第41話 困惑の討伐 2


 モエルは唸っていた。頭を抱えている。

 あれはどういうことなのだ。

 というようなことを考えているのだろう―――。


 ミナモは火属性男の上げた前髪を見下ろす。なおモエルは、頭を抱える段階は終えて、たまにかきむしる。

 俯き街のベンチに座っている。

 めっちゃストレートネック。

 ミナモはモエルの性質をすべては存じないものの、討伐しようとした獲物を横取りされた心境らしい。

 だから落ち込んでいるのだ。

 ―――馬鹿馬鹿しい。

 わかっていない。

 モエルくん、ほぼほぼ無傷であの夜を乗り越えられたことは、奇跡と言えるよ。

 初めて入る森で、視界も悪く、弱点も知らない巨大魔獣に立ち向かう。

 それも単騎ソロで。

 この手法で、街に対して貢献できる腹づもりだったらしいから、なんというか、怒りさえ湧かない。

 愚か、愚か。

 勉強せずにテストを受けたらどうなるか、それくらいは日本で学んでこなかったのかな。

 しかし———。



 どうも、森であの女性を見てから、モエルの動揺がひどいことだ。

 土厳塁根を斬撃(?)にて仕留めた『地の果ての人』———だと思うが、まったく知らない人間ではないらしい。


「見間違い……?じゃあ、いや、でもあのチカラはなんだ―――なんなんだ?」


 見たことがない―――やっぱり別人だとかブツブツと呟く火属性。

 動揺を続けているようだ。

 ああ、ミキの方がズバッと言うけれど、こういうところが湿っぽいんだろうなあ―――ミナモがなんとなく納得。



 モエルは大きな困惑を背負っていた。

 肉体的な傷はおっていない。

 ケガはしていない―――いや、あの激闘の中、タイヤのような太さの木の根の上を駆けまわるうちに、擦り傷くらいはついていたのだが。

 それよりも精神的な負傷が大きい。


 日々の魔獣討伐によって、シンプルの労働者として、質の良い前向きさを得ることが出来つつあったのだ。

 健全で、先輩たちから可愛がられる傾向もあった。

 本来ならば直情的、シンプルで真っすぐな頑張り屋なのだろう。

 だが昔の女を思い出す。

 思い出す羽目になった。


「ミナモ……!」


 モエルは語った、あの女性が、土厳塁根を倒した女が、自分の知り合いであるということ。

 でも見間違いだ。何せ、炎を操れるような女ではなかった、は。

 だからなぜこんなところにいるのかわからない。


 転移したのだろう、キミもしたのだから不思議ではない……とミナモは思った。

 モエルくんも思い至っているのではないか。

 もちろん、人違いの可能性はある。

 ボク自身が視界を妨げていたしね―――霧を発生させて。


 モエルは、口を半分開いたまま、黙っていた。

 さて、本題に入るか。

 

「モエルくん、話があるよ」


「なんだよ」


 ぼやく。

 俺の近くにいることで何のメリットがあるんだか、とでも言いたげな視線だった、

 商人であるということがはっきりと意識されている。

 ミナモもまた、それで良かった。


 胡散臭そうな視線を送るモエル。疑い深い感を隠さない男だ。

 警戒心は魔獣並だろうか?


 まあいい、環境自体はかなり離れてしまった二人である。

 この辺りの距離感が落としどころというか、妥協案か。

 ボクにとってはね……とミナモは想う。


「そこから先は私が案内するわよ」


 よく通る、思わず背筋を伸ばしたくなるような声が響いた。


「んおっ……ミキじゃねえか!」


 見れば女剣士だった。

 腕を組んでこそいないものの、威圧する。

 威圧するのが自然体。

 男を見下すような視線は健在である。

 否———男を、ではなくモエルのような湿っぽい性根の者を見下している。 


「見ていたのかい」

 

 モエルミナモは驚く。


「私は気が進まないけどね……モエル」


 グスロットこの街の王女が、あんたに会いたいんだって。

 ミキはそういった。


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