第26話 「初恋」待ち合わせ

ヤマトは思い切り早く集合場所に付いてしまった。

土曜日の正午。繁華街の待ち合わせ場所によく使う場所だった。

予定よりも30分も前についたヤマトは落ち着き無くフラフラとしていた。


昨日の帰り道、東一郎に今日の日のことを話した。


「え?マジで!?お前やるなぁ!一緒について行ってやろうか?」

東一郎は真面目な顔で無粋な事を言っていたが、ヤマトは丁重に断った。

こういった時の東一郎は、特に茶化したりニヤニヤしたりしない。真摯に応援している態度だった。


ただし東一郎に何をすればよいのか聞いてみた。


「なぁ、どういう態度で、何すればいいのかな?」

「ああ、いや、普通にしてればいいんじゃん」

「いや、でも…」

「多分頑張ろう!って言っても空回りするから、いつものヤマトでいれば良いと思う。オレは。」

東一郎はそう言って親指を立てた。


ヤマトは水島瞬という男が分からなくなっていた。

以前の水島瞬と違い、堂々としていて物怖じしない。突然絡んでくる不良生徒を叩きのめしたり、先生に対しても普通に冗談を言い、クラスメイトの誰しもが認める存在になった。そしてとても魅力的な男にみえるのだ。

一点欠点を上げるとしたら、勉強が全然できなくなったことと、妙に子供っぽいことや意味不明な事をする時があるということだろうか。


とはいえ、一人の男としては完全に負けたという思いだ。

一番近くにいて、自分とは真逆の男。同級生とはいえ、そんな男になりたいとヤマトは真剣に思っていた。


そうこうしている内に待ち合わせの時間近くになった。

辺りをキョロキョロとヤマトは見渡した。


遠くから山口あかりが歩いてくるのが分かった。

学校の制服姿とは違い、私服姿の彼女はとても可愛らしく見えた。

ヤマトは緊張してる自分を感じて、驚いた。


「おまたせ!まだ時間前だよー」

山口あかりは明るい声でヤマトに声をかけた!


「おはよう!ちょっと早く来ちゃったよ」

ヤマトは無理やり笑顔を作っていった。


「おはようって時間じゃないよね」

そういうと、山口あかりは可笑しそうに笑った。


山口あかりはよく笑う子だった。彼女は決して目立つタイプの子ではないし、クラスで発言をするタイプでもない。友達と一緒にいるが目立つグループではないので、こちらから注視しない限りあまり目につくと言うことはない。

にもかかわらず、彼女の印象はいつも笑顔であることだった。


「なんか不思議だね。学校の外でクラスメイトと会うなんて」

あかりはそう言うと、ヤマトに向かっていった。


「そ、そうだね。でも、なんか新鮮じゃない!?」

ヤマトは浮かれた気分をバレないように平静を装った。


「確かにね。新鮮だ。今日はどうする?どこ行こう?」

あかりはそう言ってまたニッコリと笑った。

私服姿のあかりは、幼くもあるがとてもかわいらしく、ヤマトの胸は高鳴った。


ヤマトは実は東一郎に相談していた。

デートをするにはどうしたら良いのか?どこにけばよいのか?大してアテにせずに聞いてみた所、存外まともな意見が返ってきたのでヤマトは驚いた。


東一郎の意見はシンプルで、特別なことをやろうという考え自体が要らない。

最初のデートなんて街ブラブラして、お茶して、映画見て、公園ぶらついてそれであっという間に一日終われば成功だそうだ。


どこに行こうとかは、二人で決めればよいし、それで合わない、つまらないならハナから相性が悪いってこと。頑張って一緒にいる必要がない。


ヤマトは東一郎の意見を聞いて、非常に納得した。但し水島瞬が彼女がいたという話も聞かないし、何故こんなにベラベラと喋れるのだろうと不思議に思った。


東一郎は一応プランを示した。

基本はお互いのことを知る良い機会なんだから、いろんな事を話すべきで、頑張ろう!という気合は不要。

なので、まずは街を散策、ちょっと疲れたらファーストフードかコーヒーショップで休憩。その間に行きたいところを決める。映画・ボウリング・ゲームセンターなどなど好きな所に行けば良い。その後に、時間があれば公園とかをぶらつき、家に送る。


ざっとこんな感じだった。


なので、ヤマトは最初は街を歩こうというつもりであった。


「ねぇ、山口さん何か行きたい所、やりたいことってある?」

「うーん、別に特に決めてないけど、せっかくなら映画みたいかな」

「あ!映画かぁ。良いねぇ!じゃあ、映画館にフラフラ歩きながら向かおうよ」

「うん。いいよ。ウィンドウショッピングだね」


あかりはそう言うと、ヤマトの横に来てゆっくりと街の方へとあるき出した。

今日は気温が低かったが、爽やかな空気だ。冬の空はとても澄んでいて遠くの山も都会からもよく見えた。

ヤマトは自分の隣のあかりを見た。とても可愛らしい少女は一瞬戸惑った後また笑った。

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