第1話 ニョグニョグの食べ方

 僕はクリケット。クリケット・カラアリ・ペピット。

 クリケットはちいさいいきもののことで、カラアリっていうのはそのなかでも真っ黒な体をしていて、口先がとがっている。あと、短いけれどしっぽがある。ほかにもクリケットは「エガアイ」と「カラアリ」っていうのがいるけれど、また後で。

 そして僕の友人も、カラアリ。




 僕らはその日、図書森にある大きな木の下にいた。図書森っていうのは本がたくさん、葉っぱみたいにぶら下がった木がたくさん集まった森のこと。その木の根元にも、たくさんの本棚が並んでいて、まるで迷路みたいに見える。僕はそのはずれで、お菓子の本を読もうと思っていたんだけど、友人のカラアリ・ピパッコを見かけたのでそばに寄ってみることにした。


「ピパッコ、なにしてるの」


 いくつもの本を周りに積み上げて、大きな本を膝の上に広げてながらうんうん唸ってる友人は、ぱっと僕の方をみあげた。


「やあペピット、なんてことないよ。ニョグニョグの食べ方が知りたくて」

「ニョグニョグ!?」


 思わず大声を出した僕を周りにいたクリケットたちがちらちら見る。僕は慌てて声を小さくしながら、けれどやっぱり声を荒げてピパッコに詰め寄る。


「ニョグニョグなんてなんで食べるの!? 毒だよ、毒! 危ないよ!」


 そう、ニョグニョグの実はとんでもなく臭くて臭くて、遠くからその匂いを嗅いだだけでひっくり返ってしまうという恐ろしい実だ。その実を知っている人はみんな、腐ったタマネギを齧ったほうが万倍もマシだと口をそろえて言う。食べられるという話は聞いたことがない。


「いや、単に興味だよ。でもわかったよ」


 ピパッコは本をじっくりと見ながら息を深く吸った。


「『ニョグニョグをオロッコラしてトォルンギをちょっと入れたあと少し混ぜてヌスッグする』」

「はあ?」

「『ニョグニョグをオロッコラしてトォルンギをちょっと入れたあと少し混ぜてヌスッグする』」

「わかんないわかんない」


 何度聞いても頭にはてなが浮かんでしまう。ピパッコは本をそっと撫でながら言う。


「うん、この本には古クリケディア語で書かれていたんだ」

「で、なにそれ」

「それは僕にもわかんない」


 うーん。

 僕はちょっと考えようとして、やめた。君にわかんないことは、僕にもわかんない。




 終

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