へんなにおい

「怖いですよねほんと。ったく、どこの誰があんなのを…………」

「私だってねえ、ゴミ捨て場にあんなもんがあったら腰抜かすわよ。回収業の人も本当に大変よね…………あの奥さん」

「仕方がないですよ、あんなニュース信じたくありませんよね」

 ぼくとママのいえにやさしいけどちょっとまぬけなどろぼうさんがはいってからみっかご、ママのはたらいているスーパーでママのなかまがひそひそごえではなしあってた。

 なんのおはなしだろ?

 ママはっていうとね、ききたくなーいっていうか、つかれたーってかんじのめをしてた。ママのなかまのひともしかたがないかなっていうかんじでみてる。

 ねえママ、なんで。なにがあったの?なにがゴミすてばにすててあったの?







「聞きました奥様、全くどこの誰がそんな真似を……ねえ」

「全く最近の親はひどいものですよねえ」


 おやって、パパやママのことだよね。かいものにやってきたふたりのおばさん、くらいかおをしながらそんなことをいってた。

 そんなかおするぐらいだったらそんなはなしやめればいいのに。


 で、で、どんなはなしなの?


「で、でもここからおよそ十キロも離れた所ですわよ、このマンションとは……」

「だとしても同じ日本である事には変わりませんよ。全くどこに」

「あるいはその費用すらなかったとか」

「それも同じぐらい嫌ですけどね……はぁ全く」

 あっくるまをおしてるママがよこからでてくる、あっぶつかっちゃう!

「すみません、大変失礼しました!」

「ああっと、もう全く……何をやってるんだか…………ここで済んでよかったわ」

「ああそうですわよね、こんな暗い話に明け暮れて横からワゴンが出て来る可能性を見落とすなんてねえ、全くいけませんわね……どうも失礼いたしました」

 ああよかった、たいしたことなかったみたい。

 でもさ、ふたりのおばさんもそうだけど、ママもくらいかおをしてた。いったいどんなはなしがあったのかなー、ぼくよくわかんないんだけど。ママおしえて、ねえおしえてー。

「ったくもう、その場に居合わせなくてよかったですわね」

「そうですわよね、ゴミ捨て場から人の骨ですからね、頭蓋骨まで一式……」

「ゴミ回収の人たちも大変でしたでしょうね…ああ物騒な世の中よね」


 ママはなんにもこたえてくれない。

 あたりまえだよね、おしごとのさいちゅうなんだから、ごめんねじゃましちゃって。かわりにこたえてくれたのはママとぶつかりそうになったふたりのおばさん。こういうときは……えっとそうだ、どうもありがとう。


 で、そのふたりのおばさんがいうには、おそうじのひとたちが、おまわりさんになにかとんでもないものをみつけたせいでおはなしをきかれてたってことらしい。


 それでさ、ずがいこつってさ、たしかあたまにあるほねのことだよね。

 でさ、ききわけのわるいひとのことをあたまがかたいとかいうらしいけど、そんなものがあるから?めんどうだね。


「大きさからすると3~4歳ぐらいと思われる。一部損傷あり。死後何者かの手によって焼かれたと思われるが、燃焼が不完全だったためか頭蓋骨は残っている……全くもう、いくら情報を正確に伝えるのがニュース番組の役目とは言え、程度って物があるでしょ……」


 あっおかえりママ。なんかぶつぶついってるけど、どうしたの?


「あっお帰りなさいませ、何か暗そうな顔してますけど……また何かあったんですか」

「いやその、今朝のニュースですよ、ほらゴミ捨て場に骨が」

「あああれですか、全く物騒な世の中ですわよね。どこの誰が3歳児ぐらいの、まだあどけないはずの子供を、勝手に焼いて挙句ゴミ捨て場に捨てるだなんて……しかも骨はほとんどありのまま…………ねえ」

「やめてくださいよ、そうやってはっきり言われるとどうもそのイメージが頭に浮かんで来て嫌になっちゃうんです。どうもすいません」

「ああ大変失礼しました、どうかご容赦を……そうですよね、いくらニュースでもあそこまではっきりと言われちゃうってのはね……」

 いつもははっきりいいなさいっていってるのに、ママもママのおともだちもへんだね。

 どんなにたいへんなことでも、しっかりときかなきゃあとでもっとたいへんなことになる。ママはいつもそうぼくにいってくれた。だったらさ、ママもそうすればいいのに。


「ああごめんなさい、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です…………はぁ……」


 あれ、ママのおともだちのことばでママがさらにがっくりきちゃってる…ああわかった、ママがきずつくのがわかってたからあえてはっきりいわなかったんだね。やさしいってそういうことをいうんだね。

 ママ、ママのおともだち、おしえてくれてありがとう。




「……はい、失礼しました」

 ママがつかれたかおをしておうちにかえってきたころ、あのじどうそうだんしょってところからきたおんなのひとも、どこかおおきないえのなかでまたずいぶんとこわそうなかおをしてた。


「…………全く、そんな調べればすぐわかる様な嘘で逃れようだなんてどこまで呆れた母親なんでしょうね。いや母親と呼ぶのもよその母親に失礼ですね!」


 このおんなのひと、そうとうおこってるみたい。でもそのとなりにたってるおとこのひとはなんだかわかんないけどふあんそうなかおをしてる。


「………明日、行くんですか」

「ええ、明日彼女に問い詰めます。なんで警察官の前であんな嘘を吐いたのかと」

「本気ですか」

「なぜ止めるんです!子供一人の命が危険にさらされて、いやあるいは既に失われているかもしれないんですよ!」

「………………大丈夫ですか、またこの前の義川さんのように」

「確かに私は怒りと憤りを感じています。でもあの人の様にはなりませんから」

「真面目でいい人だったんですけどね……!ったくあんな乱暴な事をする人だとは思いませんでしたよ、自治会長の義川さんが……」

 じちかいちょうのよしかわさん?だれそれ?

「あのマンションの人たちはみんなすっかり及び腰で、私は正直情けないですよ。義川さんだって、相当に腹に据えかねたんでしょうね。何を言っていたのか知りようがありませんけど、どうせ胸糞が悪くなるようなその場しのぎの狡猾な嘘八百を並べていたのでしょう。義川さんが怒り狂って彼女の腹部を殴ったのも」

「でも今じゃ義川さん塀の中の人ですよ、人生かなり台無しにしちゃって」

「それなのにまだ反省してないようですから、ここらで手を下さないと!」

 あっ、おもいだした。

 

よしかわさんって5かげつぐらいまえにぼくとママのいえにきたおじさんだ。ママがへんなにおいをだしてるとかっていうんでおこりにきたんだった。

 やっぱりそうだよね、へんなにおいがするときもちわるいもんね。だからそのひとおこってママのおなかをなぐったんだ、おしおきをしたんだ。

 あたりまえだよね。

 ママ、ひとにめいわくをかけちゃだめだよ。

 でもさ、へいのなかってなに?そうなるとじんせいってのがだめになっちゃうの?ぼくわかんない。

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