畑に関して

「どうするの? フィール」

「――悩みというのはな」


 と、さっき盗み聞いた時と同じ事を喋り、その際に虫なども気を付けてはいるからいないはずだと、フィールと呼ばれた褐色肌の女性が説明してくれる。

 彼女は相当悩んでいるのだろう。

 話ながらも時折暗い表情を覗かせる。


「虫はいない。という事は、益虫とかもいないんですか? 例えばスズメバチちゃんとか」

「……スズメバチは益虫なのか? あれどう考えても害虫――」

「何を言うんですか!! 毛虫ちゃんなどを食べてくれるんですよ!」


 フィールが害虫だと言い切る前に、インは声を荒げて遮る。

 スズメバチを害虫だと考える人が多くて実に不愉快だと、クラスでもやったハチの解説という前置きを置いてから、声を荒げてインは続ける。


「畑は自然! ちゃんと害のある虫ちゃんと、害のない虫ちゃんで区別して、共存してください!」


 最後にビシッと、インは相手が年上であるにもかかわらず指を突きつけた。


「あっ、ああ。おいマーロン、虫の嬢ちゃんって」

「彼女の虫好きをなめたら駄目よ。ワームをテイムするような子よ?」

「説得力がだいぶ違う」


 口を引くつかせるフィール。

 きっとそれほどまでに、インの熱烈な演説が効いたのだろう。

 インはやり切ったとばかりに胸を張る。


「いやいや、本題は違うよね~? 虫じゃなくて畑の悩みだよね~?」

「「あっ、そうだった」」


 今まで何をしていたのだろうか。

 ピジョンの言う通り、畑の相談を聞いていたのになぜ害虫でも、益虫でもなく、スズメバチの話題へと切り替わっているのか。

 そこまで考えると頭の中が一気に冷静になり、インは今までの非礼に関して頭を下げて謝る。


「ま、虫について詳しいのは分かったから良いとして。何でだろうな。ミミズとか目にするから、良い土ではあるはずだが……」


 ミミズのワードを耳にし、きらりとインの目が変わり、ミミがのそりと体を動かす。


「そういえば、ミミズが多い畑はガーデニングとして鼻が高いと聞くよね~。そこのとこインちゃんは――」

「何を言っているのピジョンちゃん!! その認識は半分あってて、半分間違いだよ!」

「あ~らら、またスイッチ入っちゃった~」


 口は軽く、ピジョンの表情は実に楽しそうだ。いかにも解説を求められているような気がして、インは饒舌に語りだす。


「ミミズちゃんには堆肥型と土壌型、二種類いるんです!」


 ここでインが指を二本上げる。この話に食いついたのは、フィールだ。彼女はすぐにどういうことだとインに詰め寄れば、得意げな顔で口を開く。

 だからこそこの二匹は適度に使い分ける必要があると、読んだことがある。

 インはミミに全身で抱き着いて頬ずりしながら締めくくる。


「知らないことだらけだ。虫の嬢ちゃんすごいな」

「でも私、ミミズちゃんに詳しいだけで、畑には詳しくないので。あまり力になれなくてごめんなさい」

「いいや、助かるよ。参考までに、フトミミズとやらを増やす方法を聞いていいか?」


 それはですね、とインは一旦クッションを挟む。


「あえて捕まえるという手段もありますよ。落葉を払いのけてスコップで掘るとか、雨の日に徘徊している固体を捕まえるとか」

「そんな方法もあるのか!? ありがとな、マーロン、虫の嬢ちゃん! そしてくたばれクソ害獣」


 フムフムと頷き興味を示したフィール。

 一刻も早く仕入れた情報を試してみたいのかさっさとお礼を言い、さっさと店から駆け出して行ってしまった。

 その速さたるやよほど悩んでいたのだろう。

 新しい物にチャレンジする少年のような笑顔を、彼女は浮かべていたのだった


  *  *  *


「ところでインちゃんと鳥が一緒なんて珍しいわね。いつそこまで仲良くなったのよ」

「にゃはは、それは聞くも涙語るは笑いの話があってね~」

「つまり低LVに混じってイベントで何かしたのね。鳥を相手にする人の気持ち考えたことある?」


 お道化たようにピジョンが二ヒヒといたずらっ子のように笑えば、マーロンは呆れたように嘆息する。

 本当に何をしたの、とでも言いたげな目をインはピジョンに向ける。

 とはいえ、きっと攻撃をすべて躱しきるピジョンの事だ。

 人を散々煽るに煽り、何事もなく勝利した来たのだろう。

 少し頭の中で思い描いてみようとすれば実に簡単で、インの口が引きつりつつも本題に入る。


「実はですね。今回魔法を習得しようと思いまして」

「魔法?」


 そう、イベントでも言われていたことだ。

 インは筋力が足りず、魔法戦が得意なエルフの種族なのに、ひとつとして魔法を扱うことできない。

 それは前イベントで酷く痛感した。

 ニ匹がいなかったら。

 そうなればSPすべてを幸運に振っているインでは、相手が自分より低LVだとしても負けてしまうだろう。

 そもそも運以外に振ればいいだけの話なのだが。


 そうでなくとも、魔法があれば少なからず虫たちをサポートできるようになる。

 インにとって、魔法習得は何よりの一歩になるのは確実――という建前と、実はもう二つ理由が存在している。それは、


(グラスウルフやライアの時に見たけど、魔法ってかっこいいよね! それに羨ましい!)


 ライアが上からギュンギュンレーザーを放つあの姿。

 ピジョンと戦った時に苦しめられた、あの風魔法の存在。

 自分もあんな風に何かを撃てれば、どれほど楽しい事だろうか。

 という、あくまで虫たちがメインであるのは変わらず、自分も魔法が撃ってみたかったのだった。


 ちなみにインの着ているライアの魔法少女服。

 現在『変身』アビリティにて布の装備なっている代物だが、この状態でも光魔法自体は放てる。

 あくまで自動回復が付いてこないだけだ。


「なるほど、確かにエルフなのに魔法を使えないのは痛手になるわね」

「はい。ですので、ピジョンちゃんに図書館まで案内してもらって、会得した後に一緒に冒険をしようかと思――」


 そこまでインが言うと、いきなり焦りを顔に張り付けたマーロンが肩を掴んできた。

 一体どうしたのかと小首を曲げるイン。


「絶対鳥に染まっちゃだめよ。絶対だからね!」

「染めない染めない。私のプレイスタイルくらいマーロンちゃん知っているでしょ~」

「そう鳥に言われて信用するとでも思うかしら?」


 マーロンの目から一方的に火花が流れ、ピジョンはニコニコとした笑顔で受け流している。

 正しくギスギスとした雰囲気。

 いたたまれなくなったインは、ミミの上にアンを乗せる。


「それじゃあ私はもう行きますね。ありがとうございました、マーロンさん!」

「話は――、とにかく鳥! インちゃんを絶対に悪い道に進ませないで!!」


 鬼気迫る表情で忠告をするマーロン。

 インはニコニコと手を振っているピジョンの肩を掴み、星の種から早急に抜け出すのであった。

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