第3話

着々と進む映画製作。

英司さんは分からないことは何でも分かりやすく教えてくれる。

最初は分からなかった機材の使い方も、動き方も、撮影の仕方も、今ではお手の物だ。

台本も残り少ない。

もう数週間もすれば映画は完成するだろう。

そのことに、私は少し寂しさを覚えていた。

映画が撮り終わったら、英司さんはもうここには来ないのだろうか。そんなことを考えていた。

「おーい、怜ちゃん?」

「え?」

「どうしたの?ぼーっとして。」

いつの間にやら考え込んでしまっていたらしい。

英司さんが覗き込むように私を見ていた。

「え、あ、すみません。ぼーっとしちゃって。」

「大丈夫?疲れた?」

心配そうな顔で言われ、胸が苦しくなる。

「いえ、大丈夫です。」

「そっか...ならいいけど...。」

安堵した様子に私も安堵する。心配なんて、かけたくない。

「あ、そうだ。ここなんだけどさ、」

そう言いながら台本を取りだして指を指す。

「ちょっと撮り方難しくなると思うんだよね。僕も今までやったことない手法だからさ、練習に時間かかるかもしれない。」

少し申し訳なさそうに話す英司さんの手元を見て、台本の下、手のひらに目がいく。

なにか、手のひらにマークのようなものが見えた気がした。

「あ...そうなんですね。大丈夫です。ところで英司さん、この手のひらのマーク、何ですか?」

どうしても気になってしまい、私は英司さんの手のひらに緑色に浮き上がるようにあるマークを指して聞いた。

それは手相の生命線を遮るように塗りつぶされた星のマークだった。

とてもペンで書いたようには思えないほどくっきりとあり、まるで手の平から浮かび上がっているようだった。

「あー...これね...なんというか...」

めずらしく言葉を濁す英司さんに不安が煽られる。

「何ですか?」

食い下がるようにもう一度聞いた。

「うーん...えっとね、死相、っていうの?たぶん、僕、もうすぐ死ぬんだよね。」

誤魔化すように笑いながら、顔をへにゃりと歪ませて英司さんは言った。

「死相...?もうすぐ死ぬってなんですか。」

思わず責めるような言い方になってしまう。

「うーん...占いの一種みたいなものだよ。死ぬ前に出るらしいんだ。」

困ったように英司さんはそう答えた。

「なんですかそれ...。占いとか、死相とか、冗談でもやめてくださいよ。そんなの、嘘です。」

そう言いながら、現実なのだと頭のどこかで感じている自分がいた。

「あはは、そうだよね。こんな悪い冗談、良くないよね。ごめん。ただの落書きだから、気にしないで。」

英司さんは誤魔化すように笑いながら、私の頭をポンポンと撫でた。

どう考えても落書きには見えないあの手のひらのマークが脳裏に焼き付いて私は何も言えなかった。

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