第46話 王女への謁見 4
「『なぜここにいるか』———ですか」
モエルの発言に、目を見開く王女サマだった。
驚いているのだろうか。
そりゃそうだ―――生まれて来た意味を教えろっていう、ある種壮大で、無茶振りな話に思える。
でも俺が聞きたいのはそうじゃあない。
必ず答えられるはずの問題だ、王女サマになら、答えられるはずだ。
モエルは異世界に呼ばれた。
だからこそここにいる。
一応魔獣討伐という職務は与えられているし、この街ではそれが人々の生活に密着していることも理解できた。
笑みすら浮かべるリイネ。
この質問は予想できていたらしい……、表情からわかる。
モエルは納得がいかない様子だが。
「『勇者伝説』のことは聞いた……説明はわかった」
グスロットにたどり着いた能力者、『地の果ての人』には、この世界の成り立ちと現状を知らされる
かつて住んでいた、あの世界のことしか知らないため、当たり前と言えば当たり前の説明である。
そして、勇者伝説には王女が現れる、登場する……。
「……リイネ王女さまよ。 あんたが俺を呼んだんだ……ってことでいいんだよな?」
地の果ての人、モエル。
異世界に顕現したのは、彼を呼び出した人物がいたからだ。
あんたが俺のマスターか?とまで言うつもりはないが、モエルはじっと見つめる。
この国の次期王女、リイネ・ヴ・スレ・グウス。
モエルは当初、出会った意味がわからない人物だったが、実際は必然だったのか?
しかしリイネは断るのだった。
「モエルさまがそう思われるのも無理はありませんね―――」
即座に否定しない辺りが、バッサリな女剣士との大きな違いだろう。
目元の辺りなど、柔らかい安心感を覚える……。
ミキとは大違いだ。
女剣士のぱっちりとした瞳は意思を曲げる様子がない。
容姿はともかくとして、視線にも違いがある。
これから戦場に行きますよというような、くわっとした目つきをする。
眼の力のみでモエルが「駄目だ、こいつ」と感じるのは久しぶりだ。
いや、久しぶりではないか……生きていれば、たびたび出会う。
苦手な女。
「現王女、オーティ……私の母が、召喚を行なっています」
「!」
モエルの予想は外れはしたが、それでもこの異世界で進展は得られた。
異世界に転移―――それを行なった張本人が、ついに判明した。
まだお目通りまでは叶っていないが、それでも大きな飛躍と言えよう。
モエルをこの世界に呼んだ者。
モエルをこんな目に合わせた存在、とも言える。
次は、どうやってその、元王女とお話しするかだが……いや、話してどうする?
「いずれはあなたがやるんでしょ?」
差し込んできたミキは、相も変わらずフツーの友達感覚で次期王女に話しかけている。
友人であることは間違いなさそうだ。
まあいいけどさ……王女に友達がいたらおかしい、とか叫ぶつもりはないけどさ。
モエルはむしゃくしゃする。
どういう関係……いや、最初というか、何きっかけだよ。
「グスロットには講習があってな……セミナーって呼んでいいのかわからんが、まあ状況は教えてもらった」
魔王は死んだ。
―――はげしい戦いの末、魔王はついに聖剣の力に敗れました。
しかし、全ての力を使い果たした勇者も、力尽きてしまいます。
勇者との戦闘による―――相打ち。
それが魔王の結末で、彼はもう死んでいる。
そのはずだ。
この国は、いや世界には、平和が訪れた。
そのことにモエルは何か思うところがあるのか。
「何かご不満でも?」
「……魔王は倒した。倒しちまった。 勇者サンにはまあ……役目を果たしたっつーか、偉いなあそういうヒトなんだなあってことは思ったけど、そうなるとわからないことはある」
地の果ての人は、必要だろうか。
モエルは、必要だろうか。
この世界には。平和になってしまったこの世界には。
「俺はなんなんだ、どうしてこの世界に呼ばれた?」
魔王がいなくなった世界に。
モエルが現れて、炎を使う必要は、果たしてあるのか。
モエルがこの街を守る必要は、あるのかもしれないが。
それにしたって、モエル以外にも戦力はある。
リイネは迷いなく答える。
「脅威と呼べるものは、確かに街に迫っています」
「……敵ってことか」
それはつまり、魔獣たちか?
そりゃあ俺だって体験している、経験している。
危険な奴らは街からそう遠くないところでうろついている。
虫みたいに湧いてきて、決して消えることはないだろうけれど。
「いえ、『魔王の脅威』は、未だ実在するのですよ」
王女は心配顔……憂いの表情になり、窓の外を見やった。
モエルはやや、首を傾げる。
魔王の脅威……?
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