第二章

第11話「平凡な兄と良いとこ取りした弟」フォンジー・ザロモン(侯爵家長男)視点

【第二章】「愚か者でも可愛い弟だった」


※最低男リック・ザロモンの兄、フォンジー・ザロモン(侯爵家長男・常識人)視点の話です。







――リック・ザロモンの兄、フォンジー・ザロモン(侯爵家長男)視点――




私の名はフォンジー・ザロモン、侯爵家の長男として生を受けた、平凡な男だ。


三つ下に弟のリックがいる。


弟は生まれたときから器量が良かった。


弟は母親似の美しい顔とプラチナブロンドの髪にエメラルドの瞳と透き通るような白い肌を持ち、父親に似て魔力量が多く、祖父に似て頭も良かった。


私は父親に似てくすんだ金色の髪、灰色の目の平凡な容姿。


母親に似て魔力量は低く、祖母に似て頭もそんなに良くなかった。


見目が良く、魔力量も高く、物覚えも良い弟を、家族と親戚は可愛がった。


ザロモン侯爵家を継ぐのは長男の私だが、父の跡を継ぎ魔術師団長になるのは弟だと言われていた。


そんな弟が進級パーティでやらかしたと知ったとき、「まさか!」という思いと、「やっぱり……」と言う思いが入り混じった。


弟は人より頭が良いせいか、他人の心が汲み取れず、他人に寄り添うことが出来ない性格だった。


周囲が弟を甘やかしたせいか、弟は年を重ねるごとにプライドが高く、自己愛の強い人間に育っていった。


そんな弟にも十歳のとき婚約者が出来た。


お相手はグロス子爵家のエミリー嬢。


茶色い髪に琥珀色の瞳の愛らしい容姿の小柄な少女だった。


エミリー嬢の趣味は刺繍にパッチワークキルトにお菓子作り。


優しく思いやりのある性格のエミリー嬢との婚約が、リックに良い影響を与えてくれればと、当時の私は考えていた。


リックがエミリー嬢との婚約を、金のために子爵家に売られたと思っていたと知ったのはずっとあとになってから、リックがエミリー嬢から婚約を破棄されたときだった。


当時の私は弟と婚約者のエミリー嬢との間を取り持とうと必死だった。


弟は頭でっかちのプライドの高いナルシストだ。


いくら顔が良くても、優しいエミリー嬢との婚約を逃したら、誰も結婚してくれないだろう。


エミリー嬢は婚約者の兄である私にも、刺繍入りのハンカチや、お菓子をくれる優しい子だ。


よく気の利くエミリー嬢に、すこし世間とズレた価値観を持つ弟を支えてもらいたい、当時の私はそう考えていた。


私は弟がエミリー嬢とのお茶会を「めんどくさい」と言ってすっぽかし、一人で遠乗りに行こうとするのを何度も止め、弟を小突き花束を持たせ子爵家行きの馬車に乗せた。


父から与えられたエミリー嬢への誕生日プレゼント代を着服し、魔術書の新刊を買おうとする弟を叱責し、女性向けの雑貨が売っている店に連れて行き、エミリー嬢の好みそうなリボンやアクセサリーを買わせた。


私の働きが功を奏してか、エミリー嬢から弟との婚約解消や破棄の話が出ることはなかった。




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【連載】「彼女を愛することはない〜王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした」 - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16816927860362844298

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