葛藤
二人とミミは、再びライアのにおいを追跡できるアンを先に行かせて、元の人間工場現場に戻る。
そこでは相変わらずマスコットキャラが反抗されない為か人間に鞭打ち、黄色い宝玉で力を吸い取っている。
そのうちの何人かは、吸われすぎたのか動くことすら怪しくなっている。
インは何か変化があるのか確かめようと、ライアからもらった魔法少女服を取り出し、効果を覗いてみる。
超回復の魔法少女服(黄) 激レア
この服を着たものに、マジカルでミラクルなカースドの力を与える。
効果HP自然回復Ⅰ、MP自然回復Ⅰを付与し、『光魔法』アビリティLV15相当を使えるようにする。
今イベント最中、HPとMPの上限が999上昇し、『光魔法』アビリティにプラスLV460。
HP自動回復Ⅳ、MP自動回復Ⅳ、毒Ⅹ、麻痺Ⅹ、『魔力増加LV49』『速度増加LV18』を付与する。
やはり前見た時よりも大幅な強化が進んでおり、さらに『速度増加』が追加されている。
恐らくライアが目覚めた事で、外にいる侵略者が部屋に強制ワープさせているからだろう。
「さてインちゃん。ほんとにいいのかにゃ~? これ壊しちゃったらあの魔法少女は消えるかもよ」
「分かってる。分かってるよ。でも、だからってここで苦しんでいる人を見逃す理由にはならないと思う」
「真面目だね~。もっと肩の力を抜こうよ」
インの背中へと、ピジョンが倒れるようにもたれかかってくる。
そして後ろから腕を伸ばしてくると、そっと困惑しているインの胸へと手を怪しく当てる。
そして、揉んだ。
ピジョンが何度も手を動かしてくるのだ。
「ちょっえっ、なにするのピジョンちゃん!」
あんまりにも唐突なセクハラに跳びあがるイン。
距離をある程度取ると、ピジョンを睨みつける。
「ごめんごめん。揉み心地はちょっと固いのが気になるけど確かな柔らかさもあり、単純に大きいだけの人とは違うから、今後の成長期待っと!」
「ピジョンちゃん。後でお仕置きねってそうじゃなくて、なんで今!」
厚かましく勝手に評価を下してくるピジョンに、これから住民を救う前にやる事ではないと若干涙目になりつつ、インはアンをぎゅっと抱きしめてハサミを向ける。
「ごめんごめん。けど何度も言うけどこれはゲーム。ここで誰かが死んだところで現実の誰かが死ぬことはない。このイベントだって、終わったらみんなアイテムだSPだで終わり。数日も立てば面白かったで終わるんだよ」
「だからって!」
「使命とか義務とかでゲームをやるのは楽しくないよ~。もっと気楽に。ストレス解消でやっているのに、逆にストレス貯めてどうするのさ」
「それでももし、私が助けられるんだったら」
アンを抱く力が強くなる。
目の前で苦しんでいる人がいる。
助けを呼んでいる風に見える人がいる。
例え理がなくとも、友達を殺す真似になったとしても。
自分がライアの立場なら、絶対に人の命を奪ってでも生き永らえたくない。
ならば、それだけで助けるには十分な理由なはず。
だがピジョンは嘲笑う。
「にゃはは、偽善っていうんだよそれ。ゲームや小説の主人公を自分に当てはめて、人々を救う英雄になった気分にでもなるのかな? それなら確実に勝てるように、魔法少女を強化したままにして、終わってから解放すればいいじゃん。それでインちゃんは、晴れて両方の英雄だよ」
魔法少女側が確実に勝てるようにしてから解放するべき。
ピジョンの言う通り、その方が万が一にも魔法少女が負ける可能性を潰せる。
これは単純に、インとピジョンだけの問題ではない。
すべての魔法少女側に言える事だ。
ここで開放してしまえば、せっかく楽々勝てる勝負をみすみす逃すことになる。
たった一人の、インの意見だけで潰していいのか。
「分かってるよ。その方が確実に勝てるって」
「解放したら、ライアが消えるとしても?」
魔法少女は侵略者の寄生虫といってもいい。
彼らがいなければ終わる命であり、あの驚異的な魔法を撃つことすらできない。
だからってこのままにすれば、供給源の彼らが苦しい思いをしたままとなる。
どちらかを救おうとすれば、必ずどちらかを見捨てる事になる。
それは正しく、究極の選択。
「インちゃんがやらないなら私がやろうかな~」
「……えっ?」
「意外と私にも理がある行動なんだよね。それによく見てごらんよ。電流の中にいる人たちを」
ピジョンに言われるがままインは部屋の中を覗き、力を吸い取られ衰弱しきっている人間の、その惨たらしさに思わず目を逸らしそうになる。
「これの何が!」
「ハイハイ、もう一度よく見ようね~。知的なインちゃんなら分かるはずだよ」
ピジョンがインの頭を掴み、強制的に部屋の様子を見せようとしてくる。
中はあまり見たくはない。
見たくはないが、ピジョンの言うように何かがあるのだとしたら。
インは瞼を見開いて見ると、気づいたようにもう一度ライアの服を見る。
(数が足りない? 百人以上は居るけど、それでも四百や二百はいかない?)
「おっと~、その様子だと気づいたみたいだね~」
ミミが触手で、インから離れるようにピジョンの体を巻いて引けば、引き際よくインから距離を取る。
「もしかして、この町全体がライアの供給源」
「あったり~! ピンポンピンポン!! と言っても確証はないけどに~。でも数は明らか外にいる人も足さないと一致しないし、外の人も少し参ってる様子だったからってくらいしか証拠はないけどね」
「なら!」
光明が見えてきた。
ほんのりと薄い光でしかないが掴んでみる価値はあると、インが顔を上げる。
その前にもう一度、ピジョンから問いかけが飛んでくる。
「それでインちゃんは、この〈裏切り〉ができるイベントで、最後はどっちの味方をするのかな? 侵略者? それとも魔法少女? 今のままではガッツリ侵略者側だよ?」
「私は侵略者には味方しないし、魔法少女の味方もしないよ。ライアの味方をするだけ。相手はNPCだけど友達だって言ってくれたから、私は助けるよ」
電流で出来た檻を視野に入れると続いてアンとミミを見て、インはどう攻略するかを考えだし、作戦を練り込みアンを持ち上げ立ち上がる。
万一にもピジョンからの助言を組み込んでいる為、大丈夫だろう。
ここの侵略者を開放すれば、すべてが敵となって襲い掛かってくるかもしれない。
そうなった彼らを手にかけるのであれば、意味どころか時間の無駄と変わる。
助けてどうするのか。
そこが重要なポイントになるのは間違いない。
それはインにもわかっている。
だからこそ早急に終わらせるため、インは告げる。
「ミミちゃん『巨大化』!」
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