25.日本って知ってます?
「座って頂戴、少しお話を伺いたいの」
微笑んで促し、出来るだけ悪役時令嬢っぽく見えないよう穏やかに振舞う。外行き用の顔は、貴族なら全員装備しているわ。隣の夫は、どうやら忘れてきたみたいだけど。
ヒロインに興味を示さないなら、逆に彼女に口説き落として貰えばいいのよ。
「はい、失礼いたします」
丁寧に挨拶し、いわゆるお誕生席に座らせたヒロイン。私と目が合うのに、なぜかシルヴァンを見ようとしない。それどころか笑顔が引き攣った。嫌な予感がするわ。もしかしたら彼女、前世の記憶持ちかも。私と同じで話のあらすじを知ってる?
当たり障りのない学院生活や勉強内容を尋ね、学院の設備で足りない物などを聞き出す。どうでもいい内容だけど、何とか二人きりで話すチャンスが欲しかった。一度もシルヴァンを見ないなんておかしい。絶対にゲームを知ってるわ。
恋人や夫がいたとしても、見目麗しい美青年が近くに現れたらしばらく見惚れるじゃない? それが一度もないのよ。自慢じゃないけど、うちのシルの顔は天下一品よ。何しろゲーム内で一番人気だったもの……外見はね。中身がアレだから、総合的に安全なのは、二番人気の神官長バスティアンだった。
銀髪の王弟殿下そっくりのご子息、その穏やかな性格や外見の神々しさから、二番人気だったわ。性癖もそれほど特殊じゃなくて、赤ちゃんプレイがお好きなくらいだもの。
一応ヒロインの正規ルートとされる第二王子エルネストは、下から二番目という人気のなさだった。お外や見られながらが好きな性癖がネックだわ。それに第一王子殿下が順当に国王を継ぐから、最終的に王家から公爵家へ出されるの。
新しい公爵家で金銭面は安泰だけど、性癖がヤバい。夫婦の寝室の秘密を、外の人に目撃させたがる元王子はちょっと。ヤンデレ男の方がマシかも。
人気が一番低いのは、青い髪の宰相の息子のルートね。ウスターシュの性癖はロリコン。ハッピーエンドの場合、幼妻に見えるヒロインと上手くいくんだけど……ほら、ゲームって結婚がゴールでしょ? 後日談はないのよね。現実として生きていくなら、間違いなく浮気されるわ。
バッドエンドだと、成長しないよう奇妙な薬を飲まされて……ぞくっとした。本気で怖い。このゲームを作った運営の人達、過労で病んでたのかしら。
その点、騎士団長になるオーレリアンは性癖も大人しい。強い騎士を目指す反動なのか、家で虐げられたい人なのよ。踏まれたり蹴られたり、罵られたりすると堪らないんですって。あら? 不思議ね、うちの駄犬と同じじゃない。
厄介な性癖を併せ持ってるくせに、一番人気とか。シルヴァンのくせに生意気よ! 睨んだらうっとり微笑むシルを見て、私はヒロインと二人で話をする方法を思いついた。
「理事長様には、この寄付金の計算と使途明細を作っていただきたいの。その間、隣のお部屋を借りて、クリステル嬢とお話がしたいわ」
理事長を追い出す理由を作るより、隣の部屋に移る方が簡単。シルとヒロインでは許可が下りなくても、女性である私が同席すれば問題なかった。シルは適当な用事を言いつけるか、廊下で待てをさせればいい。
金貨が満たされた箱に釘付けの理事長に、冷静な判断力はない。素直に頷くので、さっさと部屋を移った。
「シル、私を愛してる?」
「もちろんだよ、レティ」
「なら、廊下でステイよ」
「……仕方ない子だ、俺を試す気か?」
「愛を試したいの」
それっぽいセリフを並べて、無事に追い出した。二人きりになったところで、口火を切ったのはクリステルだ。
「日本って知ってます?」
踊り出したい気分で「もちろんよ」と返したけれど、声が上擦った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます