第14話 敵襲×12
「なんで、すぐに追撃しなかったのよ! せっかくのチャンスだったのに!」
部隊を引き上げ、俺たちは城の会議室へと戻ってきた。フランシェを始めとした騎士団の面々の中、客将として迎え入れられたアスティナが、テーブルをバンと叩いて憤慨していた。
「慎重になってたら、いつまで経ってもプリメーラを倒すコトなんてできないわ!」
「御助言は感謝いたします。しかし、戦略を決めるのは、我々ラングリード軍です。そこのところは勘違いなされぬよう」
いかにアスティナが高名でも、ラングリードの騎士団は彼女の配下ではない。文句を言われて、フランシェたちも良い気持ちはしないだろう。
「はあ? せっかく助けにきてあげたのに、なによ! その言い草は!」
フランシェにも騎士団を総括する立場がある。同時に、判断をミスった落ち度も感じている。まあ、俺もそんな空気がわかるので、さらりとフォローする。
「喧嘩するな。仲間割れなんかしてたら、それこそプリメーラにしてやられるぞ」
言うと、アスティナは頬を膨れさせ「もういい!」と言って、退室していった。彼女がいなくなると、騎士団の面々も、やれやれといった感じに態度を弛緩させる。
「……大魔道士の末裔の割には、子供っぽいのですね」
「言うな、フランシェ。あいつの国は、プリメーラのせいで多くの犠牲を払ったんだ。感情的になるのも無理はない」
フランシェは察したのか「少し言い過ぎました」と反省していた。
「しかし、これからが大変です」
メリアが被害報告書を眺めながら続ける。
「此度の戦いで、市民にも不安が広がっています。戦が長引けば長引くほど、疲弊していくでしょう」
「そう考えると、やはりベイルの言うとおり、多少の犠牲を払ってでも、追撃するべきだったのかもしれません」
落ち度を認めるフランシェ。
「結果論だ。フランシェが気にすることじゃない」
プリメーラは、このラングリード地方のどこかに潜伏しているだろう。こちらから攻めたいところだが、如何せん俺の能力は攻めには向いていない。遠征先でととのう方法もいくつかあるのだが、条件が揃わないと厳しい。
奴が攻めてきたタイミングで、バチッと『ととのう』ことができれば、一瞬で決着を付けられるのに――。
――いや、その考えこそプリメーラに読まれているのか?。
この戦は、タイミングを見計らう頭脳戦。俺の知略が上か、プリメーラの知略が上か。その駆け引きを強いられている。
報告や事後処理の話を続けていると、兵士が荒々しく扉を開けて入ってきた。
「フランシェ様! 大変でございます! プリメーラ軍が、再び攻めてまりました!」
☆
緊急出撃。
フランシェは騎士団を率いて防衛と市民の避難をさせる。ベイルには、すぐさまサウナに入ってもらった。
――だが。
「これは、どういうことですか……?」
プリメーラ軍は、城壁間近まで魔物を寄せると、すぐさま部隊を反転。すぐに撤退してしまったのである。
戦闘時間は0。
なんとも拍子抜けしてしまう結果。
しかし、フランシェは苦悩していた。
――追撃するか否か。
「フランシェ様……敵は背を向けています。これはチャンスかと」
部下の騎士が、つぶやくように言った。
「わかっています。しかし――」
先の失態を鑑みれば、追撃はするべきだと思う。しかし、彼女にはその決断ができなかった。
理由は、ベイルがサウナに入ったばかりだということ。そして、一度も戦わずに撤退という、罠の匂いを感じていること。
騎士団を総括する立場の彼女としては、さらに慎重にならざるを得なかった。
☆
長い一日が終わった。
二度の襲撃。大事には至らなかったが、それでも不安は消えることがない。
夜になって、俺はベッドの中で今後の戦いに思いを馳せる。
サウナの最大の弱点である『準備時間』を上手く突かれてしまっている。
明日以降は斥候を多く派遣し、敵の動きを逐一把握するようにするか。いや、それを見越しているのが暗略のプリメーラだろう。犬系の魔物を使って、斥候を片っ端から見つけては殺すかもしれない。
今後のことを考えていると、再び事件は起こった。
「敵襲だーッ!」
再びスクランブルだ。騎士団はすぐさま、戦の準備をする。
俺は当然、サウナへと飛び込んだ。
いつものように、儀式(サウナ)をこなすのだが、今回もまたフランシェが追撃命令を出すか出さないかの絶妙なタイミングで、プリメーラ軍が撤退してしまった。
んで、それは2時間おきに行われた。
『敵襲だーッ!』
『敵襲だーッ!』
『敵襲だーッ!』
気がつけば、朝になっていた。
俺はというと、一睡もできずにサウナを何度も往復していた。
さらに、朝になってからもそれは続いた――。
☆
「フフフ……勇者ベイルも、これでおしまいね」
遙か遠くの丘の上、暗略のプリメーラが微笑んだ。
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