、そこで多くの冒険者が旅に出る前にいろいろ準備をするみたいだ。訓練場があって、修行したり、パーティーのメンバーを集めたりしてね。そこに行ってみようか」

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