第2章 王都までの道のり

Ⅰ 目覚めの朝

 夜が白み始めて、私は結界の樹木の下に戻り、ミリフィアの肩を揺らした。日の出ごろには出発するため、ミリフィアに食事をとらさなければならない。けっきょく彼女は、昨夜、あのまま眠ってしまった。


 「目が覚めた?」


 「え、あ」


 と言いながら、ミリフィアはきょろきょろとまわりを見る。それから自分の体を見て、不思議そうにする。


 「なにかした?」


 「いたずらとか?」


 私は笑いながら、


 「なにもしてないよ」


 「うそ。絶対なにかした」


 ミリフィアは戸惑いながらも、


 「こんなにぐっすり眠れたことなんかなかったのに」


 「ああ、それね。君のまとってた魔力を外側から調節しておいた。薄くて硬いままだったから。寝る時くらい緊張を解いて厚くしておいたほうがいいよ。クッション度が増すから。べつにそれで魔力の消耗が激しく増えるわけじゃないし」


 「…………」


 ミリフィアは立ち上がり、衣服をかるく払い、伸びをする。全身の魔力の調節し、体を動かす。力も抜けていたので気合いを入れるようにぐっと力を入れる。


 「食事は、食べ物は、あるんだよね? ここを出る前に、何か食べておいたほうがいいよ。そのために起こしたんだ」


 ミリフィアは腰を下ろし、収納魔法で亜空間から水袋を取り出した。一口飲むと、もう片方の手にはサンドイッチがあった。それを頬ばる。小さな口をもぐもぐとさせる。


 「いや、そんなに慌てて食べる必要はないから」


 ふたたび水袋を手に取り出し飲むとミリフィアは、


 「アトマはもう食べたの? なかったら食べるもの、分けてあげようか。肉でもスープでも何だってあるよ」


 「あ、いや、いい。充分にとった」


 嘘だった。私はこの世界では眠らなくてもいいし、何も食べなくても問題はない。もちろん食べても問題ない。


 しかし、それは、この世界のみでの話。この世界を築く現実の世界においては違う。


 「神が死んだ……」


 私はなんとなくそれを口にしてしまった。


 「神が死んだんだ、この世界のもとの神が……」


 ミリフィアには何のことかわからないだろう。だけど、私は彼女に疑問を投げつける。彼女の顔を見て、


 「生きている世界って、なんだろうね」


 「…………」


 サンドイッチを食べながら、ミリフィアは私の話を黙って聞いている。それは、私がそうさせているのか、しぜんの流れなのか。


 「神って、神様のこと? アトマは神様に会ったことがあるの?」


 さすがに人格化した神などこの世界においても信じられてはいないが、魔女や魔人といったものと同様に、そういった属性をもつ種族が存在していても違和感はないと思われている。


 「その話はやめておこうか。こんどにしよう」


 私にはガンゾーイやソニンがこちらに近寄ってきているのがわかった。ミリフィアも察した。日の出を迎えあたりも明るくなっていた。


 朝のあいさつがわりにガンゾーイが王都までの道を確認してくる。私はガンゾーイにどれくらいかかるか聞かれたので、


 「王都までは、歩いて行くと、余裕をもって、1週間はかかるかな。もし途中の村に寄って乗合馬車に乗ると3日くらいで着くよ。方角がズレるけど町に向かって、そこの転移の神殿に神官がいれば、そこからは一瞬にして行けるね」


 「神殿はこの近くにあるのか?」


 ソニンが聞く。


 「大きな町にしかないから、ちょっと遠いかな。もちろん王都よりかは近いけど。あー、あと転移には、それなりにお金がかかる。最低でも金貨30枚以上──」


 「転移は必要ないな。王都までのこの大陸のようすを見ておきたい」


 ガンゾーイが言う。つづけて、


 「このまま歩きでいいだろう。もし魔獣がいれば狩っておきたいし」


 私はいちおう他の選択肢も提案しておく。


 「馬車は? あ、そういえば、トリ馬もある」


 トリ馬は二足歩行の大型の鳥類で、飛べないが、馬より足が速い。


 「トリ馬を借りるとたぶん1日2日で着くよ」


 「急ぐ旅でもない」


 とソニン。


 ま、ようするに、二人とも顔には出していないが、未練があって、一日でも長くミリフィアと一緒にいたいってことだ。


 つまり徒歩で行くのは最初から決定事項。魔力のせいで勝利至上主義や実利主義に染まっているものと私は勝手に決め込んでいたが、実際はそうでもない。この世界も捨てたもんじゃない。情緒的な感情を優先させようというのがある。


 曇り空だったが陽が昇り、清々しい朝だった。ガンゾーイとソニンが前をゆく。私はミリフィアの横に並んで彼らの後ろについて歩く。


 しばらく経ってから、私を除いた、彼ら三人の念話が始まった。


 (昨晩はどうだった? どこの貴族だった?)


 ソニンがミリフィアに聞く。


 (わかりません……)


 (何を話した?)


 (やっぱり魔獣は魔族の仕業だと。魔族の話で、自分が抑えられなくなりました)


 (はっは。そりゃアトマもびっくりしたろ)


 とガンゾーイ。


 (あー……、奴は、紳士だったか?)


 ソニンがなにやら言いにくそうに聞く。


 (はい。言われたとおり、隣に座りましたが、私の体に触れてくるようなことは一度もなかったです)


 念話はそれっきり途絶えた。


 ミリフィアはひとり考え事をしていた。ガンゾーイとソニンの後ろ姿を見ながら。これまでと違った不思議な違和感を覚えた。


 彼らは何者なんだろう──。ミリフィアは私の話を思い出し、これまでは当たり前のことだったことに疑念をいだく。二人とも役柄を演じている? 自分がない?


 夜が白み始めて、私は結界の樹木の下に戻り、ミリフィアの肩を揺らした。日の出ごろには出発するため、ミリフィアに食事をとらさなければならない。けっきょく彼女は、昨夜、あのまま眠ってしまった。


 「目が覚めた?」


 「え、あ」


 と言いながら、ミリフィアはきょろきょろとまわりを見る。それから自分の体を見て、不思議そうにする。


 「なにかした?」


 「いたずらとか?」


 私は笑いながら、


 「なにもしてないよ」


 「うそ。絶対なにかした」


 ミリフィアは戸惑いながらも、


 「こんなにぐっすり眠れたことなんかなかったのに」


 「ああ、それね。君のまとってた魔力を外側から調節しておいた。薄くて硬いままだったから。寝る時くらい緊張を解いて厚くしておいたほうがいいよ。クッション度が増すから。べつにそれで魔力の消耗が激しく増えるわけじゃないし」


 「…………」


 ミリフィアは立ち上がり、衣服をかるく払い、伸びをする。全身の魔力の調節し、体を動かす。力も抜けていたので気合いを入れるようにぐっと力を入れる。


 「食事は、食べ物は、あるんだよね? ここを出る前に、何か食べておいたほうがいいよ。そのために起こしたんだ」


 ミリフィアは腰を下ろし、収納魔法で亜空間から水袋を取り出した。一口飲むと、もう片方の手にはサンドイッチがあった。それを頬ばる。小さな口をもぐもぐとさせる。


 「いや、そんなに慌てて食べる必要はないから」


 ふたたび水袋を手に取り出し飲むとミリフィアは、


 「アトマはもう食べたの? なかったら食べるもの、分けてあげようか。肉でもスープでも何だってあるよ」


 「あ、いや、いい。充分にとった」


 嘘だった。私はこの世界では眠らなくてもいいし、何も食べなくても問題はない。もちろん食べても問題ない。


 しかし、それは、この世界のみでの話。この世界を築く現実の世界においては違う。


 「神が死んだ……」


 私はなんとなくそれを口にしてしまった。


 「神が死んだんだ、この世界のもとの神が……」


 ミリフィアには何のことかわからないだろう。だけど、私は彼女に疑問を投げつける。彼女の顔を見て、


 「生きている世界って、なんだろうね」


 「…………」


 サンドイッチを食べながら、ミリフィアは私の話を黙って聞いている。それは、私がそうさせているのか、しぜんの流れなのか。


 「神って、神様のこと? アトマは神様に会ったことがあるの?」


 さすがに人格化した神などこの世界においても信じられてはいないが、魔女や魔人といったものと同様に、そういった属性をもつ種族が存在していても違和感はないと思われている。


 「その話はやめておこうか。こんどにしよう」


 私にはガンゾーイやソニンがこちらに近寄ってきているのがわかった。ミリフィアも察した。日の出を迎えあたりも明るくなっていた。


 朝のあいさつがわりにガンゾーイが王都までの道を確認してくる。私はガンゾーイにどれくらいかかるか聞かれたので、


 「王都までは、歩いて行くと、余裕をもって、1週間はかかるかな。もし途中の村に寄って乗合馬車に乗ると3日くらいで着くよ。方角がズレるけど町に向かって、そこの転移の神殿に神官がいれば、そこからは一瞬にして行けるね」


 「神殿はこの近くにあるのか?」


 ソニンが聞く。


 「大きな町にしかないから、ちょっと遠いかな。もちろん王都よりかは近いけど。あー、あと転移には、それなりにお金がかかる。最低でも金貨30枚以上──」


 「転移は必要ないな。王都までのこの大陸のようすを見ておきたい」


 ガンゾーイが言う。つづけて、


 「このまま歩きでいいだろう。もし魔獣がいれば狩っておきたいし」


 私はいちおう他の選択肢も提案しておく。


 「馬車は? あ、そういえば、トリ馬もある」


 トリ馬は二足歩行の大型の鳥類で、飛べないが、馬より足が速い。


 「トリ馬を借りるとたぶん1日2日で着くよ」


 「急ぐ旅でもない」


 とソニン。


 ま、ようするに、二人とも顔には出していないが、未練があって、一日でも長くミリフィアと一緒にいたいってことだ。


 つまり徒歩で行くのは最初から決定事項。魔力のせいで勝利至上主義や実利主義に染まっているものと私は勝手に決め込んでいたが、実際はそうでもない。この世界も捨てたもんじゃない。情緒的な感情を優先させようというのがある。


 曇り空だったが陽が昇り、清々しい朝だった。ガンゾーイとソニンが前をゆく。私はミリフィアの横に並んで彼らの後ろについて歩く。


 しばらく経ってから、私を除いた、彼ら三人の念話が始まった。


 (昨晩はどうだった? どこの貴族だった?)


 ソニンがミリフィアに聞く。


 (わかりません……)


 (何を話した?)


 (やっぱり魔獣は魔族の仕業だと。魔族の話で、自分が抑えられなくなりました)


 (はっは。そりゃアトマもびっくりしたろ)


 とガンゾーイ。


 (あー……、奴は、紳士だったか?)


 ソニンがなにやら言いにくそうに聞く。


 (はい。言われたとおり、隣に座りましたが、私の体に触れてくるようなことは一度もなかったです)


 念話はそれっきり途絶えた。


 ミリフィアはひとり考え事をしていた。ガンゾーイとソニンの後ろ姿を見ながら。これまでと違った不思議な違和感を覚えた。


 彼らは何者なんだろう──。ミリフィアは私の話を思い出し、これまでは当たり前のことだったことに疑念をいだく。二人とも役柄を演じている? 自分がない?

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