第31話 壁を突き破って超える(物理)


 真菜は透明なドーム・境界隔離領域(ディバイト・エリア)の向こう側に行ってしまった。


 夢斗は一人取り残されてしまう。


「これが身分の差か。さて」


 脳内の精神炉心システムから、ロココを呼び出す。


「なあロココ。ランクC以下はダメって言われたけど。入れるか?」

『可能ですが、少々荒技になるかと』

「かまわないよ。俺には荒業くらいがちょうどいい」


 今の夢斗は、壁の承認に弾かれてしまう。

 ロココがキーストーンの代わりとして、装備ゲートや転送ゲートなどの多くのシステムを担ってくれるが、ランクXでは標準的な迷宮探索者の権利を持たないのだ。

 だからどこかで荒技が必要になってくる。


『ハッキングをしかけ、ドームの壁に穴をあけます。夢斗さんはできるだけ、肉体とドームとの設置面積を増やしてください』

「手を触れるとかじゃ駄目なのか?」


『全身でぶつかったほうが、ハッキング成功率が高まります』

「わかった。全力で壁にぶつかる」


 夢斗はポケットに手をいれたまま、悠々と迷宮隔離領域(ディバイト・エリア)のドームへぶつかった。

 透明なドームの壁に、ぼん、と弾かれる。弾かれても怯まない。それがどうした。


 弾かれるなんてのは、人生のデフォルトだ。

 いつだって夢斗は弾かれてきた。


(今の俺は違う。今の俺は壁に弾かれていない。俺が壁を弾いてるんだよ)


 夢斗はポケットに手を入れたまま、壁におでこを押しつけ、肩を押しつけ、胸板を押しつける。


(いい設置面積です。ハッキングを開始します)


 夢斗の姿をみていた周囲の野次馬らが、歓声をあげる。


『あいつ、キーストーンも無しで、境界領域に入ろうとしているぞ』

『馬鹿じゃねえのか?』

『イカれてやがるぜ!』


 夢斗は隔離領域のドームの壁に、頬がぐにゃりと潰れるくらいに全身を押しつけていく。

 同時にロココのハッキングが進んでいく。


『その調子で壁にくっついていてください。ハッキング達成率93%』


 やがてドームの透明な壁はぐにゃりと柔らかく歪み、穴になろうとしている。


『もう少し我慢してくださいね。壁の堅さをもっと柔らかくして穴を……』

「いや。これでいい。十分だ」


 夢斗は全身に力を込めた。ドームの壁は、まだ固い。


「肩慣らしだ。壁をぶち破って超えていく」


 ロココのハッキングはまだ終わっていない。ドームの障壁はまだまだ固いまま。

 その上で夢斗はあえて、固い壁を突き抜けることにしたのだ!


「むううぅううううう!!」


 全身を押しつけると、強化ガラスのごときドームの障壁がぐにゃりと歪む。

 手はポケットにいれたまま。顔だけを押し付けていく。

 集まっていたギャラリーの野次馬らの表情もまた、驚愕でぐにゃりと歪んでいた。


『あ、あいつ、キーストーンも無しで、境界領域に入ろうとしてやがる……』

『ば、馬鹿じゃねえのか……?』

『い、イカれてやがるぜ……!!』


 彼らのセリフは先ほどのセリフと一緒だが、侮蔑と嘲笑だったものが、驚愕と畏怖に変わっていた。


(これが『見方が変われば、意味が変わる』ということか)


 やがてドームの壁が、ばりばりばり、と少しずつ破れていく。

 破れたドームの壁の穴から、夢斗はポケットに手を入れたまま、悠々と進んでいく。


『な、なんなんだ! あいつは?!』


 ギャラリーの驚愕を背中に受けつつ、夢斗は真菜のもとに向かった。


「いい肩慣らしだった。壁さえも超えてやった。じゃあ行くか、相棒」

『はい。夢斗さんの強さは無茶なところですから』

「なーんか舐められた気がするが」


『最近の夢斗さんはIQ上限値解放をしたり不穏でした。ですが今の夢斗さんはいつも通りで好きです』

「そうか? ならいつもの俺でいいかな」


 炉心精神ロココは、その意識を、夢斗を見ていたギャラリー達に向ける。


(私が夢斗さんを育てます。私だけはこの方の凄さを知っています。だから刮目してみているがいい。愚かな市民ども)


 夢斗自身も知らぬ間に、ロココもまた精神としての成長を果たしていた。


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スペース

ランクXゆえに迷宮隔離領域のドーム壁に阻まれましたが、ロココのハッキングと物理で壁を超えました。隔離領域の中はどうなっているのでしょうか?

次章から新章です。


『もっと壊していけ!』と思って頂けたら☆1でいいので☆評価、レビューよろしくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews





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