五章 お腹がいっぱい
日出 卯の刻
朝餉
「今朝はまた随分と寂しいな」
八爪がポツリと呟いた。
茶の間にいるのは八爪と二郎、
そして闇耳の三人だった。
今朝の闇耳の面は
生成の面ではなく般若の面に変わっていた。
障子戸が開いて孤独が料理を運んできた。
孤独は畳に座っている二郎の姿を見るや否や、
顔を引きつらせた。
「どうした、孤独?顔色が悪いぞ」
孤独の様子に気付いた八爪が声を掛けた。
「兄ちゃんは夕べ、
オラと遅くまで飲んでたから、
きっと寝不足なんだど」
孤独に代わって二郎が無邪気な笑顔で答えた。
「あ、ああ・・そ、そうだな」
孤独は額に滲んだ汗をそっと手で拭うと
二郎から視線をそらせた。
「そ、それよりも親父。
他の連中のことだけどよ。
飯を食わないのはいいとしても、
朝の挨拶には顔を出すのが
筋ってもんじゃねえか?
規律が乱れるぜ」
「仕方があるまい。
今の状況では警戒するのは当然のことだ。
儂からすれば孤独、お前と二郎は
いささかのんびり構えすぎなのだ」
「のんびりするのは良いことだど」
そう言うと二郎は口を開けて
大きく欠伸をしてから
ボサボサの頭をぽりぽりと掻いた。
その時、
障子戸が開いて
瑠璃色の着物に身を包んだ陰陽が
静かに入ってきた。
「お早う。
遅くなって申し訳ない。
朝餉をすませてきたんだ」
陰陽は軽く頭を下げてから
二郎の隣に腰を下ろした。
続いて
廊下をすり足で歩く音が聞こえたかと思うと、
障子戸がすっと開いた。
「お早うございます、お父様」
胡粉色の着物を着た一二三が
両手を畳に揃えて深々と頭を下げた。
部屋にいる全員の視線が一二三の左手に注がれた。
「ど、どうしたんだよ姉貴、その怪我は?」
孤独は一二三の左手に巻かれた白い布を見て
声をあげた。
「い、痛そうだど」
二郎は顔をしかめた。
「昨夜ちょっと女狐に噛まれましてね」
一二三は口元をその左手で隠して
「おほほ」と笑った。
「そうか・・」
八爪の眉がピクリと動いた。
「そこでご相談に参りました。
乾の宅が汚れていますので、
二郎に後片付けを頼みたいのですが」
八爪は大きく息を吸ってからゆっくりと頷いた。
「わかった。
二郎、後で乾の宅を掃除しておけ」
八爪が命じると
二郎は
「綺麗にするど」
と大きな声で元気一杯に返事をした。
外で雀が「チュンチュン」と啼いていた。
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