第三十二話 豊かさと幸せとショッピングモール
この日、
太満から聞くところによれば、行き先はショッピングモールとのことであったが、本当は別の場所へ向かっているのではないかと、この男はそう心配しているようなのである。
「あの……、本当にこれからどこ行くんですか?」
「あのさ、だからショッピングモールだってさっきもいったよね? 次また同じこといったらマジでぶっ殺すからな?」
太満はニコニコエクボ顔でいったが、目は笑っていなかった。
「だったらいいんですけど……、ホントなのかなあ……」
移動中、こんなやりとりが何度もあった。
坊主頭の男は、市民プールにてドキドキ☆ゲリラプールinサマーというゲリライベントにいた、
この男の心配をよそに車がショッピングモールへ
「あれあれ? 駐車場はこっちじゃないですよ?
「うるせぇな、
「さあ、着いたぞ」
するとコンテナの中からサングラスをかけた男たちが出てくるではないか。この男たちは映画に出てくるシークレットサービスのような外国人で、しかも、全員が黒いマント姿なのだからなおさら
「ちょっとちょっと、なんですかあの人たち? これってどういうことですか?」
「だから最初にいっただろ? 今日は取引が一つあるんだって。アイツらはアカシックレコードって大学の人間で大口の
「さあ、何やってんだ。お前も降りろ」
「あんたは? あんたは降りないのか?」
「ああ?
「ホントですか? ホントなのかなあ……」
「ちっ」
「ちょっと、ちょっとお! 待ってください! どこ行くんですか!」
太満の車はまたたく間に
「かまわん! 行かせておけ!」
黒マントの外国人が
「どどど、どういうことなんですか?」
「ヤツははじめから貴様らをここへ運んで来るだけの役割だったのだ」
「は、運ぶ?」
「そうだ。貴様らはこれから海外へ出国する。パスポートも持っていない貴様らを海外へ運ぶにはこうするしかないだろうが」
「ま、待ってください……、海外? 海外ってなんの話ですか?」
「光合成人間っていうのは日本にしかいないだろう? ところが貴様たちを欲しがってるヤツってのは世界中にいくらでもいるんだ。よかったじゃないか。日本でくすぶっていた貴様らは、外国で
「ええ? 光合成人間を欲しがってるってこと? でもそれって……、ひょっとして
「そうだ」
「お、お、お、俺を?」
「そうだ。だがパスポートなしで飛行機に乗ることはおろか出国すらできない。だからお前たちにはこれに入ってもらう」
「これって?」
「それだよ」
そういって男は後ろのコンテナをアゴでしゃくって見せた。
「このコンテナに? え? え? これって人じゃなくて輸出品とか入れるやつですね?」
「そうだ。お前らには他に方法がないからな」
「え? え? え?」
ここまで聞いて
これは人身売買じゃないのか? と。
サンズマッスルは光合成人間の
だって見てみろよ! こんなコンテナに入れだって? これは人を運ぶものじゃなくて物品を運ぶものだぜ? なんだって
マジなのか?
ホントにここまで落ちちまったのか?
これが、これが俺の現実なのか?
「ちょっと待てよテメェら……」
それまで
「これってよう、人身売買じゃねえのか? なあ? テメェらホントにとんでもねえことしてやがんなあ! こんな話、ぜんぜん聞いてねえぞ!」
「お前が聞いてようが聞いていまいが関係のない話だ。これは
「ふざけんじゃねえ! こんな人権を無視した
「なんだ君は? ずいぶんと
そういって男はマントを少し開いて見せると、その中には
「仮にお前を射殺したところで、貴様らの警察には我々を
「警察だあ? 警察なんかこっちだって期待してねえ! テメェこそナメてんじゃねえぞ!」
青柱は
「ぐほっ! な、なんだこれは!」
「テメェらマジで許さねえ! くされ外道が! マジでぶっ殺してやる!」
「マズイぞ……、ヤツを殺せ……」
雲の一つもない、まぶしいほどの晴天だった! むせ返るほどの
完全に
吶喊とは、戦争で
青柱は、
ドスゥン!
コンテナを積んだトラックがミシミシと悲鳴のような音を上げると、運転席が
それを
「くぁっはははあああ!」
青柱は
「オメェらもバカだったなあ!
「はっ! あんな所にも仲間がいたのか!」
するとヤツらは
「やべえ!」
どこかにかくれるために
青柱は重力を解除して走り出した! 同時に
「待って、待って! 置いてかないで!」
搬入搬出口で荷下ろしをしていた作業員たちが、
「うわぁ! な、何?」
「ヤッベェ! ネバーウェアじゃん!」
「なんだよ急に! マジかよ! うわぁ!」
青柱は荷物と作業員を
ショッピングモールのフードコートでは、赤ん
「ああ、よかった。このフードコート、土日はいつも満席でなかなか席取れないのよ」
この日は休日ということもあってショッピングモールは大変なにぎわいだった。フードコートもすごい混雑で、座席がすべて
「ホントだね。すごい人。うわあ、なんか
「
「そう。高一の時。高校時代はこのフードコートによく来てたなあ。お母さんたちは今でも来るの?」
「まあね。なんでもそろうから。このモールができてからほんと便利になったよ」
フードコートのある場所は
「東京ではこういうショッピングモールには行かないの?」
「行かない行かない。てゆうか、こういうのないし。あ、お台場と
「そうなの? なんで?」
「なんでって、なんか安っぽいし、おしゃれじゃないじゃん。モールに入ってる店なんかで服買わないし」
「え? じゃあ、どんなところで買ってるの?」
「銀座とか表参道とか、あと渋谷とかかなあ」
「高いんじゃないの?」
「まあね。だけど、いい大人なんだからそれなりの格好しないとね」
確かに、
「あ、お父さんが来た。こっちこっち」
お父さんと呼ばれた男は、
「けっこう時間かかったね」
「ああ。見ての通りの混雑だからな」
「ホントにすごい人だよね」
「東京はもっとすごいんじゃないの?」
「東京も人多いけどさ、でも、こんなに家族連れはいないかなあ。なんか、ホントに少子化なんだよね? っていうくらい子どもいるね」
「まあ土日はね。でも、やっぱり子どもは減っていて、
「ええ? ホントに?」
「ホントよ。そういえば、あなた。明美ったら、東京ではこういうショッピングモールに行かないんだって」
「なに? そうなのか?」
「そうなんだよ」
「なんで行かないんだ」
「なんでって、お父さん知らないの? 東京にはモール以外のお店がいっぱいあるから。モールなんてファミリー層の行くところでしょう?」
「だったらみんな行くんじゃないのか」
「ちょっと、やだ、お父さん。東京には家族連れ以外の人もたくさんいるの。
「そうなのか?
「ちょっと、やだ、お父さん。昔っていつの話よ」
「だいぶ昔だ。結婚する前の話だからな」
「そうなのよ。
「でもまあ、東京勤務だったとはいえ、俺たちの
「
敏史さんとは娘の夫である。
「
東京に出て都会的になった
確かにショッピングモールなんてものは、都会の若者にはダサいものなのだろうと。しかし、ここへ来るたびに思うのだが、ファミリー向けとはいっても各世帯には収入の
ニュースを見れば、世界のなんと不安定なことか。富む者と富まざる者、持つ者と持たざる者、そのような痛ましい不平等や
それに対してこのショッピングモールはどうであろう。太門にとっては豊かとしかいいようのないものなのだ。
だって見てみろ。
赤ん
カラフルなジュースやスイーツを目の前にした子どもたちのなんと
友だち同士で遊びに来た子どもたちのなんと楽しそうなことか。
太門は思うのだ。
これが本当に大切なものなのだと。
自分はこういったものを守らなければならないのだと。
「ねえねえ、あの子たち見て? ちょっとふざけすぎじゃない? 男子ってほんとバカね。ウケるんだけど」
この子どもたちは私の同級生のホシケンたちだった。ホシケンたちは、自由研究の
太門が目を細めながら、ホシケンたちの様子を
遠くから悲鳴が聞こえたかと思うと、ガラスの割れる音とともに
それは完全なネバーウェアだった!
一糸まとわぬ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます