【完結】監禁ルートと病んで殺害ルートしかないヤンデレ攻略対象の妻になりました

23.まずは学院でヒロイン探しよ

　学院は開かれた場所だ。卒業生やその家族はもちろん、寄付を希望する貴族にも開かれていた。そう、訪問の名目は寄付よ。この頃は貴族も家庭教師を雇い、屋敷内で教育を終えることが増えた。

　誘拐や傷害事件、中には女性への暴行など。一時期、学院の風紀が荒れた。そこで学院に新しいルールが導入される。ご都合主義の「学生の間は爵位による優劣を禁ずる」よ。これが導入されたことで、下位の貴族は安心して我が子を通わせるようになった。

　逆に、高位貴族は学院と距離を置いてしまう。勉強だけなら家庭教師で用が足りた。正直な話、学院の教師よりシモン侯爵家の家庭教師の方が、知識量も見識も上だったのよね。学院へ通っても学ぶことがない。

　高位貴族同士、幼いうちから我が子を社交の場へ連れ出し、交友関係を築いた。ほらね、学院へ通う必要はないの。実家の貧富の差が、そのまま教育内容に反映されてしまう。高位貴族と下位貴族の間に生まれた溝を解消すべく、王家はひとつの命令を出した。

　――貴族は等しく学院を卒業しなくてはならない。

　子どものうちに、さまざまな階層と触れ合っておきなさい。そんな名目だったんだけど、やはり、法律や命令には抜け道が作られるの。公爵家や侯爵家は、学院に対して意見書を提出した。

　すでに勉強し終えた部分に関しては、テストを受けて合格すれば授業を免除される特例よ。私達は飛び級システムと呼んでるけど、合理的でどこからも反対意見は出なかった。家庭教師を付ける伯爵家以上の貴族は有利だし、子爵家以下の貴族にとっても勉強に励む一因となる。飛び級で卒業すると、王宮の文官としての就職に推薦がもらえるの。

　王家が望んだ形とは違うけれど、貴族全員が一堂に集まるのが入学式と卒業式だった。今回はどちらも時期を外したので、寄付金の入った箱をチラつかせて、見学を要請する。

「準備は出来た？」

「やっぱりこの姿はおかしいわ」

「そんなことない！　すごく素敵だよ」

　褒めちぎる夫シルに、眉尻が下がった。言われるままに着用したのは、女生徒用の制服だ。ただし、学年を示すリボンはない。代わりに美しいスカーフを巻かれた。制服といっても結婚前の未婚令嬢が着用するので、足首までスカートが覆っている。

　足を見せるのは、はしたない行為だった。え？　私はいいのよ。暗器を出し入れする時だけだもの。ちゃんと生足が見えないよう、長いストッキングとガーターベルトで隠してるわ。

「ああ、俺の女神よ。制服姿でもレティの美しさは眩しいほどだ……軽くふ……」

　最後まで言わせる前に、軽く踏んであげた。膝を突いて懇願する彼の膝を蹴飛ばし、転がったところで腹を踏む。うっとりと幸せそうに足を撫でる夫を、侍女マノンは微笑ましげに見守った。ロザリーはちょっと引いてるわね。安心して、それが正解よ。

「行くわよ」

「待ってくれ」

　慌てて身を起こした彼は、これまた学院の制服姿だった。しかし学生には許されない剣を下げることで、騎士だと示す。剣を吊るす帯が、さり気なく私のスカーフと同色だった。

　首輪もスカーフで包み、鎖は外してもらった。さすがに外ではマズイ。外させるコツは耳元で囁く言葉にあった。

「あなた以外に、この愛の証を見られるのが嫌なの」

　真っ赤になった彼は大きく頷き、すぐに鎖を外した。だが錠がついた首輪を外すことは拒否し、中途半端な状態だ。ここは私が一度妥協しましょう。

　今逃げても追われる。ヒロインにシルヴァンを押し付けないと、首輪を外した後も危ないわ。玄関ホールまで降りた私達は、涙ぐんだ義両親に見送られて馬車に乗った。

「見て、シルヴァンがあんなに楽しそうに」

「本当だ。幸せそうで何よりだな」

　目が腐ってるわ。