第30話 トングの正体

「あー、悔しい! 結局世の中金かよ!」


 合成するのにお金が足りない僕は家から出て、近くにいたゴブリンを背後から狙い急所突きをする。


【クリティカルヒットしました!】


 やはり僕の狙いは当たっていた。下がったLUKは急所突きでカバーできることを知った僕はこの間と同じでゴブリン相手に無双する予定だ。


 STR物理攻撃力が下がっても、元々攻撃力がないホーンラビットのトングなら問題はない。


「あいつらは金だ!」


 次第にゴブリン達が1万円札に見えてくる。倒すと頭の中で"チャリン♪"とデジタル音がなっている気がした。


 今回のデイリークエストはゴブリンの討伐を10体だ。気づいた時にはクエストは終わり、合成に必要なお金のために、ゴブリンを狩り続けている。


 隠れては後ろから奇襲を繰り返すと、だんだん自分が通り魔になった気分だ。


 鏡に触れた時にしか報酬がわからないため、納得するまで狩るしかない。


「これで20体だな」


 いつのまにかデイリークエストの倍はゴブリンを倒していた。


 精神的にも疲れた僕は現実の世界へ戻るために鏡に触れる。


【デイリークエストクリアに伴いステータスポイントがユーザーに反映されます。身長-1cm低下、体重+1kg増加しました】


 やはり恐れていたことが起きてしまった。しっかりと身長が低くなったと言われたら受け止めるしかないだろう。


 称号の影響でレジストされなければ、もっと体は変化していた。


 それを少しの変化で止められたのはよかった。


 鏡に映る姿を自分が見ても同じに見えるため、陰キャラの僕の変化は誰も気づかないだろう。


【報酬として3万円を手に入れた】


「おっ!」


 お金が報酬としてもらえることは予想していた。しかし、あの時たくさん貰えたのは単純に運が良かっただけだった。


 鏡の中で手に入れたお金もしっかり考えながら使わないと、人生が狂ってしまう。


 すでにゴブリンが、お金に見えていては重症だ。


 その後もアイテム獲得を知らせるデジタル音を聞いていると、衝撃的な内容が聞こえてきた。


【スキル:短剣術を習得した】


「あうぇえええええ!?」


 まさかスキルを獲得するとは思いもしなかった。しかも、短剣を持っていないのに"短剣術"を習得したのだ。


「まさかトングが短剣なはずないよな?」


 今まで使っていた武器はホーンラビットのトングのみ。


 ここ最近スキルを習得出来ているのもLUKと関係しているのか、単純に技術として身についたのかはわからない。


 技術として身についているのなら、ホーンラビットのトングは短剣としての扱いになるのだろう。


 今後もLUKにステータスを振った方が良いのかは考えどころだ。


 LUKが上がっても身長と体重は変わらない。そこが一番の悩みどころになるだろう。


 現実の世界に戻ると、起きてきた香里奈はずっと僕の顔を見ていた。


「どうかしたか?」


「お兄ちゃん、むくんでる? それとも少し太った?」


 気づかれないと思っていた体の変化は香里奈にはバレていた。

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