第139話 戦場での再会


 夢斗はボゾオン城を目前とした陣地で、氷川との再会を果たした。

 氷川は機晶鎧装きしょうがいそうを纏い、構えを取っている。


 機晶鎧装の関節に埋め込まれたジェムは魔力を放つも、敵意は感じない。


 夢斗には『敵の振りをしての情報交換』なのだとわかった。

 拳を交えながら、会話が発生する。


「氷川さんもこちらに来ていたんですか?」

「ああ。教授や真菜君共々、皆で君を迎えに来たんだ。冥種族のD7Ωに対抗できるのは君だけだからな」


「めっちゃうれしいっす!」


 氷川と拳をぶつけながら、情報交換をする。


 夢斗は嬉しくて涙がでそうだった。

 やっと帰れるんだ。


 だが今は戦場で敵同士。

 手を抜くことはできない。


「ォラア!」


 氷川の側頭部に拳がヒットしたかと思いきや、氷の壁にが生まれ阻まれた。

 大気中の空気を自在に操れる〈機晶気流師範〉の力だ。


 氷川は空気を凍らせることで、自在に氷の壁を生み出せるのだ。


「あ、はは。攻撃が全然届かねー。氷川さん、あんたやっぱすごいな」


「謙遜する必要はない。包み隠さず話すが、私は君に嫉妬している」


「S級で地区四天王のあんたが、俺に?」


「私が手も足もでなかったD7Ωを君は圧倒した。君は教授の測定のときはBランクとでたが、あれも誤魔化していたのだろう」


「ばれちゃったか」

「ゆえに。今は本気でやらせて貰う!」


 氷川は周囲の空気を圧縮した〈氷柱〉を放つ。氷柱は銃弾並みの速さで夢斗へ着弾!

 水蒸気爆発を起こした。


「すげ……」


 吹き飛ばされながらも夢斗は素直に賞賛した。

 

「漆黒纏衣はさすがに硬いか。だが余裕はいつまで持つかな?」


 氷川は夢斗の背後にいて拳を構えている。


「いきなり、後ろに?」


「空気を真空状態にすることで、高速移動ができる。君のアクセルフィールドのようにね」


 どんっ、氷川の鎧装の拳が夢斗にヒットする。

 ガードするも、砂塵の中へと吹き飛ばされた。


「どうした夢斗君?! 早く〈暗黒加速拳〉を使うがいい!」

「男と男ってわけか」

 

 砂の中で立ち上がる。


「薄々気づいていたが、君は甘い。昔の私をみているようだ」

「俺はキレたらやばいっすよ」

「そのイキりが甘いというのだ!」


 無数の氷柱が、ガトリングのごとく生成!

 夢斗に浴びせかけられる!

 氷山の雪崩のしぶきのごとく、水蒸気爆発が戦場に重なり合った!


「アルテナの〈時の力〉には範囲攻撃が有効だ。そして君の纏うアルテナフィールドの外側に位置取れば〈時の能力〉からは回避できる」


 氷川はD7Ωへの敗北で、冥種族との闘いを学んでいた。


「暗黒加速拳はフィールドの射程外にいれば当たらない」「


 氷川の指摘はもっともだった。

 フィールドを生み出す能力ならば射程の外から攻撃すればいいのだ。


 夢斗の背後では『千人将ー!』とエルフ軍が駆けつける。


「手出しは無用だエルフ軍! 私にはダークエルフ小隊ロリコン軍団がいる!」


 氷川の背後にはダークエルフの男達が控えていた。

 ゴルゴルムが後ずさる。


『こいつらは?!』


 ただの兵士ではない。異様なオーラがあったのだ。

 氷川がロリコン軍団の先頭に立った。


「異世界のロリコンの同士だ! それでいて未成年には手出しをしない。究極紳士達と私は出会ったのだ!」


 夢斗の近接エルフ軍と、氷川のダークエルフ軍がぶつかり合った。

 ゴルゴルムとレグナスが思わず感嘆する。


「こ、こいつら」

「強い!」


 ダークエルフロリコン部隊の気迫もまたすさまじかった。


『ヒカワは、わかる男だ』

『オレタチは同士は受け入れる。たとえ種族は違えどな!』



 部下の部隊同士が入り乱れる中、氷川は夢斗が吹き飛んだ砂塵をみやる。

 ふと背後に気配がした。


 いつの間にか夢斗が背後に回り込んでいたのだ。



「……いつから、そこに?」


「あんたには手加減ができないと思った。でもあんたを壊しちまったら真菜達のことは聞けないからな」


「ならばすべて話そう。ロココ君はマルファ君とバイクで逃走中だ。迎えてやってくれ」


「そうか。真菜達は?」


「真菜君は、私と教授と共に行動している。この戦場にも来ているだろう」


「真菜が来ている?!」


「脱出の予定は『満月の夜、新緑の深淵迷宮で』だ。満月の夜はつまり今夜。座標は知っているか?」


「新緑の深淵迷宮の座標は聞いてる。俺も今日、帰るつもりだったんだ」


「これで全ての情報は伝えた。これで心置きなくやれるな。……む?!」


 氷川は夢斗と背中合わせになったことで、『夢斗の中で響いているもの』を聞いていた。


(なんだ、これは?)


 他人の内部にある探索者のパラメーターは、通常聞くことはできない。

 氷川が夢斗の中に響いているものを聞いたのは〈機晶気流師〉として優れた感覚があったからだった。


 氷川の耳に響いたのは……。

 夢斗の中で鳴り響く〈上限値解放〉のアラートだった。


【無視界行動能力・上限値解放しました】

【他者視界想定能力・上限値解放しました】

【蒸気熱、爆発内部活動適応・上限値解放しました】


(上限値解放による適応。水蒸気爆発の中で私に接近したのはこの力……。だがあまりにも過剰だ)


 この過剰さが夢斗の力なのか?

 氷川は危惧する。


(ロココ君は〈上限値解放の暴走〉を危険視していた。合流を急いでいたのはこのためなのか……)


「ありがとう。氷川さん。では今夜また……」


 夢斗には敵意はない。

 この戦闘もお互いに殺す気でないことを理解しているのだろう。


 殺す気はないが……

 迷宮探索者としてぬるい手合わせをするつもりもなかった。


「伝えられることは以上だ。本気でこい」

「当然だ!」


 夢斗は距離を置くやいなや、残像となった。

 暗黒加速拳を放たれたのだ。


 拳が氷川に直撃する瞬間、氷の壁が現れる。

 氷の壁が5枚、6枚、一度の拳で瓦割りのごとく砕かれた。


「回避がやっとか!」

「俺にとって壁は無意味だ。壊すものだからな」

「ならばこれならどうだ?」


 氷柱と水蒸気爆発の応酬が夢斗を襲う。

 すべて回避し、氷川に〈分身する拳〉をたたき込む。


 氷川の眼前には無数の拳が迫る。


 時の加速と重ね合わせによって〈分身〉を得た夢斗は、全方位のラッシュを可能にしていた。


 5、6、7枚……。

 分厚い氷の壁を貫いて夢斗の拳が氷川に届いた。


 夢斗の拳は氷川の鎧装の腹部を、穿っていた。

 氷川の肉体には拳は届いていないが、眼をつむり敗北を認める。


「今回は私の負け、か」

「お互いに殺さない範囲だった。俺は勝利とは思わない」

「ふっ。君は精神面もS級に近づいてきたようだね」


 夢斗と氷川は、互いに微笑む。

 エルフとダークエルフで異なる陣営なので闘ってみたが、本来は仲間だ。


 皆が夢斗を迎えに来てくれている。

 合流計画も伝わった。


「では夜にまた会おう」

「ああ。また夜に……」


 この瞬間。

 氷川だけが、はるか遠くに別の気配を感じた。


「夢斗君。気をつけろ。私はここまでだ」


 遅れて夢斗が、違和感に気づく。


「氷川さん……。俺の拳は致命傷じゃないはずだ。どういう……?」

「おそろしく速い別の敵がくる。私は君を守るために全力を注ぐ」


 きぃいいいん、と音が先に来た。

 氷川はすでに周囲に氷の壁を張り巡らせている。


 ばぎんばぎん!と砕け散る音と共に、高速の何かが飛来し盾となった氷川を吹き飛ばしていた。


「氷川さんっ! こ、この〈加速〉は……」


 夢斗は飛来した残像から声を拾う。


「アクセルぅ。なーに外してんのぉ?」

「くっそ。鎧装の奴が気づいてやがった。こいつら闘ってる振りして仲間だったんだ」


 高速飛翔するアクセルアクアとMSGが、奇襲をしかけてきたのだ!


――――――――――――――――――――――――――――――

スペース

氷川さんの命やいかに?!

背後ではロリコンダークエルフと、エルフ軍が戦っています笑




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