長年の復讐

羊丸

第1話 襲撃の始まり

 寒い秋、人々はマフラーやジャケットを羽織って街中を歩いていた。木の葉は地面に落ち、風に舞っていった。


 そんな中、渡辺康介は車で後輩の佐藤聡と一緒に先ほど取引先との話を終えて休憩をしていた。


 聡は買ったコッペパンを食べながら安堵を漏らした。


「ふぅー。無事に契約取れて良かったすね。康介先輩」

「あぁ。これで今のところ大丈夫だ」

「そうですね。それにしても」


 聡は康介が食べているきれいに並べられた具材が入っている弁当を見つめた。


「羨ましいっすよ康介先輩は。綺麗な奥さんがいる上に可愛らしいお子さんまでいて」

「ハハ、お前もいつか出来るよ」


 康介には二歳年下の渡辺百合と言う奥さんと、小学一年生の冬真がいる。


 百合は大学時代に付き合いだし、卒業の二年後に結婚し、一年後に冬真が産まれた。


 冬真が小さい頃はよくおんぶや肩車などをしていたが、今じゃあ小学一年生。しているとしてもせいぜい手を繋ぐことしかしていない。


 そして年のせいか足腰が最近は痛みを感じるようにもなってきた。


 ご飯を食べ終わったらすぐに会社に戻って、残りの仕事をやってコンプリートだ。


「それにしても、まさか会社まで一緒になるとはな」

「あぁ、俺はお前がここに入ったときビックリしたぜ」


 聡とは高校生の時からの知り合い。なぜだか大学も一緒になったのだった。


「私もですよ。あっ、まさかこれは」

「運命とかじゃねぇよ」

「さすが康介先輩。察しがいいすっね」


 二人はしゃべりながらご飯を食べ終わると、康介は聡に車を運転するように頼んだ。


 会社に付くと、二人は会社内に入って自分のデスクに荷物を置いて、部長に今日の成果を報告した。


「いやぁ今日もご苦労だった。この調子でドンドン契約を取ってくれよ。康介君と聡君は上層部の中でも期待されているからな」


 部長は笑顔で2人に言った。


「いやぁ、先輩のコミュニケーションのお陰で何個かの会社と契約取れますからねぇ」

「いやいや、お前だってしっかりと内容の説明してくれるお陰でもあるんだから」


 2人は互いに褒めあいながら再び自分のデスクに戻り、残りの仕事を黙々と始めた。


 レポートをまとめていると、康介のスマホから着信音がなった。


(誰からだ)



 ポケットから取り出して見てみると、それは友人の碧斗りくとからだった。


 高校生時代の友人に康介は嬉しくなり、メールの内容を見た。


“今日の夜に飲みに行かないか? 他のみんなも一緒だぜ”


(他ってことは、あの3人かな?)


 康介は残りの三人の名前を思い浮かべ、メールを打ち込んだ。


 “それって、ひなた大輔だいすけいつきか”


 そうメールを打ち、送るとすぐに返事が返ってきた。


 “正解だよ。こいつらも全員許可貰ってっからあとはお前だけだ”


 碧斗の許可に康介は妻にメールするためにトイレに向かった。ここで名がメールしていたら部長に怒られてしまう。


 トイレに行き、個室の中に入って愛する妻にメールを打ち込んだ。この時間帯だときっと家事をしている頃だろう。


 “百合、今日友達から飲みに行かないかと誘われたんだがいいか? 久々に飲みに行って”


 打ち終えて送ると、数分もしないうちにメールが送られた。


 “勿論いいわよ。でも飲み過ぎは注意。あなた前、結構酷く酔っていたら冬真迷惑顔していたわよ。じゃあ、夕飯は作らなくて良いのね?”


 百合のメールの内容に康介は思わず笑みが浮かんでしまった。結構前に飲みすぐて玄関の中で倒れている所を、冬真は頬を膨らまして怒っていたことを覚えている。


 “勿論だよ。夕飯は作らなくていいから冬真とご飯食べててくれ”


 メールを打ち返し、そのあとに碧斗に返信をした。


 “許可を貰ったぜ。何処で待ち合わせだ?”


 康介はそのあと碧斗から待ち合せ場所を聞くと、ここからさほど遠くない飲み屋だった。


 トイレから出ると、今日は早めに仕事を終わらす様に心の中でガッツポーズをした。

 


「終わったー」


 康介は仕事を終えると大きく背伸びをして言った。


 時刻を見ると午後の六時半。窓を見ると既に暗くなっていた。


 カバンの中に出来るだけの者を詰め込み、スーツを羽織った。


「先輩。今日早いっすね。何かあるんすか?」

「今日、久々に友達と飲みに行くんだよ。それじゃあな」

「はーい。お疲れ様です」


 後輩や他の人に挨拶をしながら会社を出た。


 小走りで歩き続け、指名された飲み屋へと向かっていると。


「康介ー」


 後ろから名前を呼ばれて振り返ると、そこには碧斗がスーツ姿で手を振っていた。


「おぉ! 碧斗。久しぶり」

「久しぶりだなぁ。ここんところ皆忙しすぎてあんま会わなかったからな。じゃあ行こうぜ。あいつら店前で待ってるってさ」


 碧斗と康介は店に向かいながらこれまでのことを楽しくお喋りをしていた。


 店に着くと、そこには茶ばつでパーマ髪の陽と角刈りの大輔、黒髪の樹がいた。


「お前らー」


 康介が声を掛けると、三人は一斉に見た。


「おぉー。久しぶりー」


 陽は満面な笑みで手を振って近づいた。


「皆変わったなぁ」


 康介は皆の変わった姿を見て言うと、大輔は笑みで口を開いた。


「まぁな。さっ、早く中に入ろうぜ。飲みたい早く」


 大輔の言葉に皆は頷き、店の中へと入って行った。


 店に入ると、店員の男性が康介たちに何名かを聞き、指名席へと案内してくれた。


 周りは畳みで座って、飲んでいる人が多く。他人のバカ騒ぎが聞こえてくる。


奥の席に案内をし、四人がそれぞれ座っていると他の男性が四つの水をテーブルの上に置いた。陽は四人に「何飲む?」と質問をした。


 四人はビールと言うと、陽は店の人に注文をした。


 男性はかしこまりましたと言ってその場を去った。


「しかし俺ら、結構な勝ち組になったな」


 樹は四人を見わたしながら言った。 


 その言葉に碧斗は康介を見た。


「いやいや、一番の勝ち組になったのは康介と樹。一流の企業に務めては美人な妻と可愛い息子、樹もそれなりの美人を手にしてんだからさ」

「あぁ、確かに。康介と樹以外独身だもんな」


 大輔は頬に手を置きながら言った。


 碧斗の言葉に康介は自慢の顔を見せた。


「まぁな。でもお前たちだって凄いじゃん。陽は美容院の店長。大輔は銀行員で樹が営業マン。碧斗はファッションデザイナー。お前だって十分に凄いって」


 そう言いつつ、目の前にビールが来ると皆はガラスを握り、久々の乾杯をした。


「ぷはぁ。仕事の後のビールはやっぱうめぇ」


 陽はビールに付いた泡を拭いながら言った。


「あぁ。そう言えば今思ったんだけど、クラスの皆してんだろうな」


 大輔は自分が飲んでいるビールを見ながらクラスのことを言うと、樹が微笑んで口にした。


「でもあいつはぜってー俺達のような仕事はぜってーしてねぇぜ。あの陰キャ」


 あいつという言葉を口にした同時に、皆は察した。


「ハハッ。それはそーだろ。あの陰キャで俺達に虐められていた山内晴馬。あいつはぜってーフリーターだぜ」


 陽の言葉に、皆は頷いた。


 山内晴馬、昔高校生の頃に5人で虐めていた人だ。


 それなりで外見は皆気にしていたため、クラスのみんなや先生にバレないように下駄箱に画鋲などその他諸々入れたり、机の中に入っている教科書をちぎったり、落書きなどをした。


 あとは放課後裏で殴ったり、脅したりなどもしてお金などを奪ってそれでゲーセンなどにも行った。それも卒業をするまでだ。


 その後は晴馬とは会ってはいない。同窓会までもいなかった。


「でも昔のお前も結構酷かったよな」


 碧斗は康介を見ながら言った。


「どこだが?」

「うわっ、無自覚かよ。だから、昔あいつが育ててた野良猫を半殺ししてたじゃん。あと、あいつの足なんか何回も蹴りまくったし」

「そういうお前らはどうなんだよ」


 康介は負けない勢いで悪戯っぽく反論をした。


「碧斗はホースであいつの溺死みたいなことをさせようとしたし、陽はあいつの大切な物を壊したり、樹は顔面を殴ったり、大輔は苦手な虫を結構与えていたじゃん。一番酷かったのはお前じゃねぇじ」


 康介の言葉に、4人は反論をしなくなった。


「まっ、あいつがどうしようが俺らは知らないけど」


 碧斗は生ビールをグイっと飲み干すと、隣にいた店員にお代わりを言った。


 康介はビールを眺めて思い返した。


 確かに高校時代は特にやんちゃで、特に酷い虐めをしていた。罪もない生き物だって半殺しにもしたし、酷い事ばかり繰り返していた。


 でも、今の幸せを壊したくない。むしろ失いたくない。もし会ったとしても、謝ればなんとかなるだろう。


 そう思いながら、5人はメニューを見て何にするか悩んだ。

 


 数時間後、午後十時にまわると五人は店を出た。


「ふぅ、沢山食べたなぁ」


 陽はお腹をさすりながら言った。


 康介は皆と一緒に歩きながら四人に明日のことを聞いた。


「あぁ、それよりも明日はどうなんだ? 皆は」

「俺は、明日は仕事」

「俺も」と大輔

「俺は明日オフ」と碧斗

「そうか。俺は明日も会社だよ」


 五人はそれぞれ楽しくお喋りをし、大輔と樹、陽は違う道なために碧斗と康介は一緒に家へと向かった。


 碧斗は前を見て、康介に話しかけた。


「それからさ、冬真君は今何歳?」

「えっと、七歳だよ。小学一年生だよ。すくすく育ってるから嬉しいよ」

「ハハ、でもお前みたいに育つことはやめてくれよ」

「勿論だよ。あんなんじゃなくて、純粋な子に育てていくつもりだ」


 その時、後ろから気配がしたため思わず振り向いた。


 振り向いたが、そこには誰もおらずただの電灯だけが残っていた。


「ん? どうした」


 振り向いた康介に碧斗は聞くと、その場を誤魔化す様に「なんでもない」と康介は言った。


「あっ。俺はここで帰るからじゃあな。また飲みに行こうぜ」

「おう。じゃあな」


 二人は声を掛けて別れた。


 康介は思わず夜空を見上げた。何も、雲一つもない空には星がいくつか並んでた。


 一息付いてから小走りで家に向かった。

 

 家に付き、呼び鈴を押すと愛する妻の百合が顔を出した。


「お帰りなさい」

「ただいま百合。冬真は?」

「もぅ寝てますわよ」


 百合は笑顔でカバンとジャケットを受け取り、お風呂が沸いているから入ってと言った。


 康介は息を吐きながらソファにに座り込んだ。


 一日の仕事疲れがどっと体がから沸き上がり、家に帰られた安堵にとても安心がする。


「あなた」

「ん?」

「久々に皆とあったんでしょ。どう? なんか変わってた?」


 百合は隣に座り、康介の顔を見ながら言った。


「うん、変わったところはまぁ少し老けたって感じかな?」

「へぇ、写真とかは撮らなかったの?」

「あぁ、撮ったよ」


 康介はカバンから携帯を取り出し、飲んでいる時に撮った画像を見せた。


「まぁ! 皆さん少しだけ変わったわね。やっぱり時が過ぎると人がそれぞれ変わるわね」


 百合は写真を眺めながら笑顔で言った。すると突然、寂しい表情を見せた。


「でも、少しだけ寂しくなるわ。あった人がここまで変わっちゃうとね」

「そうだな。あっ。風呂に入ってくる」


 康介はそう言うと立ち上がり、風呂に向かった。


 風呂に浸かり終え、濡れた髪をタオルで吹きながらリビングに向かうと、百合はお笑いのテレビを見て笑っていた。


「あはは! あっ、あなた。この芸人とても面白いわよ」


 テレビには芸人が面白おかしくネタをやっている所だった。


「あぁ、この芸人最近見るようになったよな」

「えぇ、ハマっちゃいそうだわ」


 百合は笑いながらソファから立ち上がり、「お風呂に入ってくるわ」と言い、風呂場に向かった。


 康介はソンアルコールを冷蔵庫から取り出し、開けて一口飲んだ。


 冷たいのがのど越しに流れて気持ちが良い。


(それにしても本当にあいつどうしてんだろ。コンビニかカラオケ店で働いてんのかな?)


 康介は飲みながら思わず考え込んだ。


「まっ、俺にはどうでもいいことだけど」


 康介は、今日のことをさかのぼった。部長の期待にされ続ければこのまま昇格するに間違いがない。心の中でウキウキしながらビールを飲んだ


 ソファに座ると同時に他の芸人のネタが始まろうとした。

 


 樹は酒の酔いが周りいながら陽と大輔と別れた。


「事故るなよー」


 陽は笑って言い、樹も笑って別れた。


 樹は少し早く歩きながら買ったばかりの一軒家に向かった。行けば愛する妻が笑顔で出迎えてくれる。


 そう思いながら家に付き、呼び鈴を鳴らした。


 鳴らしたが一向に妻が来る気配がない。留守かと思ったが窓には光が差し込んでいる。


(まさかソファで寝ているのか?)


 樹はそう思いながらドアに手を掛けると、ガチャリと音が鳴って扉が開いた。そのことに樹は目を見開き、一気に酔いが覚めた。


(えっ‼ あいつ、鍵も掛けずに寝たのか?)


 あまりの危険さと無防備さに、樹はすぐに家の中に入り、靴を脱いで愛する妻に声を掛けた。


「おーい。何鍵をかけ忘れているんだ。泥棒に入られたら最悪だし、お前の身の危険も考えろ」


 リビングに向かって大声を出し、ドアを開けたがそこには妻がただテレビを付けたままソファに座っていた。


「おいおい。起きていたのかよ。ビックリさせんな」


 言いながら肩を触れると、妻がその場でゆっくりと倒れた。


 急なことに樹は驚き、すぐに妻を抱えた。


「おいっ、どうしたって」


 顔を見てみると、ただカツラを被ったマネキンだった。


「なんでここにマネキンが」


 マネキンを眺めている次の瞬間、刺す音と同時に足から猛烈な痛みが走った。


 思わず樹はその場に蹲り、足を見てみるとそれは自分の家に愛用していた氷を割るために使っているアイスピックが太股に刺さっていた。


 訳が分からず見上げると、そこにはボサボサで黒髪頭、黒いマスク、黒いパーカーと黒いズボンをまとった男が見下ろしていた。


「なっ、何者……だ」


 息を荒くしながら言うと、男は黙ったままアイスピックを抜き、片手で力強く髪を掴んで自分の顔に引き寄せた。


「なっ、なんだよ」


 男は無言のまま黒いマスクを外した。


 マスクの下には、右の頬に古い切り傷があった。


 樹はその傷に見覚えがあり、その男に恐怖を感じた。


「おっ、お前」


 名前を呼ぼうとした次の瞬間、男はアイスピックを目に突き立てた。


 ビクビクと痙攣させると、そのまま息を耐えた。男はまだ生きてほしかったが、家の周りに立っているため悲鳴などが聞かれたら通報されてしまう。そんなことを考えながらすぐにカバンの中から数本の釘を取り出した。


 眼球をスプーンで力づくでえぐり、コップの中に眼球と少々の血を流し込んだ。


 両手の平に釘を打ち込み、その次には釘を顔全体に一本ずつ埋め込んだ。


 トンカチの叩く音と同時に嫌な音が部屋に響き渡っていく。


 妻が起きないかは心配をしたが、起きてきたらまた気絶をさせればいい。そうしたほうが手間がはぶけるからだ。


 そして、男は思った。この無残な姿になった樹をあいつらが見たら、思い出してくれるのだろうか? そんなことを考えながら釘を打ち続けた。

 



 寒い朝、康介は身震いをしながらベットから降りると頭が痛くなった。きっと昨日飲み過ぎたせいだろうと感じた。


 痛みに耐えながら後で薬を飲もうと考え、リビングに向かった。


 リビングに向かうと既に服に着替えた冬真が抱き着いてきた。


「おはよー。お父さん!」


 康介は笑顔で挨拶を返し、冬真を抱き上げた。


「おはよう。あなた」

「あぁ、おはよう」


 百合にも笑顔で挨拶をし、冬真を椅子に座らせた。


 テーブルの上には卵とハムと牛乳、パンがお皿の上に乗っていた。


 食べようと手を合わせ、冬真と一緒にご飯を食べた。テレビには天気予報とおすすめのお店、商品などが紹介をさせられている。


 康介はご飯を食べ終え、歯磨きなどを済ませてスーツに着替えた。


「あなた、今日は何時ごろに帰ってくるの?」

「あー、いつも通りだよ。今日は何も誘いとかないと思うからさ」

「わかったわ」


 冬真と百合に「行ってきます」と言い、康介は家を出た。


 会社に付いた康介はカバンを机の上に置き、テーブルに置いてあるパソコンの電源を入れた。


(よし、今日も家族のために頑張るぞ!)


 康介は心の中で言い聞かせ、仕事を再開しようとすると電話がなった。


「ん? 誰からだ」


 康介は見てみると、碧斗からだった。


 何だろうと思いながら席を外し、トイレの個室に入った。


「もしもし」

「あっ、康介。今から俺が言う事を黙って聞いてくれ」


 碧斗の真剣な声に康介は「わかった」と一言言った。


「樹が、死んだ」

「は?」

「本当だ。しかもただ死んだんじゃない。殺されたんた」


 碧斗の言葉に理解が追いつかなかった。


「どうゆうことだよ。それ、そもそも何で」

「分からない。ともかく警察署に来てくれ。一度会社を出られるか?」

「分からないけど、なんとかなるかもしれない。もし出来たら連絡するよ」

「わかった。早めに頼む」


 碧斗はそう言うと、電話を切った。


 康介は電話を切った後でも、頭が真っ白だった。昨日まで元気だった樹が亡くなるというのは予想はしなかった。


 息を整え、康介は足早にトイレの個室を出ていった。


 部長に先ほどのことを説明すると、驚愕の顔をし、すぐに一時的の早退を許された。


 康介はすぐにメールで許可が降りられたことを伝え、すぐさま会社を出た。


 警察署に付き、中に入ると碧斗が受付辺りで待っていた。


「碧斗!」


 声を掛けると、碧斗はすぐに康介に近づいた。


「二人は」

「先に行ってる。今、捜査一課っていう所で待っているよ。早く行こう」


 碧斗の言葉に康介は頷いた。


 布式の床を歩き続けると、スーツとは偉くちがく、紺色のジャケットに長い黒髪を伸ばした女が立っていた。それも見覚えがある女だった。


「お待ちしてし、あれ、康介?」 

「えっ。直美?」


 それは高校の同級生だった直美だった。


「お前、なんでここに」

「なんでって、私はこの事件の担当者だからよ。さっ、他の二人が待っているわ。中に入りましょ」


 直美はそう言うと、ドアを開けて二人を中に招き入れた。


 中に入ると、白いデスクと黒い椅子、何か事件に関することなのかファイルが鉄の棚の中にズラリと入っていた。


 右にはもう一つの部屋があった。そこには二つの影が浮かんでいた。


 直美はその部屋のドアを開けると、陽と大輔が昨日とは違い暗い表情でいた。その目の前には少し茶色が掛かった髪をしたスーツ姿の男がいた。


 二人は康介と碧斗を見たが、すぐに前を見た。スーツの男は「直美さん」と言って立ち上がった。


「紹介するよ。私の後輩であり相棒の真斗だ。先月配属されたばかりの新人だ」


 直美がそういうと、その真斗という男性は自己紹介を再びしながら話した。


「初めまして、同じく捜査一課の石田真斗です」


 康介と碧斗はその二人に頭を下げた。


「それじゃあ、空いている椅子に座れ」


 直美は空いている席に二人を勧めてから自分は前の席に座った。座ると同時に警察の服を着た女がお茶を目の前に出すとさっと消えていった。


「じゃあまず、昨日のことを話してくれるかしら」


 直美は腕を組みながら質問した。横ではペンと手帳を持った


 康介が一通り昨日の事を話しながら直美もメモをとった。


「なるほどね。じゃあ、帰りに一緒にいたのは陽と大輔だけかしら」

「あぁ、でも俺達は途中でバラバラに帰った。俺と碧斗は直美、反町駅って言うところに行ったんだ。なぁ、信じてくれ」


 大輔は訴えかけるように目の前にいる刑事二人に言った。


「そのことに関しては後で駅の防犯カメラを調べる予定です」


 真斗はメモをしながら言った。


 すると、直美は腕を組むのをやめて息を吐くと姿勢を整えて話だした。


「今から話すのはちょっとグロいが、いいか?」

「えっ! 直美さん。あれやっぱ話してしまうんですか?」


 真斗はあれというと顔色を変えた。


「当たり前だろ。あんな風に殺されるなんておかしいと思わないか。普通の殺しじゃねぇ」


 二人の話の内容にどうゆうことが気になっていると、直美はすぐに説明をしてくれた。


「じゃあ、説明するわね。まず、奥さんは家で旦那、樹の帰りを待っている時に背後かいきなり首を絞められたんだ。そしたら耳元で銀行の暗証番号と今持っている金を渡せって言われたらしいから、言ったらハンカチで口を押さえつけられたんだ。睡眠薬でも嗅がせただけで、奥さんは体に害はなかったわ。でも、樹の状態はかなり派手だったわ」


 直美は髪を掻き上げると、隣にいる真斗は思い出しのかもっと顔色を悪くした。


「奥さんが起きた時、すぐに警察に連絡しようとしたけど、階段に血が道案内をするかのように書かれていたのよ。それで追いながら見てみると、絶叫したわ。私も見た時は目を背けるぐらいの姿だったわ」


 そう言うと、直美は一枚の写真を机の前に置いた。


 四人は見ると、驚愕をしてしまった。


 樹は床に両手を釘で刺され、顔は何十本の釘で打ち込められていた。


 その写真に皆は吐き気を覚えた。


「床に書かれていた血は、えぐった眼球で描いていたんだ。私の推測ではアイスピックで樹の足を刺し、その後目に突き立てたあとに家にあった釘を顔全体に埋め尽くすかのようにされていたわ。両手は顔をやった後にされたと考えているわ。あまりの残酷さよ」


 直美の言う通り、あまりの残酷さだ。普通の殺人は胸を刺したり、頭を殴ったりして殺すはずだ。なのに、顔全体埋め付くすほどの釘を打ち込むなんてあまりの異常者過ぎだ。


 直美は写真を内ポケットにしまうと、説明をし出した。


「はっ、犯人、犯人の顔は見たのか?」


 陽は戸惑いながら言うと、真斗は「そこは俺が説明します」と言った。


「奥さんから聞くと、なぜか壊れかけの腕時計を右手でしていたのと少し抵抗した時にそいつのマスクをとった時に、右頬に古傷をしたいたと」

「時計? どんな?」と碧斗

「うーん、ベルトが黒で、何というんでしょうか。言っては悪いですけれど、古くさそうな時計だったらしいです」


 壊れかけの古くさそうな時計、頬の傷、康介はその犯人の姿が段々と思い浮かんできた。


「晴馬だ」


 大輔の言葉に、直美は「えっ」と声を漏らした。


 咄嗟に碧斗は叫んだ。


「大輔!」

「だってそうだろ! あいつだよ。あいつが樹をやったんだ。俺達の復讐をしに来たんだよ! 昔のことを根に持って」

「おい、どういう意味だ。それに復讐って。お前ら、一体全体何をしたんだ。そいつに」

「そうですよ。ただなんでこれだけで復讐だなんて、どうゆうことですか?」


 直美と真斗は4人に厳しい目を送りながら言った。大輔は「しまった」と言うかのようにくちを手で押さえたがもぉ遅い。直美の目つきに、隠し事は出来ないと判断をした。


 ここでも康介が代表として、高校生時代に晴馬にしてきた事をわかりやすい内容で省略しながら話した。


 案の定、直美は冷めた視線と呆れた顔をしていた。真斗は話に思わず机を叩いて立ち上がって叫ぶほどだった。


「あんた一体何をしているんですか!! そんな酷いいじめをしていながらよく幸せにしていられますね!」


 真人の言葉に直美は同感するかのように頷いた。


「お前ら、そんな酷いことを高校時代そいつにし続けていたのか? 聞いて呆れるわよ」


 直美の険しい声と真人の声が胸に響き、4人は何も言い返せないでいた。


「それで、他に隠し事は?」

「してない。これで全部だ」


 康介は唇を嚙みしめながら言うと、直美はため息を付いて自分の手帳を見る。


「うーん。じゃあ、樹がこの殺し方をされたってことは、あいつが主なことをしたのは顔面を殴ったてことか?」

「あぁ、そうだな」


 陽は昨日とは違い、声のトーンを低くして言った。


「でもまさか噂が本当だったとわね」

「何が?」


 康介がそう言うと、直美は「悪い噂」と言った。


「陰でアンタらを妬んでいた奴がそう噂をしていたのよ」


 直美はまたため息をはいた。


「まぁ黙ってあげるわ。でも、私助けたくないわね。あんた見たいなクズなんかそのまま死んでほしいけれど、一応警察だし助けてあげるわ。感謝しなさいよね」


 直美の言葉に四人は必死に頷いた。


「なっ! なんでですか直美さん。虐めを黙るだなんて、おかしいですよ! この4人と被害者は犯人に胸糞悪いイジメをしていたんですよ! それを黙るだなんて納得いきません!」


 真斗は同意できない気持ちで康介たちを指差しながら言った。


「確かに黙るだなんて嫌なのは確かよ。だけど、この康介には子供がいる。こんなもんがマスコミなんかにかぎつけられて見ろ。その子供は友達にシカト、陰湿なイジメに合う。それでもお前はいいのか?」


 直美は説明すると、真斗は何も言わなくなった。


「それにしても、かなりの時間をかけて考えたのね」

「何がだ?」と康介

「何って復讐よ。復讐。もし証拠を握っていたとしたらその証拠を家族、会社の人にばらすかでやるけど、殺人となるとかなりの時間を掛けて復讐に臨んだはずね」


 直美はため息を漏らして言った。


「とにかく、色々晴馬を調べることは確かね。ちょっと他の部署の友人にも協力してもらうわ。さっ、今日はもぅ会社に行ってよろしい。また何か情報を掴んだから連絡するからこの紙に電話番号書いて頂戴」


 直美にそう言われ、康介は自分の電話番号を書くと直美は黙ってポケットの中に入れ、四人を出口まで案内し、何かあったらまた伺うと言われて警察署をあとにした。


 樹の無残な死に方が脳にこびり付いて頭が痛くなる。


「なんで、こんなことに」


 陽は予想が出来なかった事態に頭が追いつかなかった。


「ともかく、今はただ警戒心をつねに持て。何処からかであいつが監視しているに違いないからな」


 康介の言葉に、三人は同情をした。その後、四人は別れて会社に向かった。


 会社に付くと、後輩が駆け足で悟が近づいた。


「先輩。部長から聞きましたが友達が殺されたって本当なのですか?」


 後輩の言葉に、康介は頷いた。


「そうですか。あっ、部長が先輩が来たら話しがあるらしいです」


 すぐにデスクに自分のカバンを置き、後輩と一緒に部長の所に行った。二人の顔を見た部長は神妙な顔をして見つめた。


「あぁ、康介君。ご友人はどうなったかね」


 康介は顔を横に振ると、察したのか「そうか」と言うと話し出した。


「まずだが、社長が今日のことを話すとお前らはしばらく取引先との商談は控えるようにと言われた。社長に警察の友達がいるんだが、特別にその状況のことを聞いたら流石に遠出は危険かもしれんと言う事でだ。そう言うわけだから、犯人が捕まるまでは会社内で作業をしてくれたまえ、いいな」


 部長の言葉に康介は頷いた。今この場で犯人がなぜ康介達を狙う理由が明らかになったら会社をクビにさせるかもしれない。そうなるのは出来る限り裂けたいため、今は言うとおりにするしかない。


 二人でデスクに戻ると、聡は背伸びをしながら呟いた。


「いやぁ、しかし大変なことに巻き込まれましたね」

「あぁ、そうなだな」


 苦笑いをして言い、パソコンを開き今日一日の仕事を始めようとすると後輩が自分の所に近づいた。


「それより先輩。その友達一体全体なんで殺されたんですか? なんか変な恨みでも買ったんですか?」


 聡の言葉に康介はドキッとしたが、すぐに誤魔化すように咳ばらいをして


「知らない」と言い、と言ってプリントを整え、仕事を始めた。



「直美さん、あなた優しくないですか?」

「えっ? どうして?」


 会議を終えた二人は、晴馬の過去を調べながら目撃情報と被害者の交友関係について調べにいくところだった。


 車を運転している真斗は、先ほどから不貞腐れた顔をしながら話した。


「あの人たちのためにここまでするなんて、おまけに部下全員の前で頭を下げるなんて。他の人が言っていましたよ。よくあのクズのことを庇えられるなぁって」


 直美は耳に髪を掛けて話した。


「ただ刑事の仕事をまっとうしているだけさ。こんな事件が起きているんだ。いつバレてもおかしくない」


 直美はそう言いつつ、再び黙り込んだ。


 樹が働いたとされている銀行に着き、車を停めて建物内に入っていった。


 入ると、何人かの老人なのがお金を入金したり、下ろしたりしている姿や呼ばれるのを待っている姿が見られる。


 直美と真斗は手帳を見せ、店長を読んでくれた。


 店長らしき人は頭を下げながら自己紹介をした。


「初めまして。太田銀行の社長の和村義昭と申します」

「捜査一課の吉田です」

「同じく石田です」

「ここではなんなので、どうぞこちらに」


 義昭は二人を社長室に案内をし、椅子に座らせた。


「えーと、それでなぜ刑事さんがこちらに」


 義昭の質問に直美が言うと、驚きの顔を見せました。


「なんですって! 樹くんが、殺された?」

「はい。殺された姿なんですが、ものすごく恨みを買っている姿でして、それで会社の方に樹さんを恨んでいる人物に心当たりがないでしょうか?」


 真斗はペンを持ちながら質問をすると、義昭は頭を抱えた。


「いやぁ、特に彼はそんな恨みなんて買っていません。それにそんな噂も耳にした覚えもありませんし、あっ。ですが恨みというより時々聞いていたんですが、誰かに見られているって確か言っていたな」


 義昭はしかめっつらしながら話した。


「見られている。その正体とかは」と直美

「いえ、一切見ていません。ただ話を聞いていただけで、でももっと対応すればよかった。こんなことになるぐらいだったら」


 義昭はあまり対処できなかったことに悔やみながら頭を下げた。


 真斗はその部下がどんなことをやっていたのかと思うと、悲しさよりも自業自得としか言いようがない。


 その後聞いたところ、何もないためその場を後にした。


「やはり晴馬という犯人は殺す前に樹がどんな風にしているのかを確認したのでしょうか?」

「確かにな。でも、どうやって居場所を掴んだんだろうな」


 直美はポケットに入れていた棒付きの飴を取り出し、袋を取ってポケットに入れた。


「そんなの簡単ですよ。探偵とか雇ったんじゃないんですか?」


 真斗は自信満々に言ったが、直美は棒を口から話して反論した。


「数十年も憎しみを抱いた奴が探偵とか雇うと思うか? お前は勤務先や住所を探偵に探している間にもふつふつと膨らんでいる恨みを抱き続けられるか?」


 直美の言葉に真斗は何も言わなくなった。


「それなら、一体どうやって探したんですか?」


 直美は飴を舐めるのをやめ、口から取り出した。


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