第48話 新たな生命
四肢を失い小さくなった真菜を抱えながら、夢斗は〈精神と肉の部屋〉に戻っていた。神殿が殺戮の天使の放った〈光の柱〉に包まれる刹那、ロココがゲートを開いてくれたのだ。
精神と肉の部屋でふたりは倒れる。
満身創痍で一歩も動けそうにない。
「真菜は大丈夫なのか?」
『生命力を〈上限値解放〉したのでまだ生きてはいます。しかし夢斗さんに〈生命の糸〉を譲渡しているため、長くは持たないでしょう』
真菜は自身の四肢をネクロマンサーの〈糸〉の中でも治療能力を持つ〈生命の糸〉に変え、夢斗の傷を〈癒合〉させた。
夢斗が驚異的な回復を示したのは彼女が自らの命を〈生命の糸〉に変えたためだったのだ。
「〈糸〉を通じて俺に生命力を与えてくれたから……。だとすればこの糸を返せば、真菜は元に戻るよな」
『ネクロマンサーの力だとすれば可能かと思われます。しかし今〈生命の糸〉を真菜さんが返せば、夢斗さんの命が……』
「腕と足をなくしてまで助けてもらうなんて。そんなこと俺は望まない。〈糸〉を抜けばそりゃあ痛みはするだろうが。耐えてみせるさ」
『真菜さんの意識がない今。私が彼女に憑依をし、生命の糸を操作することは可能です』
「さすがロココだ。やってくれ」
『しかし私は、使用者である夢斗さんが死ぬようなことはできません。いつもならは生命力の上限値解放でどうにかできますが、今回は流石に限界があります』
「……それでも真菜に手足を戻してやりたい。頼んだよ」
「……では真菜さんにおでこをくっつけてください」
夢斗は、眠る真菜におでこをくっつける。
『炉心精神の移行を開始します』
やがて真菜が目を開けた。
眼の雰囲気が違う。ロココの精神が憑依しているのだ。
真菜の姿で、ロココが話し始める。
「これから真菜さんの能力を解除し、夢斗さんから〈生命の糸〉を抜きます。覚悟していてください」
ロココが真菜の肉体を操作し〈生命の糸〉の能力を解除。
夢斗の全身から糸が抜けていく。
傷を修復していた〈生命の糸〉が真菜の肉体に帰っていく。
「そう都合良く治るものでもないんだな」
「はい。人間の体は脆いです。それに迷宮探索者の能力は限定的なもの。そこには〈制約〉があります」
夢斗の全身に激痛が走る。
「ぐうぅうううう!!!」
「夢斗さん。これ以上は……」
「このまま。返してくれ。生きていたって手足がないなんて。あんまりだろ!」
お互いに貸し借りをしすぎて。
何を貸して、何を返さなかったかもわからないけど。
「君は全部をくれた。俺も、ちゃんと返す」
視界が真っ赤に染まる。傷口が開いたのだ。
何せ〈光の柱〉の圧倒的な熱量で背中を焼き尽くされたのだ。ダメージは内臓まで達していた。
真菜の〈生命の糸〉の力が人智を超えていたから、動けていたのだ。
「がはっ……。うぐあぁぁあ!」
夢斗の視界が暗転する。
精神の肉の部屋で、夢斗は膝を付き倒れ伏す。
「大丈夫だぜ。キラキラ肉を食べれば!」
キラキラ肉に手を伸ばす。
いつもどおり肉を食べて解決しようとするが、焼けた内蔵では口に入らない。
「くっそ。食べることもできないのかよ……。このままじゃ、死……」
「まったく。馬鹿な人ですね。あなただけでも生きれたかもしれないのに」
真菜に憑依したロココは、四肢のない身体で壁に背中を預けながら、うつ伏せに倒れる夢斗を眺めた。
激痛にもんどり打っているが、限界は来るだろう。
(致命傷を受けたのですから。いくらキラキラ肉とはいえ、食べただけで回復するわけがない。そもそも食べられないならどうにもなりません)
ロココは真菜の肉体もみやる。
夢斗に与えていた〈生命の糸〉が戻ったためか両腕と両足が生えてきている。
だが彼女の回復にも限界があるとロココはわかってしまう。
本来命は、分け与えたりとってつけたりなどはできない。回復するとしても不完全な形となるだろう。
(彼らだからこそ度しがたいというべきでしょうか。まったく仕方がないですね)
ロココは真菜の体で、精神と肉の部屋を張って歩く。
やがて精神と肉の部屋の中央に辿り着く。
夢斗がこの部屋に来て始めて触れた、〈画面〉の地点だ。
「ロ、ココ。どうする、つもりだ?」
(いくら私が炉心精神でも、なんでもかんでもできるわけじゃない。しかし私が〈精神と肉の部屋〉の管理権限を持っていることが幸運でした)
ロココとしても夢斗に死なれるのは非情に困った。
炉心精神は宿主が消えれば同時に死ぬ。
記憶を引き継ぎ別の炉心として転生するケースもあるが、その場合ロココの精神は次の転生まで炉心に閉じ込められたまま、永遠の暗闇をさまようことになる。
(幸いここは〈精神と肉の部屋〉。〈キラキラ肉〉はすべての生命の根源であり究極であり集合体。やってみる価値はあります)
ロココは真菜の肉体を動かし、おでこを〈精神と肉の部屋〉中央の床につける。
(今だけは私も〈上限値解放〉してみせましょう。)
真菜の眼が再びふっと閉じ、ことりと倒れた。
ロココの意識が真菜の肉体から抜け出る。
憑依の行き着いた先は……。
(私が憑依するのはこの精神と肉の部屋そのもの。二人に生命を与えるためにはこれしかない)
ロココは、部屋と融合することで、夢斗と真菜の救出を目論んだのだ。
(肉を、命を、栄養を……)
ロココは〈精神と肉の部屋〉の桃色の壁を掌握する。
ごごごごごと、キラキラ肉でできた部屋が蠢き、ふたりを包み込んでいく。
それは生命回復のための肉の揺籃だった。
夢斗は夢をみている。
亜麻色の髪の耳の長い少女が、一糸まとわぬ姿で夢斗の肉体に触れている。
肌は白磁のように澄んでいて、細い指先は花のようだった。
夢の中で肉体はバラバラになっている。
バラバラの夢斗を、少女が肉をペタペタをくっつけて、創り上げている。
神話のような光景だった。
(綺麗に創り上げますから)
以前見た夢では少女の姿は忘れてしまった。
だが、もう忘れることはないだろう。
少女もまた実体のある存在として目覚めたのだから。
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スペース
第一部、残り2話です。
今日中に駆け抜けます。応援してくださる方は☆1でいいので☆評価、コメント宜しくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews
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