第27話
「ふんふ~ん、ふわふわパンケーキ♪」
オリヴィアは最近のマイブームである、焼きたてフワフワパンケーキを手に、上機嫌で屋敷の廊下を軽い足取りで歩いていた。
今は自室でゆっくり食べようと、自分で製作したパンケーキを自ら運んでいる途中である。
今日はジャムではなく、獲れたて新鮮な果物を食べやすいサイズにカットしてから盛り付け、メイプルシロップで美味しく頂く予定だ。食べるのを想像するだけで、幸せが込み上げてくる。
部屋までパンケーキを運び終えて、侍女が淹れたてのお茶を持ってきてくれるのを長椅子に座って待っていると、扉を叩く音が聞こえてきた。返事をすると侍女の一人が扉を開き、顔を出した。
思ったより早い。
そう思いながら侍女を見ると、お茶はまだ運んで来ていないようだ。
「何かあったの?」
オリヴィアは首を傾げて目の前の紺色の髪をミディアムにカットした、14歳の幼い侍女。ミオに問いかけた。手ぶらで来たという事は、何か他に用事でもあるのだろう。
「お嬢様、実は。フェリーさんが盗み食いをしようと厨房に侵入して、下働きの使用人に食材だと勘違いされて捕獲され、晩御飯にされる一歩手前という事件が起こりました」
「げっ!?」
オリヴィアは血相を変えて立ち上がった。
報告してくれるミオは落ち着いていて、表情を変えずに淡々と言う。
「一応、気付いたローズさんが使用人を止めたので一命は取り留めましたが、取り敢えずご報告をと~」
「あわわわわわわ!取り敢えず、すぐに厨房にいきますっ!」
大慌てで私室から廊下へ出て、オリヴィアはさっきまでパンケーキを作っていた厨房へと、また戻る事になった。
「ごめんなさい、お嬢様、フェリクス様……」
見習い料理人の少年が泣きそうになりながら謝ってくる。
厨房の皆んなも一旦仕事を中断して、フェリクスに向かって一緒に謝ろうとしてくれているようだ。テーブルの上に踏ん反り返るフェリクスを崇めるように料理人達が取り囲んでいる。フェリクスに至っては普通に元気そうで安心した。
「まさか、フェリクス様が神様の使いだなんて思わなくて…僕…!どうしたら……っ」
この国に住む民は例外なく国教の信者である。
そんな彼が神の使いの喋るデブ鳥を、食材と間違えて調理しようとしてしまったなんて、それは恐ろしくて堪らないだろう。
「別に反省したなら許すけど?」
「本当ですかっ!?ありがとうございます!」
フェリクスの言葉に見習いの少年は表情を明るくさせ、見守っていた他の厨房の料理人達も、ホッと胸を撫で下ろした。
そんな様子を見てローズはフェリクスにツッこむ。
「偉そうねっ、ノコノコとこんな所にやって来て、盗み食いしようとしたアンタも悪いんでしょうがっ!」
「ローズ、フェリーさんを助けてくれてありがとう。厨房の皆さん、この喋る鳥はフェリーさんと言って、食材ではないので今後気をつけて下さいね?」
オリヴィアが厨房の皆に言うと皆一斉に「分かりました」と返事をした。
「フェリーさんも厨房に侵入して、皆さんの邪魔をしてはいけませんよ?」
「邪魔しない!今度からちゃんと、ご飯下さいって言う!」
「堂々とタカリに行く気ね!?」
睨みながら言うローズの横から、先程の見習いの少年がオズオズとフェリクスに話しかけた。
「えっと…、フェリクス様はお腹が空いてるんでしょうか?」
「空いてる空いてる!」
「お詫びとして、何か作りますっ。フォンダンショコラとかで大丈夫ですか?」
「フォンダンショコラ食べたいー!」
フェリーは喜びで舞い上がった。
「分かりましたっ、僕。一生懸命作ります!」
「良かったな、俺も手伝おう」
「本当ですか!?ありがとうございます、カルロスさんっ」
そんな少年と優しい先輩パティシエ、カルロスのやり取りをほっこりした気持ちで見ていたオリヴィアも、フォンダンショコラに思いを馳せた。
「フォンダンショコラ、いいですねぇ~周りのスポンジをフォークで割ると、熱々のショコラがトロ~リと出てきて美味しいんですよね~。出来立ては本当に最高ですねぇ、……出来立て……出来立て?」
その時、オリヴィアはある事に気付いた。
いや、思い出した。
「………あ!!!」
「お嬢様?……どうかなさいました?」
「あああああ…………」
ガタガタと震えだすオリヴィアにローズはオロオロと歩み寄る。
「パンケーキの事、すっかり忘れていました!」
「パンケーキ?」
オリヴィアのパンケーキ事情を知らなかったローズは小首を傾げた。
取り敢えずオリヴィアは、すっかり放置してしまったパンケーキを食べに自室へと戻る事にした。それに、ローズとフェリーも付いてきた。
オリヴィアは部屋の扉を開けてテーブルの上のパンケーキを確認すると…。
「あああああ!!ふわふわパンケーキが!しおしおパンケーキになってしまいましたぁぁぁ!!楽しみにしてたのにー!!」
パンケーキは、見事なまでにフワフワが萎んでいた。
とてつもない落ち込みを見せるオリヴィアへ、ローズは何と言って励まそうかと思案していると、ふいにオリヴィアの羽が光りだし、ローズはその様子に目を見張った。
「お、お嬢さ………!?オリヴィアお嬢様!!羽が!!」
「……え?」
「オリヴィアお嬢様!今すぐ鏡を見て下さい!背中から羽が消えています!」
「えっ!!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。