make a spell

豆腐数

このおまじないはフィクションです

 ──まずはガラス瓶を用意。その中に黄色のビー玉を満タンまで詰め込んで、人目のつかない、でも日当たりのよいところに三日間置きます。この時瓶のフタは締めずに開けっ放しにしておくこと。開きっぱなしにすることで太陽と場のエネルギーを吸収し、ビー玉一つ一つが好きな人を射止めるパワーを帯びた、スーパーアイテムに変化するのです。


「本当なの? それ?」

「ホントもホント、友達の友達から聞いた確かな筋のやつだって」

「親友とか直接の友達じゃないからどうも勢いで押し切るにも説得力が」

「友達の友達も、友達の友達から聞いたらしい」

「ダメだこりゃ」


 私達の通う高校の使われなくなった焼却炉前。直接の友達、親友(であると思う、私はそう思っている)であるせつな自身は、マヌケに口の開いたビー玉入りガラス瓶を掲げて見せる私の手をうさんくさげに眺めるだけで、おまじないの提供などしない。現実主義なのだ。


「愛するタケル君に出来る限りの好意は伝えた。アプローチも積み重ねた。となるとあとは神頼みかオカルトにでも縋るしかないのだよ、せつな君」

「なにそのくん、って。そんなキャラだっけ? ──あ、緊張してるのか」


 そう。サッカー部エース(になる予定の絶賛努力中)であるタケル君に、既に三日前に告白は済ませてある。今日が返事のタイムリミットってわけ。これまで朝のあいさつ手作りお菓子プレゼント、同じ委員会になるよう根回し、そこからの委員会の仕事が立て込んでもう遅いから途中まで送ってもらう作戦コンボ。みんなで出かけるつもりが謎の急用が出来て二人きりデート作戦、実にたくさんの努力を重ねて来た。その集大成が今日帰って来るはずなのだ。良きにしろ、悪きにしろ。


 せつなに言われなくても、理屈の上ではわかってる。おまじないはおまじないに過ぎないって。


「でもさ、私はそわそわと待ち続け、タケル君もきっと悩んで悩んで煩悶した三日間。そんな甘酸っぱい世界パワーを取り込んだならさ、その辺に売ってるビー玉だってスーパーアイテムになったっておかしくないと思わない?」

「うーんまあ友達の友達から聞いた話、よりは……」


 あいまいに頷いたせつなの言葉を、スマホの着信音がぶった切る。ママとパパの思い出の曲だという、懐かしいメロディー。私の趣味とは違うけれど、願掛けになんでも縋りたかったから、きのう設定したんだった。


『もしもし、まこちゃん? 今大丈夫?』

「う、うん」

『良かった……あのさ、この前の返事なんだけど……』


 胃の辺りがキリキリする。隣でせつなが邪魔をしないよう口を抑えている。私は一言二言タケル君と言葉を交わし、通話を切ってうずくまる。


「どうした! あーやっぱりダメだったか! この間の手作りクッキーちょっと焦げてたしなぁ」

「だーれがダメか! OKよOK! 来週晴れて恋人同士としてデート!」

「なんだ、紛らわしい」

 

 あー嬉しい。嬉しくて踊り出しそう。っていうか踊ってる。浮かれて踊って、思わず腕を振り回して、瓶があらぬ方向へ飛んで行った。ガシャンと景気のいい音。


「あーあ、いけないんだー。せんせーまこちゃんがやりましたー」

「小学生かっ。いいのいいの、昨日までの悶々とした気持ち吸った怪しいビー玉入りガラス瓶なんて演技が悪いもの。割れちゃって良かった」

「言ってる事変わり過ぎ!」


 ホウキとチリトリ持って来る、と走っていくせつなの背中を見送った私の手の先で、ちらばったビー玉が、日当たりの良い人目のつかない場所で、私だけのために輝いた。


 

 



【二代目フリーワンライ100回目お題より】

開けっぱなし

理屈ではわかってる

ガラス瓶

友達の友達から聞いた

嬉しくて踊り出しそう

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