第7惑星(1)現状を認識
7
「ケガは大丈夫か?」
俺はケイに問う。
「……これくらいなんでもないわ」
「さすがの回復力だな」
「別に……」
「コウやアユミはどうだ?」
「へっちゃら、へっちゃら♪」
「なんとか大丈夫です」
「そうか」
「キュイ!」
テュロンが俺の顔を舐めてくる。
「ははっ、テュロンも平気そうで良かった」
「……で? なんで貴方がここにいるのよ?」
笑う俺にケイが尋ねてくる。
「え?」
「え?じゃないわよ、あいつらのマネージャーになったのでしょう?」
「まあ、そうなる予定だな」
「予定?」
「契約書を見てみたら、後四日間ほど、君たちとの契約が残っているからな」
「そうだったかしら?」
ケイがアユミに視線を向ける。アユミが端末を確認する。
「えっと……はい、そうですね。おっしゃる通りです」
「というわけで、まだ俺は君たち、『ギャラクシーフェアリーズ』のマネージャーだ」
「へ~っていうか、契約書なんてちゃんと交わしていたんだね~」
「それについては俺も同意だな」
コウの感想に俺は笑いながら頷く。ケイが頬杖をつく。
「四日なんてほとんど誤差のようなものでしょう……さっさとあいつらの所に行ったら? 私たち負け犬にもう用はないでしょう」
「ケ、ケイさん、そんな言い方……」
アユミが困った顔を浮かべる。俺は顔を舐め続けるテュロンをさっと離して答える。
「……そういうわけにはいかない」
「は? 残りの分の給料だったらきちんと振り込むわよ」
「そういう問題じゃない、俺の気持ちはどうなる?」
「気持ち?」
「ああ、俺は君たちのマネージャーを続けたいんだ」
「「「!」」」
俺の言葉に三人とも驚いた顔になる。
「だから今もここにいる」
「~♪ 嬉しいこと言ってくれるね~」
コウが口笛を鳴らす。ケイが首を傾げる。
「で? ここに連れてきたわけは?」
「実際に彼女たちとの違いを見てもらおうと思ってね……そろそろ始まるな」
俺はテュロンをアユミに預け彼女たち三人の真後ろの席に座る。ここは木星の衛星群の近くにある宇宙ステーションの中で最も大きいコンサートホールの関係者席だ。ステージ上に色違いのフリフリのドレスを着て、ネラとビアンカが現れる。二人が声を上げる。
「ど~も~! ネラで~す!」
「ビアンカで~す!」
「わあああっ!」
客席が二人の登場に大いに盛り上がる。大きいホールだが満席だ。ネラが声を上げる。
「それじゃあ、一曲目行きます! 『恋は心の隅を取れ!』!」
「わああー!」
「きゃあー!」
一曲目からもの凄い盛り上がりぶりである。早くも総立ちになった客席の皆はペンライトを思い思いに振っている。黒色、白色、の二色のライトが会場を照らす。
「良い曲ですね!」
「踊りも揃っているね~」
「ふん……」
両隣のアユミとコウはネラたちのパフォーマンスに感心した様子を見せるが、真ん中に座るケイはやや憮然としている。一曲目が終わった。
「ど~も~! 皆さん、『ジェメッレ=アンジェラ』のライブにようこそ!」
「ようこそおいでくださいました!」
「改めて、自己紹介させていただきます! まずはウチ、色黒ですが心は純白乙女、ネラ=チェルキオで~す♪」
「は~い、こちら、色白ですが心は腹黒親父、ビアンカ=チェルキオで~す♪」
「うおおおっ!」
モニターから大歓声が聞こえてくる。
「……続いての曲です。『白黒ついたらアリヴェデルチ!』! 負けた方々さようなら!」
「どこの誰かさんとは言いませんが!」
「ちっ!」
「待て!」
俺は立ち去ろうとするケイを呼び止める。ケイが振り返ってキッと睨んでくる。
「なにが狙い⁉ 私たちを惨めな気持ちにさせたいの⁉」
「そういうわけじゃない! 最後までステージを見るんだ!」
「! ……仕方ないわね」
ケイは渋々と席に戻る。二曲目もアップテンポなナンバーだ。ステージ上の二人が、客席に呼びかけ、客もそれに応える。そういうやりとりを何回か繰り返す。『コール&レスポンス』で会場もさらに盛り上がる。客席も楽しそうだ。
「ありがとう! 次は『運命に抗う』です……」
「!」
「ケイさん、これは!」
アユミが驚く。
「ええ、まさかのバラードナンバーね……」
「これは予想外の選曲だね~」
コウも驚いた様子を見せる。俺も勢いのある流れをせき止めてしまうのではないかと思った。だが、それは余計な心配であった。二人はしっかりとした歌唱力で客席の心をガシッと掴んで見せたのである。アユミが感嘆とする。
「な、なんてきれいなハモリ……」
「……どうもありがとう……」
曲が終わると、二人がステージ袖で水分補給をした後、すぐにステージに戻ってくる。自らの呼吸を整えながら話し出す。
「……はい、皆さんこんばんは!」
「こんばんはー!」
「ははっ、元気が良いね~。そこのお嬢ちゃん、ウチと代わってくれる?」
「そこのお姉さんにアタシと代わってもらおうかな?」
「いやいや、それじゃあお客さん同士でステージ上がっちゃうじゃん!」
「斬新で良いかなって……」
「斬新過ぎるから!」
「常に新しいことに挑戦してきたのがアタシら、『ジェメッレ=アンジェラ』っしょ?」
「なんかカッコよく言っているけど、要はサボりたいだけじゃん!」
「……バレた?」
「バレないと思う方がおかしいから!」
「ハハハッ!」
客席から笑いが起こる。ケイが顎に手を当てて呟く。
「軽妙なやり取りね、私たちとのグダグダMCとは大違いだわ……」
「それでは続いての曲です。まずはメドレーから行きます!」
「うおおおっ!」
MCが終わり、メドレーが始まった。客席は興奮しっぱなしだ。それから数曲が続く。
「基本、激しい曲多めなのに、ダンスの息が合っている……」
コウが珍しく真面目な表情でステージを見つめる。
「どんどん行くよー! 『とどめのブラボー!』」
「盛り上がっていこう!」
二人が両手を✕に交差させると、客席もそれに合わせてポーズを取る。定番の曲のようだ。
「キュイ! キュイ!」
「テュロンまで⁉」
テュロンの反応にアユミが驚く。動物までヒートアップさせるとは……。一通り曲が終わると、二人がステージ袖へと引っ込む。
「……アンコール! アンコール!」
客席からアンコールが飛び出す。しばらくすると、ラフなTシャツに着替えた二人がステージに戻ってくる。
「うおおおおっ!」
客は大興奮だ。二人はまた二曲ほど歌う。そして、ネラが話す。
「はい! 今日はどうもありがとうね! 続いてが本当に最後の曲だよ!」
「えええっ!」
「聞いて下さい、『恋は一分、愛は一生』!」
「わああああっ‼」
「……皆、またどこかで必ず会おうね!」
「今日はマジグラッチェね‼」
ライブは大盛り上がりの末に終了する。俺は席を立ち、アユミたちの前に回り込む。
「……どうだった?」
「歌唱力の差をまざまざと思い知らされました……」
アユミが肩を落とす。
「やっぱりMCね。ああいう気の利いたトークが出来ないと……」
ケイが頭を抑える。
「なんといってもダンスのキレだよ、体力もすごいし……」
コウが上を見上げる。
「……良かったんじゃないか、超えるべき目標が見つかったのは」
「え? それって……?」
アユミが俺に問う。俺は頷く。
「四日後にあの二人に再戦を挑もう、そこで勝つんだ」
「そうか、勝てばマネージャーさんを取り戻せる……!」
「借りは返さないとね……!」
「ふふん、俄然燃えてきたよ……!」
三人の目の色が変わる。
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