第128話 ボゾオン千人将ミステリオ①


 森羅世界・メルフィー王国、エルフの軍勢に身をおき千人将となってから、夢斗はすでに12回もの戦争をこなしていた。


 夢斗のやることは変わらない。

 ダークエルフ軍と接敵し、暗黒武術家としての戦場に突っ込んでいく。


 気づいたことは〈時の巻き戻し〉の能力が回避に使えるということだった。


 空を覆い尽くすほどの無数の矢が、上空から降り注いできたときに、〈巻き戻し〉の使い方を理解した。


(これは……。死ぬんじゃね?)


 漆黒纏衣で頭部を覆っているため即死はしないだろうが、降り注ぐ矢は光景は本能的な恐怖を感じた。


 ダメージを受ける直前、夢斗は試してみることにする。


(俺が纏う〈アルテナ・フィールド〉は、現世とは異なる時間の流れるフィールドだ。こいつをD7Ωが使っていたように球体にする)


 アルテナフィールドを球体にして展開。

 直径3メートルほどの球体内部では、時の流れへの干渉が可能だ。


(矢を受ける寸前、〈巻き戻し〉で1秒前の自分の位置に戻れば……?)


 時の巻き戻しを発動すると、しゅんと1秒前にいた位置に瞬時に後退。

 直撃するはずの矢を回避した。


 前方のダークエルフ軍が、驚愕の表情となる。


『ナンダ、アイツハ?!』

『矢ノ雨ノ中で、傷ヒトツ、ナイダト?!』


(なるほどな。〈時の巻き戻し〉は、拳を巻き戻す速度を早めてラッシュに使っていたが。回避も有効なようだ)


 夢斗は千人のエルフを率いて高地を駆ける。

 うち100人は、ゴルゴルム、エミールを交えた近接部隊だ。


「うおぉおおおおおおおお!!」

「オォオオオオオオオオオオ!」



 徒手空拳で先頭をかける漆黒の少年。

 背後につき従うのは、筋骨隆々としたエルフ達。


「千人将。突出してるぜ! あぶねえだろ!」


 ゴルゴルムが夢斗を集団に戻そうとするが、夢斗は聞かない。


(歴史のフランスのとこで読んだことあるぞ……!)


 フランス革命期の歩兵軍にて、突出する老将がいた。


 将がはるか先頭を行くことで部隊を鼓舞していた。

 この突出は戦略的には無意味ゆえに、旧体制のアンシャン・レジームと揶揄された。


 だが一見無意味なようでいて、意味がある。


 度胸だ。

 背後にいる部下が、『度胸についてくる』のだ。


 夢斗は背後のエルフ達を引き離し、独走状態でダークエルフ軍に突っ込んでいく。


 当然、弓矢の雨が夢斗に降り注ぐ。

 だが小刻みにシュンシュンと〈時の巻き戻し〉をすれば当たることはない。


『アタラナイ奴がイル?!』

『アノ先頭の黒い男をナントカシロ!』


「うおおおおおあぁああああああああっっっ!」


 鬨の声をあげると、背後のエルフ軍も怒号を連ねる。


「ウオォオオオオオオオオオオオ」

「オォオオオオオオオオオオッッ」

「オアァァァアアアアァァアアアッ」


 ボゾオン帝国軍陣地のある丘の上へと、近接部隊が到達した!


「オッッッラァァアア!」


 横並びの弓兵の列をダークアクセルフィールドによる加速で、なぎ倒していく。

 戦列を破壊することで、背後の千人のエルフ軍がなだれ込む。

 副将レグナスが叫ぶ。


「千人将! このままでは味方の矢が!」

「お前の作戦だろうレグナス。貫いてから振り返って、挟撃する。このまま真っ直ぐ進む!」

「やはりあなたは……。将たる器だ!」


 夢斗達100人の近接部隊と900の弓兵部隊は、敵地のど真ん中になだれ込んでいく。

 敵軍の数は一見して5000ほどだ。


 1000人では囲まれてボコボコに消滅してしまう!


「前だ。前に行く」


 夢斗達は戦線を突っ切り、前にでた。


 ひたすら前にでる。

 もちろん追われる。

 1000人が5000人に追われる。


 夢斗の背後では粗野なエルフ・ゴルゴルムが、大剣を振り回しつつ猛り狂う。


「お前らぁ!千人将を信じろ!」


 ありがとう、ゴルゴルム。

 お前やっぱ、剣が似合ってるよ。


 ダークエルフの弓兵部隊を突き抜けると、流れが変わった。

 メルフィー軍の他の千人部隊が、挟撃の姿勢を取ってくれたのだ。


 夢斗の部隊1000人(丘にいる)‐ダークエルフ軍5000人‐エルフ軍5000で挟みうちの姿勢となっていた。

 

「高地は取った。趨勢は決したな」


 丘の陣地を制圧した夢斗は、挟撃で削れていくダークエルフの軍勢を見下ろしていた。


「お前らぁ! 撤退してくる敵軍は俺たちのところを抜けてくる。そこを叩く!」


 千人将として板についてきていた。




 挟撃の成功によってダークエルフ部隊の撤退が始まった。

 夢斗の率いる千人部隊めがけて撤退の兵士らがなだれ込んでくる。


 もちろん逃がす訳はない。

 夢斗の前に、一人のダークエルフが立ちはだかった。


「あんたは?」

「ボゾオン軍・千人将ミステリオだ」


「京橋夢斗だ。メルフィー国には雇われて千人将になったらしい」

「噂には聞いている。異世界人の傭兵が千人将とはな。メルフィー国も堕ちた者だな」


「偶然救われたから闘う。それだけだ」

「ならば剣で語るまで!」


 ダークエルフの千人将・ミステリオは双剣使いだった。

 夢斗はダークアクセルフィールドを伸ばし、双剣へ向けて拳を放つ。 


 一瞬の交錯。


「速く強いならば、合わせれば良い」


 ミステリオの剣は、夢斗の拳を切り裂いていた。

 拳の漆黒纏衣が、ぼろりと崩れる。


 出血はない。

 漆黒纏衣の装甲もダイヤモンドマッスルになっているので、防御力は高い。


「そうだよな。強い相手には合わせるよな」

「強者には奢りがある。貴様の力は冥種族の力だろう?」


「知っているのか?」

「我々とは協定があるからな」


 ミステリオは夢斗の力を見抜いていた。

 ダークエルフ軍には冥種族のアクセルアクアとMSGがついているので、アルテナの力も漏れているのだろう。


「強者には慢心がある」

「俺が強者、か。舐められた者だな」


 夢斗は再度アクセルフィールドを伸ばす。


「同じ手、か。それが奢りだ」


 ミステリオは夢斗の速度を見切っていた。

 次は拳ではなく首をとる。


(凄まじい速度で突っ込んでくるならば、剣を添えればいいだけだ)


 夢斗が一瞬にして眼前に接近する。

 体感として、人間の全力疾走の10倍の速度だ。


(ここだ)


 ミステリオは夢斗の首に剣を添える。

 双剣のうち、ひとつでいい。

 添えれば、斬れる。


(とった!)


 だが夢斗は物理法則を超えた挙動で『くん』と一歩後ろに下がった。『時の巻き戻し』を使ったのだ。


(馬鹿な!?)


 全力疾走と同時に後ろにさがるなどありえない。

 だがアルテナの力ならば可能だ。


 ひうんと後ろに下がり、ミステリオの首狩りを回避していた。

 左のジャブ連打で双剣が砕け散る。


「か、はっ……?!」

「生憎だが俺は冥種族じゃない。それに強者のつもりもない」


「慢心の隙もない、か……。げはぁっ……」



 夢斗の拳が鳩尾に入る。

 胃をやられ吐血するミステリオ。


「慢心なんてのは、俺にとってもっとも遠い感情だよ。ずっと弱かったからな。誰であろうと、俺にとっては学ぶべき相手であり、陵駕の対象でもある」


 ミステリオもまた瞬殺だったが、夢斗は瞬殺する相手からさえも学習をしていた。


「どうりで隙がないわけだ。ぐふっ……」


 夢斗自身も気づいていないことだが……。

 この『慢心のなさ』こそが『圧倒的成長を途切れさせない要因』だったのだ。


――――――――――――――――――――――――――

スペース


【用語解説のような何か】


作者も忘れっぽいので、冥種族と夢斗の使う〈時の能力〉の補足をします。


【七つの時の能力】

①『停止』

②『加速』

③『重ね合わせ(重複≒平行世界との一時連結)』

④『巻き戻し(逆再生)』

⑤『飛ばす(カット)』

⑥『指定位置に戻る(死に戻り)』

⑦『結合(①~⑥でループできる)』


上記の能力はアルテナと呼ばれる黒い霧を放出し〈アルテナフィールド〉をつくることで可能になります。


アルテナフィールド内部では『現実と異なる時の空間』をわざわざ作るので、時間の操作が可能になります。またダークアクセルフィールドは広義ではアルテナフィールドに該当します。


時の能力の弱点は『アルテナの放出ができなくなるほど弱る』ことです。第二部のD7Ω《ディーセブンオメガ》も夢斗に殴られまくったため敗北しました。



【現在夢斗が持ってる時の能力は3つ】


夢斗はD7Ωとの戦闘で〈加速〉の他に〈重ね合わせ〉と〈巻き戻し〉をゲットしました。ゲットできたのは暗黒武術家クラスの能力でD7Ωの能力をコピーしたためです。


次回は夢斗が何故D7Ωの時の能力をコピーできたのかについて詰めていきます。

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