第四十七話

【第四十七話】


「全員集合したね。それじゃあ行こうか」

 

 相も変わらず全身黒づくめのニヒルが静かに号令を上げる。


 そんな彼または彼女の小さな頭には、きらりと光る山吹色のヘルメットが。


 そう、第二回イベントの結果発表を確認し、ユルルンマーケットで用事を済ませた俺たちは北にある鉱山の坑道入口にやってきた。


 メンバーは俺(トーマ)、グレープ、ニヒル、『魔王』、セツナ、ガイア、それとノーフェイスの七人。


 今聞かされたが、社長の配信を聞いていたときに一緒にいたグレープとガイアが一度別れたのは、個別で準備をしていたからだそうだ。


「おい、なにか説明はないのか?目標があるんだろ?」


 鉱山攻略初参加となる俺は顎に巻くベルトを調節しながら、手を上げて進言する。


 脇を見ると、同じく初見であるガイアとセツナも若干困惑している。


 チームの生存率を上げるためにも、ここは早めに聞いておいた方がいいだろう。


「ああ忘れてた。ごめんね」


「しょうがないなあ、ニヒルちゃんは!」


 ニヒルはてへぺろと舌を出して謝ると、目新しい防具を身に着けたグレープが釣られた。


 ああ、またこの流れか。


「全く、お前が集めた面子だろうが。俺たちを不当に束縛していることを忘れるな」


「は?悪いのはマディウスでしょ?それは変わらないよね?」


「……」


「……」


 先ほど見た繰り広げられたギスギス展開に、ガイアとセツナは絶句している。


「あのニヒルが意地になっている、だと?」


 坑道の偵察を命じられこき使われており、俺の家にいなかったノーフェイスに至っては意味不明だろう。


「まあまあ二人とも!『魔王』はどうせ暇なんだし、ニヒルちゃんもなんだかんだ楽しみにしてただろ?」


「本人の前で暇とか、本当のことを言うな」 


「そんなわけないでしょ!」


 ボケ役のグレープが茶々を入れると、すぐさまツッコミ役の二人から鋭い一言が飛ぶ。


 テレビ番組で見飽きたトリオ漫才を擦られている気分だ。今すぐチャンネルを変えたい。


「喧嘩は後にしてくれ。グレープに肩入れするわけじゃないが、皆の時間は有限だ」


「俺も賛成だな。グズグズしていると他のプレイヤーに掠め取られる」


 俺が仲裁すると、ノーフェイスが意味深なことを言う。


 このプレイヤーとは俺の替え玉を頼んだときに会ったきりだったが、どうも形から入るのが好きらしい。


 今も入口脇の崖になっているところに背を預け、伏し目がちにして斜に構えている。


 ただ、特徴のないのっぺりとした顔で全身は土や泥で汚れており、ヘルメットとつるはしを装備した姿なので、正直かっこ悪い。


「どういう意味、ノーフェイス?」


「俺たち以外にも、坑道を攻略しようとしているやつらがいるということだ」 


 ノーフェイスのもったいぶった言い方に、その場にいる皆が聞き入っている。


 これから行こうとしている坑道は、厳密に言うとダンジョンではない。


 正確には、浅いところはダンジョンではない、だな。


 どういうことかと言うと、一般的な金属や鉱石が採れる浅い部分はフィールドの一部で、主に石炭や石油、希少な金属や鉱石が採れる深い部分はダンジョンになっているということが判明している。


 ちょっとややこしいが、俺たちプレイヤーは区別のため、前者のフィールドを『坑道』、後者のダンジョンを『打ち棄てられた炭鉱』または『炭鉱』と呼んでいる。


 ただ厄介なことに、坑道は閉鎖的空間となっており、ダンジョンのように魔物が多く密度も高い。


 さらにダンジョンではない坑道の資源は有限であり、プレイヤーによる今日までの探索でめぼしいものは掘り尽くしたとされている。


 つまり、次なる資源確保のため、『打ち棄てられた炭鉱』への期待が高まっているので、坑道と炭鉱の境目まで攻略しようという機運も高まっているわけだ。


「もっとも、ほとんどのプレイヤーはあのサクラ個体や『干支』には目もくれてないが」


「なに?『干支』の魔物がいるのか?」


 なおも説明を続けるノーフェイスに、『魔王』が食らいつく。


 聞き慣れない単語が出てきたので、一つずつ説明しよう。


 まず、あのサクラ個体とは、以前から坑道を攻略していたグレープ、ニヒル、『魔王』と因縁がある桜色の魔物のことだ。 


 名前は『ダイヤモンドゴーレム・サクラ』。特定の金属や鉱石で体が構成されたゴーレム種の希少個体『ダイヤモンドゴーレム』の、さらに珍しい『サクラ個体』だ。


 その名の通り、全身がダイヤモンドでできているが、『サクラ個体』であるために薄いピンクの透明な色をしているらしい。


 見た目はきれいではあるものの物理攻撃が全く効かず、魔法もほとんど弾かれるそうだ。


 そんな『ダイヤモンドゴーレム・サクラ』は第二回イベントの最中に発見され、今に至るまで数多くのパーティを葬り去ってきたと言われている。


 その中には、グレープもいる。


 彼がやられたとき、『魔王』は人ゴブ戦争に参加していて不在でニヒルは逃げたから、餌食になったのはグレープだけだ。


 …説明してて思うが、なんて薄情な攻略仲間だろうか。


「ああ、この目で見たから間違いない。現在確認されている『子』の魔物とそっくりだった」


「そうか。では行くぞ」


「待って!ちょっと待って!?」


 ノーフェイスがさらっと新情報を開示すると、速攻で乗り気になった『魔王』が浮き足立ち、グレープがツッコミを入れる。


 グレープもすっかり成長したな。一昔前は鉄砲玉だったような気がするが。


「『子』の魔物ってなんだよっ!?俺にも分かるように教えてくれ!」


「それは私から説明しよう」


 彼とニヒル、『魔王』、ノーフェイスの四人は人ゴブ戦争に参加していないので、あの件を知らない。


 まあ顔色から察するにグレープ以外は情報を仕入れていたようだが、おさらいにもなる。


 せっかく名乗り出てくれたし、あのとき現場にいたガイアに説明を任せるか。


「『子』の魔物とは、全部で十二いるとされている『干支』の魔物の一体で、人ゴブ戦争の日に【英雄の戦禍】のロボーグと戦ったあるプレイヤーが放った新種の魔物だ」


「放ったって、どういうことだ?」


「そのプレイヤーは、異次元空間に生きた魔物をしまっていたんだ。それを一気にぶちまけた」


「はあっ!?そんなことできるのかよ!?」


 初耳のグレープが、素っ頓狂な声を上げる。


「ただ、どうやらデスと引き換えに成せる業らしい。あながちぶっ壊れではないだろう」


「それでも、死に得じゃんか…」


 彼の言い分も分かる。


 死することで一矢報いるスキルというのは特殊だ。普通のプレイヤーにとって、死はマイナスでしかないからな。


「それで『子』の魔物というのは、白い毛並みをしたネズミの魔物だ。遭遇したロボーグによると、抜群の反射神経と瞬発力を持つらしい。件のプレイヤーに解き放たれてから一目散に逃げ出し、今の今まで行方をくらましていたが、まさか坑道にいるとは…」


「ドブネズミのように街にやってくるのではなく、野生の個体らしく狭くて暗い坑道に逃げ込んだというわけか」


「おそらくそうだろう。暗闇だったが、大きな耳と白い毛肌を確かに見た。『子』の魔物は坑道に潜んでいる」


 ガイアが詳しく説明し、『魔王』とノーフェイスが補足した。


 【魔族図鑑】の効果により、『魔王』は自身の手でトドメを刺した魔物を召喚し、使役することができる。


 そのため、新種の魔物には目ざとい。


 たまに『フロンティア』まで赴いてコレクションを増やすくらいには、自身のスキルに磨きをかけているらしい。


 そんな『魔王』の今の獲物は、もっぱら『干支』の魔物だ。


 その強さの方向性は文字通り十人十色だが、どの魔物も突出した能力を持っているとのこと。


「よく分かんねえけど、『魔王』が狙うくらい強くて珍しい魔物ってことか」


「…その認識で構わない」


 『魔王』め、理解させることを放棄したか。


 まだまだグレープの扱いがなっちゃいないな。


「マディウスの思惑はともかく、今が狙いどきだよ。いくら坑道でも、挑戦するプレイヤーの人口が増えれば、そう遠くないうちに攻略されるだろうし」


「時間を無駄にできない。行くぞ」


「ああ、行くか」


 締めに入ったニヒルと『魔王』に、俺は便乗した。


 少し話しすぎたな。


 良い意味か悪い意味か問わず、有名人である俺たちが坑道入口でたむろしているという事実が、他のプレイヤーたちに攻略を急がせてしまう。


 鉱山攻略の目的はうやむやなままだが、つまりは『ダイアモンドゴーレム・サクラ』と『子』の魔物を狩りたいということだろう。


「買い物のときに言ったけど、懐中電灯はなくさないようにね。本当に真っ暗だから」


「おっけー」


 アルフレッドと密会していて今初めてそのことを聞かされた俺は、セツナの気の抜けた返事を聞きつつも先ほど手渡された懐中電灯を見てみる。


 よくある普通の懐中電灯だ。片手に収まる筒の部分が細いタイプ。


 手が塞がってしまうので、ライトが取りつけられたヘルメットの方がいいのではと思ったが、それでは光量が減ってしまうし、壊れやすいそうだ。


 坑道内で光を失うと詰むので、多少不便でも手で持つ形の懐中電灯が採用されているらしい。


「あと、つるはしはあくまで非常時に使って。希少な鉱石が露出してても掘ろうとしちゃいけないよ」


「え、そうなん?高く売れるから掘った方がよくない?」


 特に鉱山初心者の俺、セツナ、ガイアに向けて、ニヒルが念押しする。


 が、決して壁を掘ってはならないというお達しに、OSO新人のセツナは疑問を抱いたようだ。


「他のゲームと違って、OSOは本当にリアルだからね。落盤するんだよ、いとも簡単にね」


 ニヒルがそう回答すると同時に、グレープと『魔王』は遠い目をした。


 欲をかいて、何度も生き埋めになったことが伺える。


「あっ…」


 それを見て、察したセツナ。


「まあ、落盤の仕様については中で話そう。それじゃあ、さっき決めた順番で」


 また話が長くなりそうだったので、ここでニヒルが話を切る。


「ああ」


「おう!戦闘は任せとけ!」


「やっとか。『子』が逃げたらどうする」


「たいよろ!洞窟とか楽しみすぎるっしょ!!」


「最悪、落盤しそうだったら私の魔法でなんとかしよう。よろしく頼む」


「威勢はいいが、どうなることか」


 ようやく出陣のようだ。


 俺たちの坑道攻略が、今始まった。



 ※※※



 意気揚々と坑道に踏み入った俺たちに待ち受けていたのは、数メートル先も見えない暗闇だった。


「なあ、ずっとこの調子なのか?」


「そうだぞ」


 俺は首を捻って前を歩くグレープに聞いてみると、即答された。


 一定の幅のある坑道を進みつつ、全員がOSO産の懐中電灯で照らしてはいるが、ろくに周りが見えない。


 前後に人がいるとはいえ、うかうかしていると離れ離れになってしまいそうだ。


「だが、暗いのにも限度がないか?ほとんどなにも見えないぞ」


「それは魔物も同じだ。ただ、向こうは正確に攻撃してくるけどな」


 そうなのか。


 まあ、洞窟で暮らす生き物は視力の代わりに聴力が発達しているって言うからな。


 リアル志向を売りにしているOSOのことだから、光源が一切ない洞窟を真っ暗にしてくることも、こうしたフィールドに生息する魔物たちが視覚を頼らずに攻撃してくることも容易に想像できる。


 ただ、あまりにも暗すぎるな。正直舐めていた。


 坑道は、元は人間が利用していた通路であり、今は攻略に赴くプレイヤーが多いから懐中電灯で何とかなると思っていた。


 しかし、これは認識を改めざるを得ない。


 この視認性の悪さだと戦闘中、壁や仲間と衝突するリスクがあまりに大きいだろうし、そもそもとして連携が上手くいく気がしない。


「この暗さの中、グレープたち三人はどうやって連携を取ってたんだ?」


 前方の闇を照らす彼をカバーするように足元を重点的に照らしてやりながら、世間話を振ってみた。


「取ってないぞ」


「え?」


「取ってないぞ。始めはFFしまくって、死んで感覚をつかんだ」


「…なるほど」


 が、聞いた俺が浅はかだった。


 どうやらFF、仲間を攻撃するという意味のフレンドリーファイア行為が日常茶飯事だったようだ。


 ゲームセンスに光るものがあるが、感覚派のグレープ。アサシンとして機敏に動き、闇の中での行動に慣れたニヒル。そして数多のゲームを遊び尽くし、状況に応じて臨機応変に戦うことのできる『魔王』。


 こうして書くと完全無敵のパーティに見えるが、実態は自分のことしか考えていない三人組だ。


 おそらく、ニヒルと『魔王』は連携を取ることを放棄していたんだろうな。


 二人が連携を取ったところで、グレープが息を合わせられない限り危険なことには変わりないから。


「じゃあその経験を活かして、ここを歩くコツはあるか?」


「そうだな、耳を澄ませてよく聞くことだ。匂いは分からないからな」


「なるほど」


 俺は、想定通りの返答に頷くしかなかった。


 目が頼りにならない場合、次に活用できるのが耳と鼻となる。


 しかし、OSOでは鼻はあてにならない。VRゲームに嗅覚という概念がないためだ。


 高度に技術が発達した現代でも、嗅覚と味覚は仮想空間で再現することができない感覚となっている。


「おっと、お出ましだ」


 と、一番前を歩いていたグレープが魔物を発見した。


 いや見えてはいないから、探知したというのが正しいな。


「種類は分かるか?」


「コウモリだ」


 彼のすぐ後ろ、列の二番目にいる俺が簡潔に聞くと、簡潔な答え。


 坑道にいるコウモリの魔物といえば、アンマクコウモリか。


「数がいるから、俺がやる」


「分かった」


 グレープが言うので、俺は答えつつ数歩後ろに下がる。


「戦闘だ」


「はいよ」


 同時に、背後のニヒルにも伝えて進軍を止める。


「こい!」


 腰に提げた剣を抜刀し、前方の黒を睨むグレープの雰囲気が変わった。


 …ように感じられる。


 果たして、仲間とのプレイで成長したんだろうか。


「…」


 さあ、どう戦う。


 俺は固唾を飲んで見守る。


 もちろん見えないので、懐中電灯で辺りを照らしながらだ。


「キキィィッ!」


 すると、逆さになってぶら下がっていたアンマクコウモリの一匹が大きな翼膜を膨らませながら、グレープに飛びかかってきた。


 アンマクコウモリは坑道の害悪とも称される魔物と言われている。黒く大きな翼を被せ、獲物の身動きを封じてから生きたまま血肉を啜る。


 ただでさえ暗い坑内を、さらに暗くする厄介者だ。


 しかも、やつらは坑道内の乏しい栄養源にありつこうと、群れで行動するらしい。


「キキキッ!キィィィッ!!」


 一際大きく鳴き、コウモリが眼前に迫る。


「……」


 対して、グレープは落ち着き払っていた。


「はああっ!」


 そして最小限の動きで剣を振りかぶり、斜めに袈裟切りを放つ。


「っ!」


 目で追えないこともない、言葉にすればたったそれだけの動作だったが、明らかに以前の彼とは違っていた。


 動きに迷いがない、と言えばいいだろうか。


「キィィ…」


「まずは一匹」


 飛び出した勢いを殺しきれず、小さな胴を真っ二つにされたコウモリの体がこちらに転がってくる。


 だが、きっちり一分後にアイテムに変わるので、翼膜に視界を奪われないように気をつけていればいい。


「ふむ」


 せっかくなので、俺は合羽のような黒い翼を拾い上げてみる。


 薄暗い中ざっと見た感じ、コウモリは上質な素材が得られそうな絶命の仕方をしていた。


 何度も言うが、OSOはリアリティを追求したゲームだ。魔物の倒し方によって、得られるアイテムの種類や品質が変化する。


「翼膜に傷がない。良質なアイテムになるな」


「彼はすごいよ。太刀筋が格段によくなった」


 珍しくニヒルが褒めたので、俺は照らすために持ち上げていた右手をそのままに、首だけを動かして彼または彼女の方を向く。


 性別不詳の暗殺者いわく、坑道の攻略が彼を成長させたという。


「意味を、自分が行動した結果起こりうる直近の未来の形を、彼なりにイメージできるようになったんだろうね。暗く狭く魔物が多く、一つのミスが死に直結するこの極限の環境に身を置くことで」


「なるほど」


 なんか、ごちゃごちゃ語り始めたぞ。


 意味というのはすなわち、効率だろう。


 無駄な動きをしない。


 たった一つそれを意識するだけで自分の動きが引き締まるし、相手の動きに対応する余裕ができる。


「でぇえええあっ!!」


 一際力強い駆け声が響き渡り、俺は再び前を向く。

 

 ちょうど、グレープが最後の一匹を倒したところだった。


「すごいな、何匹いた?」


「八匹だな。割と多かった」


 散らばったアイテムを回収しながら聞くと、戦闘前と変わらない声色で彼は答える。


 俺が適当に照らしていた懐中電灯の明かりだけを頼りに、魔物の群れを単独で処理しきるとは。


 もしかしなくても、これはいけるかもしれないぞ。


 

 ※※※



「アンマクコウモリは翼を広げると邪魔だから、基本一匹ずつしか襲ってこないんだよ。だから俺でも倒せる」


「そうなのか」


 コウモリの襲撃からしばらく後。


 さっきの戦闘のことについて喋りながら、俺たちは行進を続けていた。


 聞くところによると、アンマクコウモリの翼膜はローブなどに用いられるとか。


 真っ黒でほとんど光を反射しないため、PKや空き巣、強盗、その他犯罪行為をする人たちに重宝されるそうだ。


 …俺も一着欲しいな。特に理由はないんだが。


「着いたぞ」


 誰にでもなく言い訳していると、不意に前を照らしていた懐中電灯の光が伸びる。


 グレープが「着いた」と言ったことからも、目印となるような場所に到着したんだろうか。


 もしかして、『打ち棄てられた炭鉱』の入口に着いたのか?


「ここは?」


「ざっくり言うと、『休憩エリア』かな」


 俺の後ろの後ろ、前から四番目の位置にいるガイアが尋ねると、その前、三番目にいるニヒルが答えた。


 流石に、ダンジョンにはまだ着かないか。


「あ、あ、あああ…」


 『休憩エリア』と称された空間はかなり広い、と思う。


 依然として真っ暗なため正確な広さは分からないが、先ほどと比較して長い時間、声が反響するようになったから多分そうだ。 


「私たちが入ってきた入口から道なりに進むと、ここに突き当たるんだ。プレイヤーが誰かしら常駐してるはずだから、ほぼ安全」


 はず、ほぼというのが気になるが、ここは安全地帯らしい。


 坑道の道をマッピングした地図は存在しないはずだが、入り浸っているプレイヤーたちには浅い部分の地理が頭に入っているんだろう。


「ほぼ安全、か…」


「そうなのか?プレイヤーがいるにしては暗いが」


 ガイアも引っかかっているようだ。俺も尋ねてみる。


 当たり前だが、人間の拠点になっている場所は明るいものだ。


 なので、外から明かりが持ち込まれて、休憩エリアとして運用されているならこの暗さはおかしい。


 が、先ほど『ほぼ安全』と言っていたことから、ここは人の手で継続的に維持されているわけじゃなさそうだ。


 すなわち、休憩エリアが暗い場合は魔物がいて、明るい場合は攻略中のプレイヤーがいるという認識でいいのか。


 そうした意図を込めて聞いてみた。


「今は誰もいないみたい。運が良けりゃ魔物、悪ければプレイヤーキラーがいるかも…」


 そう、ニヒルが俺たちの疑問に対して答えかけた瞬間。


 ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ!


 ブラインドがめくられる音とともに、四方八方から眩いほどの光が降り注ぐ。


「なんだっ!?」


「ようやくおいでなすったなあっ!ご一行さん!!」


 同時に、聞いたことのない男の声。


 高いが、ファーストやアルフレッドじゃない。


 誰だ?


「この光…」


 おれは顔を覆った両手の隙間から、なんとか覗いてみる。


 『休憩エリア』の奥の方からこちらに向けて、七つの細長い影が伸びていた。


 どうやら、周囲の壁に沿う形で置かれた強い光源、スポットライトかなにかで俺たちのいる地点を照らしているらしい。


「プレイヤーだ」


 一番前にいるグレープが言うより早く、俺たち七人は瞬時に状況を理解し、臨戦態勢に入る。


「運が悪かったようだね」


 そして皮肉にも暗殺のプロであるニヒルがぽつりと、己の不運を呪った。


 やはり、今回も一筋縄ではいかないようだ。

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