第34話 集まるヒロイン達

「お兄ちゃんってよく学校通えていたね」


「正直死ぬかと思ってたよ」


 駅を降りてから現れる地獄の坂道を香里奈とともに登っていく。もはや朝から登山をしている気分だ。


 走れるようになってから、心肺機能に変化があったのか話しながらでも坂道を登れるようになってきた。息切れも少しだけで、苦しいとは全く思わない。


 少しずつ歩いていくと学校が見えてきた。


 あれだけ憂鬱だった学校が、体の変化とともに心も変わって来ているのが実感できる。


 それにしても駅を降りてからの視線がとてつもなく痛い。道の縁を歩いているのに、気分は堂々と真ん中を歩いているようだ。


「本当にKARINAが同じ学校に来るとは思わなかったな」


「兄貴が同じ学校に通っているって言ってたけど隣が兄貴かよ」


「あれは勝てないわ」


「まぁ、お前の顔じゃ無理だな」


 ここでも聞こえるのは香里奈の名前だ。少し僕のことも話しているが、きっとおまけ程度なんだろう。


 実際、陰キャラで根暗の僕のことは誰も知らないはずだ。


 坂道を登り終えるといつものように門では、生徒指導部の原田が生徒達に挨拶をしていた。


「おっ、駒田おはよう!」


「おはようございます」


 僕はいつも通りに挨拶を返すが、隣にいた香里奈はどこか驚いていた。門で先生が挨拶することがそんなに珍しいことなんだろうか。


 校内に入っても香里奈を見ている視線をついでに一緒になって浴びながら、下駄箱近くにある校内の長い掲示板に向かう。


 そこで毎年新しいクラスが掲示されている。


 すでに掲示板には人が集まっており、同じクラスになって喜ぶ生徒やクラスが離れて悲しむ生徒がいた。


 そんな人達がいる中、僕達が近づくと周囲ではコソコソと話しながら、通れるようにみんな道を開けた。やはり香里奈が隣にいるかいないかで、周りの反応は違うようだ。


「あっ、お兄ちゃん5組だって!」


 クラスは6組まであり、全てが普通科の文理系のため、よほどのことがない限りはあいつらと同じクラスになることはないだろう。


「駒田くんおはよう」


 そんな中僕に声をかけてくる人がいた。これだけ見た目が変われば毎日見ている家族ぐらいしか気づかないと思っていた。


 それなのに僕の姿を一瞬で気づいた人。


 声をかけて来たのは佐々木日向・・・・・だった。


 香里奈も同じことを思ったのか驚いた顔をしていたが、僕と視線が合うと腕を掴み引っ張った。


「お兄ちゃんに用があるんですか?」


 どこか僕を守るように威嚇している子犬のように見えてしまう。その姿を見て僕は笑ってしまった。


「くくく、香里奈大丈夫だよ。佐々木さんは優しい人だからね」


「お兄ちゃんは昔から・・・優し過ぎるから私がしっかりしないとダメだもん」


 どちらかといえば僕より香里奈の方が優しいと思う。実際にこうやって僕を守ろうとしているからね。


「私駒田くんに謝り――」


「えっ、駒田久しぶりじゃん! 元気にしてた?」


 制服のボタンが胸元まで外れ、スカートは短く、思春期の男なら自然と目が追ってしまうだろう。


「優樹菜ちゃん……」


 さらに僕の存在に気づき、声をかけて来たのは兵藤優樹菜・・・・・だった。


「駒田も同じクラスなんだね! 私達三年間も同じクラスとか運命的じゃん!」


 僕としてはそんな運命はいらない。静かに過ごせる環境だけが欲しい。


 なぜか人気者の香里奈、学校の清楚系マドンナと言われている日向、そして男達に好かれているギャルの優樹菜が僕の周りに集まっている。


 今はとにかく視線が集まるこの場を離れたかった。


「香里奈、教室に行こうか」


「そうだね! ちょっと用事があるから先に行ってて!」


「ああ」


 僕はこの場を離れるために新しいクラスである5組の教室に向かった。

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