第26話 ケイと広い土地

 詳しくない人のために、説明しよう。


 土地を買う……お金はいくらでもある! 広い土地を売ってくれ! て言ってもすぐに買えるわけじゃない。いや、ど田舎の山の中とかならいくらでも買えるだろうけど、俺が買おうというのは、東京都西東京市にあるひばりヶ丘駅近くの土地だ。


 ケイのために、広い土地をと探すものの、情報としてあるのは新築分譲ばっかり……20坪、広くても30坪ほどの敷地に3階建ての新築戸建てがのっかって、お値段は6000万円から8000万円といったところだ……。


 たけぇよ!


 買えねぇよ!


 いや、お金はある……けど、使うのがこえぇよ!


「今月中に、土地を探しておけ、いいな」


 佐田さんはそう俺に言い、麺との出会いのためといってまたでかけていった。


 数日、長い時は数週間、帰ってこないだろう。


 広い土地……市場に出るとすれば、地主さんの家で相続が発生して、相続税を払うために土地を売った場合に広い土地が売りに出るけど、そんなところは買い手がすでに決まっていることがほとんどだ。


 わが社の根木さんが、この手の相談を大量に受けてて、さばいているので俺も詳しい。


 で、広い土地を業者が買って、マンションを建てたり、分筆して道路を通して戸建てを建てて売りに出すので、我々のところに届く頃には、小さな土地……十分な広さなんだけど、大きな土地にはなっていないのだ。


 ま、広い土地を売りに出されても、個人では買えないだろう……今の俺は買える!


 怖い。


 使うのが怖いという気持ちと、大きな土地に広いお庭を作ってケイを遊ばせたいという気持ちが、俺の中で戦っている!


「ケイちゃん、どうしたい? 引っ越したい?」


 ディスプレイにうつる売買物件情報を眺める俺の横で、ケイがシッポをふって俺にくっついてきた。


「キュン……ぴーぴー」


 俺の中で、広い土地に広いお庭を作る気持ちが圧勝したぁ!


「お? 土地を探してるの?」


 お! 根木さん。


「おつかれ様です。家を買おうと思って」

「独身で家を買う? まさかケイちゃんのために?」

「そうです」

「予算は?」

「……土地を5500万円で探してます」


 5億とか言えねぇ! 言えるわけがねぇ! でも、5500万円の土地だけなら、坪単価がエンドで100万円だから、50坪くらいの土地は買えそうなんだ。500万円は税金や登記で消えていく。


 印紙税! ふざけんなよ! 不動産取得税! たけぇんだよ! 国! とんでもねぇカツアゲしてんじゃねぇよ! という不満を言いたくなります……。


「建物は?」

「それはなんとか別予算で」

「お! 山田、金持ち?」

「ち……ちがいます。ちょっと知り合いがいて、援助してくれるって言うので」

「いくらか知らないけど、知り合いからだと贈与税、たっぷり取られるよ?」


 ふざけんな! くそ! 国! 税金でボりすぎなんだよ! 詐欺師! 国税庁は詐欺師よりもえげつない!


「それはまあ、いちおう考えています」


 5億円の贈与税は、控除額110万円をひいて、控除額を引いた後の金額が3000万円超えだから税率が55%……55%! お前らの金じゃねぇのに半分以上もっていきやがって! 


 国税ぇ……ケイちゃんのお庭の邪魔をすんじゃねぇぞ!


 つまり、なんだかんだと2億円弱が使えます……。


 地下を作れと言っていたから……地下、高いんだぁ……。


 ま、いいか。


 佐田さんの金だ。


 俺んじゃない。


「何坪ほしいの?」

「50坪以上……」

「贅沢な……あ! ある。あるよ!」


 根木さん、仕事できる!


「どこです?」

「ちょっと問題ある土地なんだけど、あるよ。お祓いしても、地鎮祭しても、事故が続いて建築計画がなくなった土地が」

「……」


 やべぇやつじゃないすか。


「ひばりヶ丘二丁目の、うちで管理してる更地、あるでしょ?」

「あ……」


 ある。

 たしかに、ある。


 マンション用地の約150坪、事故多発で建築計画がなくなり、月極駐車場にしたのに事故が多発してそれもやめて、コインパーキングにしてもトラブルばかりでクレームとなり、しかたなく更地にしている不良物件……。


「固都税、垂れ流しているから、5000万円で売ってあげるよ。どう?」


 根木さん! あんたは鬼だ! あんな土地を同じ会社の人間に売ろうとするなんて!


「50坪以上はないよ。だいたい、戸建て業者さんに買ってもらった後だからさ……田無駅のほうにあったのは、もうクロースハウスさんに買ってもらった後だし、南町のほうは飯山産業と契約予定だからさ」

「……ちょっと考えます」


 ということで、管理物件の掃除を理由に会社をケイと出て、その場所に来た……。


 空気が重い。なんだかおかしな匂いがする。風がふいているはずなのに、この場所だけ風がない……はえてる草も元気がなく、敷地の奥にたつ樹木は不気味なほどでかくて、威圧感がある。


 よくない土地だと、俺でもわかる。


「がるるるる……」


 ケイ?


「ケイちゃん、どうしたの?」

「あおー! あおーお!」


 ケイが敷地に向かって吠えた直後、空気はすみわたり、やさしい風につつまれて、草木は穏やかな雰囲気となった……。


 何がおきたんだ!?


 あ!


 ケイが走り出す!


「ケイちゃん!」


 ケイが、敷地の中に駆け込み、走り回って遊んでるぅ!


 ニッコニコ!


 ケイちゃん、にっこにこぉおおお!


 走ることで耳がひっくりかえって……かわいぬぅ!


「ケイちゃん!」

「わん! わんわん」


 俺に駆け寄ってきて、スリスリしてはまた走り出す!


 ケイ!


 ここ、気に入ったんだね!?


 わかった!


 俺は、ここを買うよ!


 事故やトラブルがあっても、ケイのためにお祓いや地鎮祭を何度でもするよ!


 俺はこの日の夜、西東京市ひばりが丘二丁目1116番地111と1116番地222の二筆、合計で152坪の土地の買付証明を書いて、根木さんに渡したのである……。


 5000万円。


 佐田さん、ありがとう。


 変わった人だけど、すばらしい人だ……かもしれないぬぅ。

 

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