第19話 白状
ギルドマスターの部屋に連行された俺は、逃げられないように両腕の自由を奪われている。
普段ならこの腕に当たっている柔らかいモノに鼻を伸ばしていても、なんらおかしくないだろう。
だが、彼女達から送られてくる満面の笑みは、恐怖そのもので現状を味わる事もできず、謎の冷汗が背中を流れた。
「それで? どうしてアルマくんがここに?」
「あ~るま~く~ん」
「ど、どうしたんだい? シャリー」
「えへへ~エンガリア森の植物がね~ぜ~んぶ~なくなったんだって~」
「あはは……そ、そうみたいだな…………」
「あのね~アルマくんの秘密を探りたい訳ではないの。でも王都の多くの人が困るのだけは避けたいんだ」
シャリーの優しさがこもった言葉は、他人を思いやる優しさが簡単に垣間見えた。
そんなつもりでした訳ではなく、どこかゲーム感覚で取れるモノを全部取っちゃえと思って、地図に映っていた植物を全て採取した。
この世界に来て十年間アルキバガン森で採取を行っていたのも、どこかゲーム感覚で、もしもの時は使うだろうという軽い気持ちで採っていた。
俺の右腕を抱きかかえているシャリーからは、優しさ、心配、そして悲しみの感情が伝わってきた。
「…………ごめん。実はエンガリア森もアルキバガン森も植物が全てなくなっているのは俺のせいなんだ」
両腕が解放される。
そして、右手に暖かい感触が伝わってきた。
「良かった…………呪いとかじゃなくて」
「えっ? お、怒ら……ないのか?」
「うん。アルマくんが悪意を持ってやっていない事は知っているから。もし悪意を持ってやっていたら、こうして打ち明けてくれなかったと思う。ねえ、アルマくん? 森がどうしてああなったとか聞いてもいい?」
意外というか、シャリーもミールさんもギルドマスターも怒ったり困惑した表情は一切浮かべていない。
前世では少しのミスで怒鳴り散らす先輩がいたり、自分のミスをさも俺のミスだと無理矢理押し付けてくる先輩、普段は仲良い
異世界に来て、母さんや妹弟だけでなく、こうして暖かい人達に囲まれて、本当に嬉しい。
「任意で自分の周辺の植物を採る事ができるんだ。アルキバガン森はずっとそこで採取していたから、みんなが呪いと呼んでいるモノは恐らく俺が毎日採っていたからだと思う。エンガリア森も昨日入口で全部俺が採ってしまったから…………」
「なるほど。それであんな大量の採取依頼が間に合ったのね。不思議だと思っていたけど、さすがに神獣様のお兄さんなだけの事はあるわね」
「うむ。俺も長年色んな冒険者を見て来たが、聞いた事もない力だ。植物を探すスキルはあっても採るスキルは初めて聞いたな。となると、非常に困る事があるな」
ん? 困る事?
シャリーがすかさず口を開いた。
「ギルドマスター。困る事ってなんですか?」
「アルキバガン森の出来事は長年『呪い』という事になっているんだ」
「なっている?」
「ああ。――――――『理の教団』。彼らはアルキバガン森を呪いを称し、周辺に呪いが拡散しないように王都に祝福を与えていることになっている。もちろん、多額の報酬を貰ってね」
「っ!? 犯人はここにいるのに、どうして教団は?」
「恐らく、この機に乗じて、私欲を満たしているのだろうな」
どこの世界にも私利私欲を満たすモノは存在する。
前世でもインサイダー取引を禁止しているけど、法を掻い潜ってそういったところで自分だけ莫大な利益をだしている人もいる。
恐らく、その教団というのも、アルキバガン森で俺が植物を毎日採取してしまう事を逆手に取り、王国から多額のお金を巻き上げていたのだろう。
そう考えると…………少しムカつく。
犯人が俺で、俺のせいで困っていた人達が沢山いたのに、それをさらに逆手に取り利益を出すなんて。なんだか許しておけないな。
「それに最近は王都で禁止されているモノが出回っていたりする。その中でも一番被害が大きいのは、底辺冒険者で、いつの間に薬物に手を出して多額の借金をして奴隷堕ちまでなっている者も多い」
「奴隷!?」
ギルドマスターの言葉に思わず声をあげた。
奴隷って前世だと全く持って無縁なモノで、本の中だけの存在だと思っていたから。
それがまさかここで聞く事になるなんて、想像だにしなかった。
「アルマくん。奴隷が何かは分かるよね?」
「何となくですけど…………首輪に繋がれて、主人の命令を聞く者ですよね?」
「ええ。でもアルマくんが想像するよりもずっと酷いモノだと思ってちょうだい。王国としても奴隷は非推奨しているだけで、拒否しているわけではないの。だから表立って開いていないけど、奴隷市場なんて平然と行われているの。冒険者は…………一番良い
まだ異世界の事を知らずにいた俺には、その言葉は衝撃的なモノだった。
母さんの子供として生まれて、その優しさに触れて、可愛い妹弟に囲まれて毎日楽しそうに過ごしていた。
日々弱っていく母さんを見て辛かったけど、それでも俺達の間には確かな絆があって、暖かい気持ちになれた。
俺はどこかで異世界は全てそういう世界なんだと勘違いしていた。
その大きな牙が俺に剥く気がした。
異世界は俺が思っていたよりも、ずっとずっと悲しい世界という事が、ようやく分かった気がした。
その時、俺の持つ『道しるべ』の力が一瞬だけ光っていたのだが、俺はあまりの衝撃にそれに気づく事ができなかった。
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