第53話 体育館裏で……
教室に遅れて入るとみんなの視線は僕に集まった。いつのまにかチャイムが鳴っていたのだろう。
「おい、駒田遅刻……何で机を運んでるんだ?」
中央付近にぽっかりと空いている違和感に先生は気づかなかったのだろうか。机を運んでいる僕に驚いていた。
「机がなかっただけです」
隙間を通るには少し狭く、ズレてもらわないと通れないと思った僕は机を持ち上げる。その様子を見ていたクラスメイトと先生は驚いていた。
「おい、駒田何する気だ!?」
「えっ?」
「何があったかはわからんが、そういうことは俺がいない所でやってくれ」
それは先生がいないところであれば、何をやっても良いと言っているようなものだ。ただ、どうしてもみんながズレてくれないのなら、持ち上げるしかない。
「いや、運ぶだけですよ」
僕の言葉に先生はホッとしていた。しかし、一度放った言葉は取り返しがつかない。一気に注目は先生に向いていた。
「あー、早く運んでくれ」
先生は手を払うようにジェスチャーをする。その結果、再び視線が僕に集まっている気がした。
自分の席まで歩いていると、何かが足元に出てきたことに気づいた。僕はそれを無視して、おもいっきり跨ぐように歩く。しかし、僕は間に合わず踏んでしまった。
「痛っ!?」
道の途中に出ていたのは工藤の足だった。工藤の席は僕の隣の列の後ろの方に座っているため、足でも引っ掛けて転ばせようとしたのだろう。
僕は工藤の足をおもいっきり踏んでいた。
「おい、工藤どうしたんだ?」
ここで足を踏まれたと言えば僕が悪い人として注意されるだろう。だが、工藤は何も言わずに舌打ちをしていた。
机を元の場所に置くと、何事もなかったかのように朝礼が終わった。
♢
授業を終えるチャイムが鳴り、僕はお弁当を持って急いで教室を出る。今まで教室移動やトイレに行っていたため、あいつらに声をかけられることはなかった。
だがお昼の時間になると、どうなるかわからない。すでに優樹菜の顔はこっちを向いていた。自意識過剰かもしれないが、隣の席の子が目線を逸らしているところを見ると、彼女も関わりたくないと思っているのだろう。
日向に体育館裏に呼ばれているため、近くでひっそりとご飯を食べることにした。
僕が思っていた通り、体育館周囲には誰もいないため、静かな雰囲気だった。
お弁当を開けると、色とりどりの野菜と肉料理が詰め込まれていた。身長が伸びて体型が変わってきた時から、野菜中心の食事からタンパク質を多めのメニューに変えた。
静かな空間に誰もいないのが、僕には心地よかった。
「そういえば、佐々木さんに呼ばれたけどいつ向かえばいいのだろう」
昼休みに体育館裏に来て欲しいとは言われたが、時間は伝えられていない。ただでさえ殴られるかもしれないとビクビクしていたが、工藤に殴られたことを思い出すと変に自信が湧いてくる。
「駒田くん?」
声をかけられた方に目を向けるとそこに日向がいた。僕は立ち上がり辺りをキョロキョロと見渡すが、日向一人で誰もいなかった。
「そんなにキョロキョロして何してるの?」
「いや……佐々木さんにリンチされると思ったから――」
思っていたことを正直に伝えると日向はお腹を抱えて笑っていた。どこか惹かれる彼女の笑顔に改めて、この学校のマドンナと言われている理由が理解できた。
「私そんな力ないよ?」
「そう? うちの香里奈なんて僕より力が強いよ?」
香里奈と喧嘩して勝ったことは一度もない。それぐらい香里奈は昔から強かった。単に僕の体が弱かったってのもある。
「それで佐々木さんはお弁当を持ってどうしたの?」
「あっ!?」
佐々木さんはお弁当箱を後ろに隠して俯いていた。そんなにお弁当箱が大きいのだろうか。
「重箱でも僕は気にしないですよ?」
ひょっとしたら重箱が出てくるのかもしれない。年頃の女の子が流石に重箱を取り出したら、恥ずかしいのは僕でもわかる。
「もう! 駒田くんって天然なんだから!」
日向は僕の横に座るとお弁当箱を取り出した。そこには手の平サイズの小さなお弁当箱が置いてあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます