第13話 君の手は握れない4
「店長、タイスケさん、お疲れ様っす~!」
「桂っち、ソーイチロー、やっほー」
ダダが手を振り、桂っちと駿河っちの元へ歩いて行く。
「今日はよろしくお願いします」
「一緒に天王寺でお買い物して、そのあと店長ん家に来ても良いなんて、マジ嬉しいっす!」
「アタシの家に来て良いから、一緒にダダのメガネ買うの手伝ってくれ」と頼んだら、二つ返事でオッケーしてくれた。急な話だったのに、駿河っちも来てくれることになり、本当に助かった。
「それにしても、同じ時間の同じ車両乗ってたんだ」
というダダの一言に残り三人は固まる。
ダダとの間が持つか本当に心配だったアタシは計画を練った。
アタシたちと桂っち・駿河っちは同じ沿線を使う。だから、「十三時六分の電車に乗って途中で各停乗り換えて、アタシたちと同じ電車に乗って。乗ったら何両目に乗ったか連絡すること」と指示していた。
もちろん二人から「なんでそんな面倒なことを?」と首を傾げられた。恥ずかしくて本当のところは隠して、「一秒でも長くダダと会話したいでしょ?」と適当に言うと「それはそうですね」と駿河っちがすんなり納得してくれてなんとか通した。
そして、今さっき桂っちから『五両目に乗りました』とメッセージが来たから、こうして車両を移動して合流したというワケだ。
「いやぁ、そういう偶然たまにありますよね! ね⁉ 店長」
「そうそう。あるある!」
「ふーん。あ、ソーイチロー、オレの好きな感じの服着てる」
「そうですか!」
駿河っちはビッグサイズのシャツに足首の見えるパンツ。確かに、ダダもビッグサイズデザインの服が好きだもんなぁ。今日だって、自分の体形より何倍もデカいTシャツを着ている。
「メガネ買わなきゃだけど、服も見ようかな」
「ぜひ一緒に見ましょう」
さっそく盛り上がる二人を眺めていると、桂っちが足早にアタシの隣にやってきて、
「店長、ホントに良かったんすか?」
と耳打ちしてくる。
「なにが?」
「なにがって、タイスケさんと二人きりじゃなくて、ってことです」
「いや、ダダは別に彼氏じゃないし」
「彼氏じゃなかったらなおさら二人でも問題ないじゃないっすか」
痛いところを突かれる。
「……それはそうだけど」
「あと、だいぶ前に店長が話してくれた人ってタイスケさんのことですよね?」
「へ⁉ そんな話したっけ~?」
ホントは忘れてない。
桂っちと駿河っちが付き合う少し前に、「店長って告白すればよかったって思うことありました?」って訊いてきたことがある。「小説書くヒントに~」なんて言ってたけど、駿河っちのことで何か悩んでた時期だったんだと思う。だから、アタシがその話を終えたあと、「早く告白しときなよ~」って言うと、やたらと慌ててたし。
にしても、アタシだってまさか思い出の中の人間と再会するなんて思わないじゃん。あー、恥ずかしい。忘れてればいいなと思ってたけど、そうはいかなかったかー。
「タイスケさんも二人きりが良かったんじゃ……」
「そんな……こと……ないんじゃない?」
と焦るアタシを見て、桂っちは口に手を当て、ぐふふと不気味に笑いはじめる。
「店長もそんな表情するんすね」
「は? どんな表情よ?」
「ふふふふふ、言いません」
「今日はプライベートだからって調子乗ってんな?」
「アハハ、すいません!」
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