第39話 お仕置き

王家軍を自軍に吸収したアードレー軍は王家領に侵攻し、王都の周辺の村々を次々に占領して行く。


アードレー軍の規律は厳しく、略奪、陵辱は問答無用で死罪である。自領に編入される村々を荒らす愚かなことはしないよう徹底されているのだ。


占領後は、軍に随行している女性官吏が村の統治の責任者となり、男女半々の治安部隊と一緒に村の統治を行うようになっている。女性を多く配置することで、村人たちは安心してアードレー家に従った。この方法はルイーゼの献策によるものであった。


アードレー軍が王都を取り囲んだのは、境界線を突破してからわずか二日後のことだった。


城壁を警備する衛兵にはクラウスの顔馴染みも多い。王都を警護するのはおよそ五千の兵だが、アードレー家討伐に向かっており、現在は数百しかいないと思われた。また、近隣の王族や貴族からの援軍はなく、来るとしても徴兵して派兵してとなるため、一週間はかかる。


クラウスはベンツの後任の衛兵隊長、そして親衛隊長のゼルダと会談し、投降を勧めた。


クラウスはゼルダから一つ質問を受けた。


「アードレー家は王家をどうするつもりなのだ?」


「私の受けている命令は、アルバート王を失禁させて来い、です。失禁させたら、速やかに退却します」


「何だ、それは? 王位簒奪が目的ではないのか?」


「ルイーゼ様のお考えは私ごときには分かるはずはないのですが、ルイーゼ様にとっては、王位など何の魅力もないはずです。すでにルイーゼ様はこの国の女王です。ルイーゼ様は王は民衆が決めるもの、とおっしゃっておられました」


「そうか。陛下の失禁が目的であれば、そのままお通ししよう。我々は牢に入っていればよいか?」


「王宮外であれば何処でも。希望者はルイーゼ様の親衛隊に編入しますので、おっしゃってください」


「分かった。全員に通達する。クラウス、いい主君を得たな」


「はい。美しく、慈悲深く、正義を実践される尊きお方です。ゼルダ隊長もぜひお考え下さい」


***


アルバート王は一人王宮の玉座に座っていた。妃も王子も臣下もみな王宮外に非難してしまった。王宮を守るはずの衛兵はあっけなく投降し、親衛隊もあろうことか解散してしまった。アルバートに忠誠を誓って最後まで抵抗する者は、ただの一人として現れなかった。


アルバートは自身の人望のなさに自嘲する。


アードレー家の兵士が玉座の間に侵入して来た。アルバートは先頭にいるクラウスを見て、見覚えがあると思った。確か先王の騎士で、文武両道の優秀な若者と評判だった。容姿も優れていて、少し嫉妬したことを思い出した。


「貴様、王の騎士でありながら、アードレー家に降ったのかっ」


クラウスは何も答えず、ツカツカと玉座まで登って来た。


「な、何をするつもりだ。おい、何とか言え」


クラウスはルイーゼ直伝の虫を見る目で王を見つめた。


「な、何だ、その目は」


クラウスは剣を抜き、振りかぶった。


「こ、殺す気か、や、やめろ」


そして渾身の一振りを玉座に叩きつけた。剣は王には全く触れることなく王の股の間を通り、玉座にのめり込んでいた。


王の股間が湿って行く。


「アルバート王の失禁を確認。おい、お前たちも確認せよ。ルイーゼ様への証人となってもらう」


クラウスの言葉に兵士が数人玉座に駆け寄った。


「ルイーゼだと……」


王は力なくつぶやいた。


「はい、失禁を確認しました」


「私も失禁を確認しました」


「うっ、王は脱糞もされておられます」


「王の失禁と脱糞を確認しました」


次々に己の醜態を報告され、アルバートは力なく抵抗する。


「やめろ、やめてくれ……」


クラウスが女性兵士を呼んだ。


「つぎ、女性部隊確認せよ」


女性三人が玉座に上がった。


王は目を見開いた。かつて虐げて捨てた妻たちだった。


「アルバート王の失禁と脱糞を確認しました。耐えがたい臭気であります」


「私も失禁と脱糞を確認しました。情けない表情をされておられます」


「私も同様に失禁と脱糞と臭気と表情を確認しました。王は威厳も何もない畜生に成り果てておられます」


「記録官、証言者の言葉は記録したか? よしっ、撤退する」


クラウスの号令で、兵士たちは玉座の間からあっという間に消え去った。


アルバートは疲れ果てた表情で、一人ポツンと玉座に残された。

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