運命は手の中に

あいむ

第1話

ある日、私たちの溜まり場である廃ビルの屋上に一人の青年がやってきた。

短髪で、薄手の茶色いコートを着て、カメラを携えていた。歳は同い歳か、少し年上だろうか。

屋上でカメラを構え、一人ブツブツと呟いている。

「この画角がいいか…?いや、でも…」

屋上を歩き回り、幾度もカメラを構え直して角度を変え、彼はそこに居続けた。

いつもなら知らない奴が来た時はそっと身を潜め、いなくなるのを待つのが私たちだが、一向にいなくなる様子は無い。

「なあ、怜。あいつなかなか帰んねえけどどうする?」

「ほんとだよな。居心地悪いったらありゃしねえ。」

「いつまで隠れてなきゃいけねえだよ?」

屋上の入口とは反対側に身を潜める私に、一緒に身を潜めていた仲間たちが彼を覗き見ながら口々に声を潜めつつも文句を言い始めた。

人が来ることもそうそうないし、来てもタバコを一服するかぐるりと見回して帰る程度だ。

だからこそ、私たちは自由気ままにこの屋上を使えていた。

それがどうだろう。かれこれ30分以上は彼はいるのではないだろうか。

仲間たちが痺れを切らすのも無理はない。

「俺、ちょっと声掛けてみるわ。」

そう言うと仲間の一人の健二はすっと立ち上がり彼の方へと向かった。

「あ、ちょっと…!」

止める間もなく健二は彼に近づき、声を掛けた。

「なあ、あんた。」

「うわあ!?」

カメラを構えることに夢中だった彼はいきなり声を掛けられ大層驚いた様子だった。

「びっくりしたぁ…人がいたんだね…。えっと、何の用だい?」

驚いてから一呼吸置くと、彼は落ち着いた様子で健二に問いかけた。

「聞きたいのはこっちだ。あんた何してんだ。」

疑問を問いかけると言うよりは問い詰めるかのように健二は言った。

しかしそんな健二とは裏腹に問いかけられた青年は目を輝かせて答えた。

「映画を撮るんだ!歩いてたらちょうどいい廃ビルを見つけてね!!ここで撮ったら雰囲気出るだろうなぁと思って色々カメラ越しに見ていたところなんだ!!いやぁ、いい場所だね!!」

そんな嬉しそうに答えられるとは思わず、健二は一瞬たじろぐものの気を取り直して言葉を続けた。

「映画を撮るとか知らねえけど、ここはやめとけ。ここは俺たちの場所だ。」

強気な姿勢で言う健二に彼は困った様子だ。

「俺たち…?君の他に…ああ、いるんだね。それはごめんよ。」

健二の向こう側で壁から顔を覗かせている私たちを見て彼は納得した様子を見せた。

気付かれたことに観念し、隠れていた私たちもぞろぞろと健二の所まで出てきた。

その間に彼が言葉を続ける。

「でもなぁ…僕もこの場所が気に入ってしまったし…どうしても、この場所で映画が撮りたい。うーん…そうだ!君たちも映画作りを手伝ってくれない!?」

悩ましげにしていたかと思えば、彼は目を輝かせ唐突にそう言った。

「「「「はぁ??」」」」

私たちはそれぞれに呆気に取られたり怒りを顕にしたりしながら疑問をなげつけた。

「僕今一人でスタッフも誰もいないんだ!映画作りって一人では難しいからさ、君たち4人がいてくれたら大助かりだよ!」

なおも目を輝かせ彼は言った。

「いや、やるなんて言ってねえし!」

「俺たちはここから出ていけって言いたいんだけど。」

「そんなやったこともねえことわかんねえよ。」

仲間たちは口々に文句をぶつけた。それでも彼はお構い無しだ。

「僕は篠田英司。よろしくね!」

キラキラと目を輝かせてそう名乗ると、彼は手を差し出して挨拶した。

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