第33話 三人組の驚愕


 夢斗は全身に〈漆黒纏衣〉を纏い、真菜を守った。


(この〈漆黒纏衣〉はあくまで暗黒武術家としての副産物のようだが、顔を隠すのにも役立つな)


 漆黒纏衣は、以前発動したときは腕と足のみにオーラが渦巻いていたが、いまは夢斗の全身を覆い尽くしている。通常時は全身を覆う〈防御形態〉であり、〈暗黒加速拳〉のときだけ腕と足に集中する〈攻撃形態〉となるようだ。


「あの。ありがとう、ございます!」


 背中で真菜の声が聞く。夢斗は振り返らない。


(なんにしても、無事で、良かった)


 真菜には構わないことにした。彼女に負い目を感じさせたくなかった。また明日予備校で会って、なんでもない会話をしてすごせればそれで良かった。


(ならば俺は『通りすがりの暗黒』でいい)


 夢斗が立ちはだかったことで、亜竜人が吠える。


(戦闘可能な三人は……)


 田中、山田、山崎の三人は、致命傷は受けていないが、枝の触手の防御で手一杯のようだ。


(今は俺が、引き受けるしかない)


 全身樹木の亜竜人が吠え、背中から樹木を生やす。

 またも枝の触手が先端を槍にして襲い来る。その数、5本、6本……。常人の動体視力では捉えきれない。


 今の夢斗は、動体視力までは鍛えられていない。持っているのはあくまで、〈ダイヤモンドマッスル〉となった腹筋能力と、暗黒武術家としてレベルの上がった〈腕力、脚力、五感〉のみだ。

 ひうんと空気を裂く枝を、拳で打ち落とす。


「オラァ!」


 枝の槍は止まらない。ひうんひうんひうん、と鞭のように殺到する!


「オラオラオラァ!!」


 枝の槍の速度はすさまじい。やがて槍が腹部に激突する。


「きゃ……」


 真菜が絶叫する。死んだと思ったのだろう。

 だが枝の槍は夢斗の腹で止まっている。

 弓使い山崎の【分析】によれば、この樹木の触手は、一定レベル以上の防御を貫通し、人体をつらぬいてくるらしいが……。


 夢斗の腹筋は〈ダイヤモンドマッスル〉だ。

 一見細身でもその腹筋は鉱物レベルである。


「いってぇ」


 加えて〈漆黒纏衣〉も纏っている。通常の人間が即死するダメージでも、打ち身程度で済んでいた。


 亜竜人をみやると、『ふしゅぅううう……』とこちらを睨め付けている。

 夢斗は今の自分に足りないもの〈スピードへの対応〉を理解する。


「適応してやるさ」


 必要なのは、無数の高速の触手に対応するための〈動体視力〉だ。


「ロココ。〈適応力上限値開放〉。できるか?」

『畏まりました。しかし懸念があります。夢斗さんの現在の動体視力の限界値を超えても、敵の攻撃を捉えられない可能性があります』


「上限値解放が無駄になるパターンってことか」

『そうなります』


 いままで様々な上限値開放を使ってきて、わかったことがある。〈上限値開放〉は能力アップではないということだ。

 あくまで【自分の限界を超える力】にすぎない。

 限界を超えてなお、届かないケースも存在するということだ。


「問題ない。闘いながら成長して、自分の限界にぶつかりまくれば〈上限値解放〉の力も連続発動できるはずだ」


 夢斗の言い分は一見無茶だったが〈上限値解放〉の力の本質をついていた。


 ――その場その場で、自分の限界にぶつかることで〈上限値解放〉を連続発動する――。


 一度の上限値解放で力が通用しないならば、なんども連続で限界を超えればいい。

 頭で理解したわけではなく、直観に過ぎなかったが、的を得ているといえた。


(今の攻防で俺は【動体視力の限界】にぶつかった。ならば複数回、動体視力の限界にぶつかる!)


「こいよ。亜竜人」


 夢斗は、掌で挑発する。


『きゃおるぅぅ。きゃおらぁぁああ!!』


 亜竜人の背中からは、またもや30本以上の樹木の触手が、どばぁとあふれ出る。

 夢斗は動体視力で触手数を認識。

 8,9、10本眼までは見えるが、それ以上だと把握できない。


「ぐぅ?!」


 脇腹にしなる鞭めいた枝を受けた。

 吹っ飛ばされるも、地面を滑りながら耐える。


(なるほど。触手は〈枝の槍〉のタイプと〈鞭〉タイプがあるのか)


 夢斗は手刀を振り、鞭の枝を打ち落としていく。


(今の俺の技は【超強力な拳を一発だけ打てる】だけだ。打ち込む隙を見つけるまでは、手刀で耐えるしかない)


 夢斗の技は〈暗黒加速拳〉一個しかない。

 暗黒武術家になったのはいいものの、武術家としては未熟もいいところだ。

 だから一撃のために、今は耐える。


「もういちど。〈動体視力上限値解放〉だ」


 一度限界にぶちあたったので、再び発動。

 枝の触手は14,15、16本まで見えるようになる。


「さっきより見えるな」


 鞭の攻撃をいなし始める。まだ見切れない触手がいくつかあるが不意の攻撃をうけなくなっていた。

 夢斗の後ろではパーティが驚嘆の声をあげる。


「な、なんだ、あいつは?」


 剛戦士・田中が、戦慄していた。


「彼、残像さえも見切ってますね」


 ゴーグルの聖騎士・山田が、冷や汗を浮かべる。


「わかることがひとつだけあります」


 弓使い・山崎が漆黒の武術家について分析を始める。


「どういうことだ、山崎?」


 剛戦士・田中の問いに山崎は、ごくりと息を呑み応えた。


「彼のレベルは俺たちよりも低い。40です」


京橋夢斗 レベル40

探索者ランク:X

クラス:暗黒武術家


HP120 攻撃170 防御93

魔力65  魔防65 俊敏170

技 暗黒加速拳

称号〈精神強者〉、〈憑依炉の器〉


「攻撃特化の高ステータスだ。それなのに俺たちよりも、レベルが低いだと……?」


 聖騎士・山田が静かに驚愕の表情を浮かべた。


――――――――――――――――――――――――――

スペース

 夢斗くんの強さが認められてきました。彼はまだ虚無君を引きずってるので実は悩んだりしてます。

 死ぬモブはあまりみない名字、生き残るモブはありふれた名字にしてます(名字かぶるとちょっと嫌なため)。


「パラメータ育ってるな!」と思って頂けたら☆1でいいので、☆評価、コメントよろしくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews







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