はじまり

 私はマフラーを朝どうやって巻くかを検討していた。結局時計回りにぐるぐると巻くと首の下あたりが風にさらされて寒いからその案は却下され、半分に折ったところに残りのふさふさしたところを通す案が採用された。宿題はまだ見つかっていなかったけど、先生にうまくこと言えば、許してくれるだろうと浅く考えた。何事にも愛嬌だ。うん。

 玄関の冷えた石できている靴を置くところに立って、今度はどの黒靴にするかをなやんだ。おかあさんの「朝ごはん!」という声に急かされて、適当に選んだピンクのスニーカーを履いて家を出た。急いで鍵を閉めたらもうバケモノは退治した気になって鍵は内側からの方が開けやすいことを忘れていた。

 

 相手が苦しくなろうと私は恋をするに決まっている。電車の中で大声で話すOLたちを迷惑だと思いながら、めくるめく変わっていく見慣れた景色を眺めていた。マスクの下ではたくさん唾が飛び散っているんだろうなとかその唾がもしかしたら自分の持つ吊り革についてるかもしれないとかを考えて気持ち悪くなった。

 そんなことは忘れてみたくて、私は自分でもそのOLたちの話題について考えてみた。でも、好きな人ができたことなんてなかった私はこう言った話になると必ず「見猿、聞か猿、言わ猿」を思い出してしまう。それでも、なんとなく今日ばかりは、OLたちによっていつもみているはずの景色がうんざりとした違った景色になっていたから、自分なりに持論を展開しようとしていた。

 結局、「私は自分のことが一番好きなのかもしれない。他の人を自分より好きになったことがなかったのかもしれない。誰がなんと言おうと私は私でしかないと思えるタチだし」ぐらいしか結果が出なくて、恋なんて曖昧なものについて考えるには自分を幼く感じていた。

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