第9話「特技を活かす」





「彼らの計画が失敗に終わったのは、元側妃様に人を見る目がなかったから……ということか」


マダリン様が感慨かんがい深げにおっしゃった。

 

「でも彼らの計画が失敗に終わったお陰で、わたくしたちが白い目で見られることがなくなりましたわ。

これからは第三者に、

『婚約者は魅了の魔法にかかっていただけなのだから許せ』とか、

『その程度のことで婚約破棄するなんて酷い』とか、

『人間としての情はないのか』

と言われることもなくなるのですね」


カロリーナ様は安堵の表情を浮かべた。


「全くだ、他人事だと思って好き勝手言う奴らに辟易していたからな」


マダリン様が深く息を吐いた。


カロリーナ様もマダリン様も、世間の噂や好き勝手なことを言う第三者に、相当ストレスを感じていたようです。


「ところで、エミリー様はこれからどうなさるおつもり?」


カロリーナ様がおっしゃった。


「どうと、言われましても……」


私は進路を決めかねている。


学園の二学年に進級しましたが、周りから同情の視線を向けられています。


騒動に巻き込まれた私に、蔑みの視線を向ける人もいて、学園に通うのは正直辛い。


かと言って、私にはカロリーナ様やマダリン様のように隣国に留学する才能や度胸もない。


「よかったら、わたしたちと一緒に隣国に留学しよう」


マダリン様が誘ってくださった。


「お気持ちは嬉しいのですが、私にはお二人のような教養も才能もなく……」


「そのことなんだが、以前エミリー様からもらった刺繍入りのハンカチを、留学先の先生に見せたら偉く気に入ってな。

先生はすばらしく美しい刺繍だから、ぜひこれを作った人に会いたいとおっしゃっていた」


「えっ?」


マダリン様のおっしゃった言葉に、私は驚きを隠せない。


「エミリー様にはちゃんと才能がありますわ。

このクッキーとケーキはエミリー様の手作りでしょう?」


「はい」


公爵家うちのパティシエが作ったお菓子より美味しいのをご存知かしら?」


「ええっ??」


カロリーナ様の言葉に、私は目が点になる。


カロリーナ様は先程から、クッキーやケーキを召し上がっておられましたが、まさか公爵家のパティシエが作るお菓子より美味しかったからなんて、思ってもみませんでした。


「エミリー様、あなたにはご自身で思っているより才能がある。

私は剣術や乗馬は得意だが、裁縫や刺繍はからっきしだ。

手先の器用なエミリー様を羨ましく思っていた」


いつも凛としていてかっこいいマダリン様が、私を羨ましく思っていたなんて……!?


「私もお料理は全くだめなんです。

この前もクッキーをまっ黒焦げにしてしまって……。

エミリー様にお菓子の作り方を教えていただきたいわ」


恥ずかしそうに頬を染めながら、カロリーナ様がおっしゃった。


語学もダンスもマナーも完璧で淑女の鑑と称されるカロリーナ様が、私からお菓子作りを教わりたいだなんて……私は夢でも見ているのでしょうか?


「エミリー様、隣国の学園には洋裁をメインにした学科やパティシエを養成するための学科もある。

あなたの才能を埋もれさせるのはもったいない。

もう一度留学の件を考えてみてはくれないか?」


「言葉が不安でしたら、わたくしとマダリン様が隣国の言葉を教えますわ」


マダリン様とカロリーナ様がおっしゃった。


「考えてみます……いえ、前向きに検討させて下さい!」


私もカロリーナ様やマダリン様のように、凛と胸を張って生きていきたい。


自分に自信を持てるようになりたい。


自分の特技を活かしてみたい。






もしよければ★から評価してもらえると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る