第12惑星(2)純真VS水流

「ふん……捉えたぞ!」


「……‼」


 アズールが銃を放ち、それを喰らったタスマとテュロンが消失する。


「……やはり誘導だけに徹した分身か……ここは……研究施設の本丸のようだな……」


 アズールが周囲を見渡して冷静に呟く。


「……」


「……まあ、私なら……そこと!」


「!」


「そこと!」


「‼」


「そこだな!」


「⁉」


 アズールが銃を三度発砲すると、3体のアユミが倒れ込む。アズールが笑う。


「ふっ、狙撃は結構得意なものでな……狙いは大体分かる」


「……思っている以上にやりますね」


 アユミが姿を現す。アズールが意外そうな反応を示す。


「ふむ? 全部で9体に分身出来るということだが……もう姿を現すとは……」


「狙撃部隊はお陰様で全滅です」


「ほう、それは悪いことをしたな」


 アズールがわざとらしく肩をすくめる。


「お気になさらず、まだやりようはあります」


「そうか、それにしても、アユミ=センリ……分身能力を他にも適用出来るとは、驚いたぞ」


「……やってみたら出来ました」


 アユミの答えにアズールは戸惑う。


「そ、そんなものなのか……?」


「そんなものです」


「アドリブ性も大事ということかな」


「そうなのかもしれませんね。予期せぬことがよく起こりますから……戦場でも……そして、ステージ上でも……」


「ふっ、なるほどな……」


「時間稼ぎはその辺にしてもらってもいいですか? 『水流のアズール』さん……」


「やはりバレるか」


 アズールは苦笑する。マリージャからの情報などで、アユミが接近戦を得意とするということは承知しているだけに、出来る限り距離をとろうとしたのである。アユミが声を上げる。


「第二陣、行きます!」


 3体のアユミが3方向から同時に迫る。


「くっ!」


「! ……」


 アズールが3方向に向かって、素早く銃を放つが、3体のアユミはそれをかわしてみせる。


「ちっ! 素早い!」


「もらった!」


「ぐっ!」


 アズールが天井を撃つ。スプリンクラーが作動し、大量の水が降り注ぐ。アユミが驚く。


「なっ⁉」


「これなら!」


 銃をしまったアズールは両手の指を弾いて、自らにも多く降り注ぐ水を銃弾代わりにする。鋭く飛んだ水の弾が、3体のアユミを沈黙させる。アユミが頭を抑える。


「ま、まさか……」


「ふっ、スプリンクラーが生きていて助かった……日頃の行いが良いからかな?」


 アズールが笑みを浮かべる。変わらず作動し続けるスプリンクラーを一瞥して、アユミがその場から離れる。


「ここで戦うのは不利!」


「待て!」


 アズールがすぐさま追いかける。水の弾を発射すると、アユミの脚を撃ち抜く。アユミはたまらず転倒する。


「! ぐ、ぐう……」


「悪いが鬼ごっこをしている暇はない……ここで決める」


「むう……」


 アユミは体を振り向かせ、尻餅をついたまま後退する。


「それで逃げきれるわけがないだろう!」


「ふん!」


「なに⁉」


 アズールが水の弾を放つが、アユミがすぐさま立ち上がってかわす。アユミが笑う。


「かわせるものですね……」


「そ、その足で何故動ける⁉」


「この辺、暗いですからね……気付きませんでした?」


 アユミが脚を高く上げる。アズールが驚く。


「それは……大量の紙をテーピング代わりに巻いていたのか⁉」


「吸水性抜群の紙です。まさか正確にここを撃って下さるとは……日頃の行いが良いからですかね?」


 アユミは笑みを浮かべながら首を傾げる。アズールが苦い顔になる。


「やってくれるな……!」


「まだこれからですよ! 第3陣!」


 2体のアユミが縦に並んでアズールに迫る。


「くそ!」


 アズールが1体のアユミを撃つ。しかし、倒れ込んだアユミを踏み台にして、もう1体のアユミがアズールの懐に飛び込んでくる。その手には短刀が光る。アユミが叫ぶ。


「もらった!」


「『リバース』!」


「なっ⁉」


 飛び込んだアユミが後方に吹き飛ばされるようになり、転倒する。アズールが呟く。


「私は相手の行動を逆再生することが出来る……」


「そ、そんな……で、でも、連続で行うことは出来ないでしょう!」


「察しが良いな……ただ、ペースを取り戻すことが出来ればそれで十分だ……」


「! がはっ……」


 アユミの腹部に水の弾が当たる。アズールが首を傾げる。


「腹には紙を巻いていなかったのか?」


「むう……」


 アユミが膝をつく。アズールが歩み寄る。


「分身がうざったいからな、本体を始末してしまえば良い……」


「……本体だと言った覚えはありませんが?」


「なに⁉ はっ⁉」


「隙あり!」


 先ほど倒れ込んだアユミが後方からアズールを抑え込む。


「ぐっ……ずっと分身体の1体と会話していたのか……しまった」


「落とす!」


「さ、させるか!」


「うぐっ⁉」


 至近距離で水の弾を喰らったアユミが崩れ落ちる。アズールも苦しそうに倒れ込む。


「や、やってくれるじゃないか……だがぎりぎりで私の勝ちかな?」


「……勝つのは俺たちだ」


「⁉ き、貴様らは⁉」


 アズールの視線の先には白菜に手足が生えた異星人が立っていた。


「『ギャラクシーマーダーズ』、『ジェメッレ=ディアボロ』にお礼参りに来たんだが、おまけに別星系で同胞が世話になった『クワトロ=ゲレーラ』までいやがる……しかも傷つけ合ってボロボロとはな……これは日頃の行いが幸いしたってやつかな?」


「くっ、こんなときに……」


 不敵な笑みを浮かべる白菜を見て、アズールが苦々しい表情になる。

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