第25話 徴税改革

「そこのネズミ男はいつまで私の視界にいるのかしら」


アンリがルイーゼの声色を真似て、あの時のルイーゼの言葉をリピートする。かなり似ているらしく、リンクが驚いている。


農家の実習でお世話になったおじさまとおばさまとマッチョ二人との別れで沈んでいたルイーゼを元気づけてくれているのだろうが、


「やめてよぉ~」


と、当のルイーゼは真っ赤な顔をして、耳を塞いで、イヤイヤしている。


ルイーゼはついノリノリになってしまい、あんなことを言ってしまったのだった。


「姉さま、格好良かったです! ね、リンク、惚れちゃうよねっ」


「ルイーゼさん、堂々としていて、とても良かったです」


リンクはルイーゼが予想以上にしっかりと役割を果たしてくれて、大満足だった。


リンクたちは領主の息子が来ることを読んでいて、アンリの税務帳簿を使って、領主側が逃げられないようにどう対処すべきかをルイーゼに事前にレクチャーしていたのだが、台詞は全てルイーゼに任せていたのだった。


徴税においては、徴税人の不正が一番の問題である。農地面積の過小報告、農家への過大請求が当たり前のように横行しており、しかも、領主がその不正を見抜けない。なぜなら、領主は計算が不得手だからだ。


この世界では、学問は卑しい身分のものがするものという考えがあり、貴族は算術を学ぼうとはしなかった。したがって、金勘定においては、貴族はいいカモにされていたのだ。リカルドはかなり頭のいい男であったが、それでもかなりの額をちょろまかされていた。


これをチェックする仕組みを作るようルイーゼは父に進言した。


「そうしたいのは山々だが、人手不足でチェックをしたくても適任者がいない。それと、チェックする者が不正をするとどうしようもない」


というのが父の返答だったのだが、人手不足に対しては、ルイーゼは女性の雇用を提案した。


「女性は教育を受けてはいないではないか」


予想していた指摘に対して、算術の専門学校を設立し、そこで学ばせれば、帳簿のチェックなら一年もしないうちに出来るようになると説得した。


不正のチェックについては、農民の女性にも算術の教育を施し、数字が農民からも見られていると徴税人に意識させれば、不正が少なくなるのではと提案した。


「なるほど、試してみる価値はあるな」


ロバートはルイーゼの案を採用した。この女性活用案はこの世界では画期的だったが、前例がなく不安視する向きもあった。しかし、アードレー家は「アンリ算術女学校」を各地に建設し、広く生徒を募集した。


だが、問題が二つ発生した。


一つ目は女は家を守って、学問などしなくていいという古い考え方がなかなか抜けなかったということと、もう一つは女には学問する時間がなかったのである。


これを打開する案として、ルイーゼは女学校に通う家庭に助成金として、衣類の現物支給を行うよう提案した。農家の女性の多くの時間が衣服の縫製に占められていたからだ。


これが見事に当たった。衣服は生徒となる女性だけではなく、家族の分も支給されたため、入学希望が殺到するようになった。試験にパスしないと、支給された衣類分の返金が発生するため、生徒たちは必死に勉強した。


こうした施策により、数年後にはアードレー家の税収は五倍以上になり、開墾や治水事業にも豊富な資金を回せるようになり、農地が広がりさらに税収が増え、領地がどんどんと潤って行くようになった。


領地経営はロバートたちに一任した。


アンリが学校経営に少し時間を取られたが、ルイーゼたちは衣類の現物支給が発端となり、製糸工場と縫製工場の整備に奔走することになる。


その第一歩は、いつものとおり、現場実習だった。


ルイーゼはお針子として、仕立屋に就職した。

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