第10話 背水の陣2


 ダケヤマの気合いに対し、アスカロンは手を叩き、のべ太は『いいぞ!』という意味を込めた口笛を吹いた。赤騎士の穴金アナキンは、相変わらず黙って様子を伺っているだけだったが……。


 団長の無頼庵ブライアンは、まるでサバナ地方のような頭部に青筋を立てると、大口を叩いたダケヤマに対し、気に食わない様子で睨み付けた。


「ほう、言ってくれるではないか。さすがは異世界から召喚された二人だ。ディアブルーン中の道化師達が、束になっても姫様を笑わせる事ができなかった故、最後の手段として現実世界リアルワールドから貴殿らを呼び寄せた訳であるが、十二分に我々の期待に応えてくれそうであるな!」


「当ったり前でぇ~! なあ、カヤタニさんよ」


「おおっ! ――って言いたいとこやけど、ダケヤマ。あんた、やけにお姫様を笑わせる事に自信アリみたいやけど、ホンマに大丈夫なんか?」


「え~、ここに来て何やねんな?」


「アホか、何言うとるねん! ここは日本やのうて、異世界やで! あのコが言うには、ディアブルーンらしいぞ! 日本のギャグが、そのまま通じると思うてんのかい!? もしネタの意味が分からんかったら、どないするねん?! 要するにな、こういう異文化の方々に、スカンピンの面白さが伝わらへんかったら、えらいこっちゃって言うてるんやないかい~!?」


「……………」


「何やねん、気持ち悪いポーズで固まりよってからに……! 何か秘策でもあるんか?」


「……そう言われてみれば、そうやなあ」


「おいおいおい、秘策は? 勝算は?」


「いや、ないわ~」


「ぎええ――!」


 騎士の円卓上でカヤタニが、絶望の地団駄を踏んでいる最中も、団長は怒りのマグマを爆発寸前にまでヒートアップさせている。もはや腰の長剣で、いつ斬られても、おかしくはないほどである。

 カヤタニは膝と乳を震わせながら、血走った眼でダケヤマに抱き付いた。


「もうあかん! こうなったら、一か八か初ステージで披露する予定やったネタで行くしかないで!」


「ネタ合わせの練習も済んでるしな。おもろいギャグは世界共通って言うし、何とかなるんとちゃう?」


「だ・か・ら~、何でアンタは、そんなに落ち着いていられるねん? もしスベったら、目も当てられへん結果になるかもしれへんねんで!」


「いずれにせよ、もう覚悟を決めて、腹括らなあかんのとちゃう~?」


「もう知らんわ~、ボケぇぇぇ!」




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