第41話 超難問

「す、すごい……」


 ベロニカがなにやら感心しているが、それどころではない。

 いきなりのステータスの変化に戸惑うばかりだ。


 なんだ。なにがどうなっている!?


〇ステータス

 名前 ローゼル・エルミッヒ

 職業 エロ魔法使い

 LV 8

 HP 145/100

 MP 16/8

 ちから 12

 知力  40

 素早さ 13

 スタミナ16/8

 スキル 鼻フック レベル3

     トリプル鼻フック


 まずは職業だ。エロ魔法使いって!

 ああ、エロいさ。それは否定はしない。

 だが、それは職業なのか? 魔法使いとくっつける意味がわからない。


 つぎに、もろもろの数字の増加だ。

 LVが8やら、ちからが12やら。いろんなものが、なにやら増えている。

 なんでだ?

 いろいろ経験したからか?

 いや、それなら今までもそれなりに経験してきた。にもかかわらず大きな変化はなかった。

 これがここへきてこれだ。あまりにも極端に変化しすぎていないか?


 ……これはあれか?

 ゴブリンをまとめて倒したからか?


「ム! エルミッヒさま、今何かが動きました」


 そうだ。そうに違いない。

 モンスターを倒す。それこそが自身の強化に最も結びつくのだ。

 俺はいままであまりモンスターを倒してこなかった。誰かに押しつけることが多かった。

 それが裏目にでていた感じか!


「エルミッヒさま。ゴブリンです。生き残りがいたようです」


 ベロニカがなにやらウルサイが、それどころではない。

 俺のいままでの冒険者としての行いが、間違いだらけの可能性があったのだ。


 すると、あれか。

 俺がモンスターを吊ってベロニカがトドメを刺す。

 それも間違いだってことになる。

 カルコタウルスなんていい例だ。俺はみすみす成長するチャンスを逃していたのか?


「エルミッヒさま。注意してください。ホブゴブリンもいます」


 なんということだ。

 不覚。一生の不覚。これじゃあ底辺から脱出できなかったのも、当たり前ではないか。


 ――まあいい。そんなものは、これから取り戻していけばいい。

 俺には、このフックの能力があるのだから。


「あ、こちらに気がついたようです。エルミッヒさまはホブゴブリンを吊ってください。その間にわたしがゴブリンを始末します」


 そうだ。フックもなにやら変わっていた。

 トリプル鼻フック。これはもしや、複数の敵を吊れるということか!?


「エルミッヒさま。きます!」


 よ~し。吊って吊って、吊まくるぞ。

 これからでてきたモンスターは全部俺が倒すんじゃい!

 一匹たりともやるものか!!


「エルミッヒさま! 聞いてますか? ホブゴブリンを。ホブゴブリンをお願いします」


「――フン!」


 手元のヒモを引くとホブゴブリンがぶい~んと吊り上がった。

 フハハ、ベロニカよ。聞いてないとでも思ったか!?

 甘いぞ。全部耳に入っておったわ!


 この生まれ変わったエルミッヒ。お前に言われずとも、ゴブリンどもの動きなどちゃんと把握しておる!


 がははは。ゴブリンどもは皆殺しじゃ~!!!

 狩って狩って、狩りまくるのだ~。


 吊ったホブゴブリンを、こちらへツツツと移動させる。


「おらあ!」


 解体用のナイフをズブリと心臓に突き立てた。

 ホブゴブリンはカっと目を見開いたのち、その目の光を急速に失っていく。


「よ~し。つぎ!」


 生き残ったゴブリンはあと五匹!

 まとめて葬り去ってくれるわ!!!


「トリプルフック。おまえの実力を見せてみろ!」


 俺がそう叫んだ瞬間、目の前に三本、ヒモが出現した。

 これか! 一番左のヒモを引く。

 一匹のゴブリンが吊り上がった。


「ほう! 一本につき一匹か!」


 吊ったヒモを左手で保持したまま、今度は真ん中のヒモを右手で引く。

 ぶい~んとさらに一匹ゴブリンが吊り上がる。


「そら、もう一丁!」


 右手のヒモを左手にあずけると、残った一番右のヒモを引いた。

 ぶいいい~ん。

 三匹目。さらにゴブリンが吊り上がるのだった。


「よっしゃ~。まとめて刈りとってやるわ!」


 吊った三匹を、こちらに移動させる。


「オラオラオラ」


 三連突きだ。

 三匹のゴブリンの心臓をナイフでえぐる。

 ゴブリンは三匹とも昇天した。


「エルミッヒさま、すごい! よし、残りはわたしが」


 ベロニカはそう言うと、残りのゴブリンに切りかかろうとする。


「まて~い! そいつは俺の獲物じゃ~い!!」


 一匹たりともやるものか。

 俺は、もっともっと強くなるんじゃい!


 トリプルフック!!

 俺が念じると、ふたたび三本のヒモが目の前に出現する。


「ふははは。喰らえ!」


 一気に引こうとヒモに手をかけた。

 が、その瞬間、手を止める。

 なぜなら、急な違和感に襲われたからだ。


 なんだこれ? このモヤモヤした感じはなんだろう?

 このまま引いてはいけないような気が……。

 

 そんな違和感の正体は、すぐに判明した。

 数だ。数が合わないのだ。

 残ったゴブリンは二体。

 だが、でてきたヒモは三本。

 一本多くないか?

 これはいったい……。


 焦るな。失敗すると大変なことになるぞと本能が警告を発している。

 慎重に見極めろ。

 こちらに迫ってくるゴブリンを観察する。

 ……一匹、二匹。残ったゴブリンはたしかに二匹だ。銀色のフックが、しっかりと鼻にかかっている。

 フックは二個。一個足りない。

 じゃあ、もう一個のフックは?

 一匹に二個ついているってことはないよな。

 

「エルミッヒさま!!」


 そのとき、動きを止めた俺を不審に思ったのだろう。ベロニカが迫りくるゴブリンから守るように、俺の前に立った。


 ――まさにその時。

 俺は重大なことに気がついたのだ。

 ベロニカの鼻に光り輝く銀色のフックが引っかかっていることを。


 ヒモは三本。フックはベロニカを含めて三個だ。

 どれだ? どのヒモを引けばいい?

 これは難問だぞ。



※鼻フック レベル2で生き物以外も吊れる(ただし、工夫がいる)

      レベル3で進化。三匹同時に吊れるトリプルフックに!(ただし、フレンドリーファイヤーあり)

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