7.日本の状況とこれから
耳に当てたスマホから、コール音が鳴る。
俺がどこに電話をかけているのかといえば、119だ。
危険地帯に取り残されてしまったこの状況で、どこに助けを求めていいのかわからなかったのでとりあえず救急に連絡してみることにしたのだ。
ダンジョンができる以前は119といえば数コール以内には電話に出るものだったはずだが、俺はすでに1分くらいコールし続けている。
変わってしまった世界では、救急も大忙しか。
数分コールし続けてようやく電話がとられる。
『こちら119です。火事ですか?救急ですか?』
電話に出た男の声は、幾分か疲れているように感じた。
俺は今の状況を伝えていく。
「……というわけで、危険地帯に取り残されてしまっているんですよ」
『なるほど。状況はわかりました。ですが我々消防にできることは無いかもしれません。申し訳ありません。それと、あなたの位置情報が把握できないのですが、何か特別な通信方法でも使っていらっしゃいますか?失礼ですがいたずらではないですよね』
まさかのいたずらを疑われてしまった。
俺のスマホは引きこもりスキルの力を使って繋がれているからなのか、場所の特定ができないらしい。
スマホのGPS機能も有効にしているんだがな。
救急は基地局とGPSから位置情報を取得するシステムを使っていると聞いたことがある。
俺のスマホはそのどちらも把握することができないので、何か位置情報を知られたくない事情でもあると思われたのかもしれない。
普通に考えて助けてくれって電話かけてきた奴が位置情報を隠していたらいたずらを疑うのも仕方ないよな。
俺はスキルの力であることを説明した。
「……だからいたずらではありません。信じてもらえないかもしれませんが」
『いえ、こんな時代ですから。そういうこともありますよね。こちらこそ疑って失礼しました』
「それで、自分はどうしたらいいんでしょうか」
『危険地帯からの民間人の避難誘導は自衛隊が行っております。こちらは消防ですので……』
「じゃあ自衛隊に連絡すれば助けに来てくれるってことですか?」
『いえ、自衛隊は都道府県知事が出動を要請するものでして……』
「そうですか、一般人の自分には……」
『落ち着いてください。すぐに市区町村のほうに取り次ぎますので、そこから都道府県知事に報告を上げて、自衛隊に救助を要請してもらいます。ですのでそれまでなんとか持ちこたえてください』
「はぁ、お願いします」
『必ず助けは来ますので、希望は捨てないでください』
俺はお礼を言って電話を切った。
つい溜息が出てきてしまう。
いったい救助が来るまでにどれだけの時間がかかるんだ。
電話口の男の手慣れた説明から、きっと日本中から同じような連絡が来るんだろうなと思う。
通常数コール以内に出るはずの119に数分待たされたことからも、その連絡の多さが伺える。
自衛隊の数だって限られている。
ただでさえ現在自衛隊は日本中のダンジョンを攻略しているところなのだ。
半年経ってからこんな超危険地帯の真ん中に取り残された一人ぽっちの人間を助けに来るかどうかはわからない。
もしこの危険地帯から俺一人を助け出すために一人以上の自衛官の犠牲を覚悟しなければならないのだとしたら、そんな場所への自衛隊派遣はしたくないだろうな。
救急の人は希望は捨てるなと言っていたが、そんなに期待はできないかもしれない。
しかし俺はどうするべきかな。
できれば大勢の人がいるという安全地帯に逃げ込みたいところだが、俺が今いる街は安全地帯からかなりの距離がある。
周囲に安全地帯が無い危険地帯の中の危険地帯だ。
それに加えて、ダンジョンの難易度も問題だ。
ダンジョンには出現するモンスターの強さによってアルファベット順に5段階の危険度が設定されている。
危険な順に上からA、B、C、D、Eだ。
この街のダンジョンは天まで届くような巨大な塔の形をしており、危険度は文句なしのA、最強のモンスターであるドラゴンが守護しているという噂もある日本でも有数のヤバいダンジョンだ。
そんなヤバいモンスターで溢れた街を、俺なんかがフラフラ歩いて無事で済むはずがない。
ウロボロスやバロールのパッシブ効果の力で俺はかなりタフだろうが、それも魔力があればこそだからな。
魔力値12ではたぶんすぐに死ぬ。
「はぁ、どうするかな……」
こんなに途方に暮れたのは20代の頃に勤めていた会社が潰れたとき以来だ。
あんときは給料日間際になって経営者一族が夜逃げしやがったからかなり金に困って、普段から貯金することの重要性を思い知らされたんだよな。
そういえば今の日本って現金は使えるんだろうか。
ネットで調べてみると、最初の頃は現金よりも食料なんかの方が価値があったらしいが、今では普通に現金取引も戻ってきているらしい。
まあ危険地帯にはそんなこと関係無いんだがな。
店も無ければネット通販も届かねえよ。
とにかく今重要なのは食料だ。
スキルの力で飯を食わなくても死なないかもしれないが、腹は普通に減るのでその状態で耐え続けるのは地獄だろう。
食料はなんとかして手に入れなければならない。
俺は出不精なので家にそれなりのストックはあるが、それでも何か月も保つような量じゃない。
賞味期限も切れまくりだしな。
半年といえばカップ麺すらも賞味期限が切れるような年月だ。
どうにかして街に残っている食料を探しに行かなければならないだろうが、まともな食料が残ってることを願うしかねえな。
食料探し自体はスキルを上手く使いこなせればなんとかなりそうな気はしている。
明日から、スキルの特訓だな。
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