第29話 シルビア商会の制圧

 ギルドマスターが前方から飛んでくる暗殺者四人を相手するために、俺とフォルダクを通り過ぎていく。


「ふん。舐められたモノだな……ッ!」


 フォルダクが懐から暗器を取り出して、俺に投げ込む。


 俺の心臓や関節部分に的確に刺してくる。


「…………カゲロウか」


 後方から俺の殴りを見切ってその場から消えた。


 やはり戦い慣れしている。


「ただの小僧だと思ったら、中々どうして」


「油断させて取れると思ってたのに、さすがに強いですね。シルビア商会の店長を任せられているだけはありますね」


だけ・・とはまた面白い」


 彼の全身から黒い湯気のようなモノが立ち上る。


 僕も全身に闘気を集めて彼にぶつける。


 闘気は母さんから教わった戦術で、体内の魔力を練り上げて全身を覆わせる力だ。


 これだけで刃物や魔法すら無効化させる事ができる。


 彼が持つ短刀を左手で握り止める。


「!?」


 すぐに右手の拳で彼の顔面を目掛けて殴りながら、握った左手の短刀を捻る。


 たった一瞬のはずなのに、彼の反応は凄まじくて短刀を放して、俺の右手の殴りをぎりぎり避ける。


 拳が宙を舞うタイミングで、懐に入ってきた彼の膝蹴りが俺の腹部に叩き込まれた。


 空気を押しやる音と共に俺の身体が後方に大きく飛ばされるが、何とか地に付けた足で倒れる事は免れた。


「その歳でその闘気。只者じゃないですね。戦い方が幼い割には…………才能にしても違うな?」


 この一瞬でそこまで分析できるのか。


 俺達が思っていた以上に強い。が、負ける気はしない。


 闘気を足に集めて地面を蹴り出す。


 一瞬での動きではこれが最速で動ける。


 フォルダクが反応し切るまでに俺の右手肘打ちが彼の腹部に刺さる。


 目と目が合った直後に彼の身体が後方に大きく吹き飛ばされて洞窟の壁に直撃した。


 すかさず飛び込み、壁に埋もれている間に攻撃を叩き込む。


 カゲロウではないので本体なのは間違いない。


 腹部や両足を重点的に攻撃を叩き込むと、彼の口から吐血が吹き出す。


 数回殴って気を失ったように見えるので、両手両足にハガネソウを付けておく。


「さすがだな。あの強者をいとも簡単に捕まえるとはな」


「マスター。無事で何よりです」


「なに。フォルダクに比べりゃ、あれは赤子の手をひねるようなモノだからな」


 マスターが倒した暗殺者四人の両手両足にもハガネソウを取り付ける。


「さて、そろそろ上も終わりましたかね」


「そうだな。上手くいっているはずさ」


 俺達は捕まえたフォルダクと暗殺者達を連れて地下を後にした。




 今回の作戦は国との陽動作戦である。


 シルビア商会は表上、最もホワイトな商会だ。


 だがその地下には国を陥れるかのような『デスブリンガー』が所狭しと栽培されていたのだ。


 一週間前。


 奴隷商に行く前の段階で、俺は道しるべの地図で『デスブリンガー』が地下で栽培されている事に気づいていた。


 奴隷の事や依存性のある薬物に関して知った時、真っ先にこの『デスブリンガー』を知る事ができた。


 俺の力では、『デスブリンガー』の栽培地は知る事ができても、採取されてからの移動は分からないが、地図からその場所に繋がっている場所を見つけるのは簡単だ。


 さらに森の呪いで王国から膨大な報酬額を受け取っているという集団も気になって、ギルドマスターに色々相談した結果、俺達はとある作戦を広げる事になった。


 全部で三段階あるうち、一段階目は奴隷商ドスグ・ロブータの弾圧。


 二段階目がシルビア商会の弾圧だ。


 そして、最後の事を起こすために、このままシルビア商会を調査する事になる。


 俺達が地下に来ると、恐らく戦える兵力が地下に集中すると思われ、その間に王国軍による制圧の手筈になっている。


 地下から続く道をたどり、隠れ扉から外に出ると建物内が騒がしい。


 入った道の逆を辿っていくと、店内に繋がっており、店内に出ると王国の騎士達が既に制圧を終えていて、店員達が困惑した表情を浮かべて同じ場所に集まっていた。


「ベルハルト様。例のモノが地下にありました」


 マスターが取り出すのは――――燃えたはずの『デスブリンガー』だ。


 実は燃やすふりをして、俺が一瞬で採取したから、一つも燃えていない。


「間違いない。『デスブリンガー』だな」


「全て燃やしているので、残るのはそれだけですが、地下に証拠がまだ沢山残っています。種など確認しています」


「感謝する! 場所を案内してもらおう」


 それからベルハルト様を地下に案内して、さらに地下に集まっていた資料を見つける事ができた。


 建物の中に怪しい証拠はどこにも見当たらなくて、全て地下にあったのだが、どうやら地下を知っているのは店長のフォルダクと僅かの人しか知らない事実だった。

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