第4話 わかってしまった
「殺すつもりはなかったんだ」
刑事ドラマや殺人ミステリーに登場する、殺人事件の犯人が口にする弁明だ。
そいつらは「思わずやってしまったんだ」なんて言い訳を付けて、自分の犯した罪から逃れようとする。
ところが、ドラマの中で「人殺し」が実際に人を殺している時の顔は、ひどく
私は「思わず」なんてのは、
しかし、中学2年のあの日、私は「彼ら」の気持ちが少しわかってしまった。
「思わずやってしまったんだ」と言いたくなる気持ちがわかってしまった。
わかりたくないのに、わかってしまったのだ。
そして、私が
◇
我に返ったのは、
視線を感じて向いた先には、驚きと怯えと恐怖の表情をした明日香さんがいた。
普段から大人しく、あまり感情を出さない彼女のその顔は、僕を現実に引き戻すには十分すぎた。
僕は今、何をしたのだろうか。
ふと、目線を前に戻すと、信じられないといった表情でこちらを見ている達人の姿があった。
彼の顔にすぐに水溶液を洗い流そうという焦りはない。手に持っているブラシと試験管を投げ捨ててでも洗い流そうともしていない。顔には動揺以外何もついていない。達人の学ランの腰のあたり、そこが少し濡れている。
僕は水溶液を、達人の顔にはつけなかった。
僕が塗りつけたのは、達人の学ランだった。
周りにいたクラスメイトが先生を呼ぶ声と、なおも勢いよく流れ続ける水道水の音がなぜか耳に残った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます