第4惑星(4)火の玉ストレートダッシュ

「コ、コウ……」


「おばあちゃん!」


「ふふっ、コウ=マクルビ、育ての親を助けたければ、俺たち『キュウカンバーギャング』の言うことを聞いてもらおうか?」


「む……」


「顔見知りですか?」


「いや、それが全然、まったく覚えがない!」


 俺の問いにコウちゃんは大声で答える。


「なっ!」


 キュウリがムッとする。コウちゃんが叫ぶ。


「おばあちゃんを離せ!」


「だから俺たちの言うことを聞けといっているだろう!」


「いやだ!」


「はっ⁉」


「なんでどこの誰かも分からないやつの言うことを聞かなきゃいけないんだよ!」


「マ、マクルビさん!」


「なんだよ! マネージャー!」


「お、落ち着いて下さい。ここはまず、向こうの話を聞いた方が……」


「下手に出たら負けだよ!」


「おばあさんを人質に取られているんですよ!」


「あ、そうか……」


 いや、忘れてたんかい。俺が代わりに問う。


「あ、あなた方の要求は?」


「ふん……コウ=マクルビ、近々、4年に一度開かれるサッカーの大きな大会がある……」


「?」


 コウちゃんが首を傾げる。そういや異星人もサッカーやるんだな。


「その大会に出場し、絶妙なオウンゴールをしろ!」


「なっ⁉ 〇ンコしろ⁉」


「えっ⁉」


「アイドルはウン〇しないんだよ!」


「な、なにを言っている⁉」


「こっちの台詞だよ!」


「マ、マクルビさん! 彼らが言っているのは、オウンゴールです!」


「なにそれ⁉」


「自らのチームのゴールに得点を決めてしまうことです!」


 俺がざっくりとオウンゴールについて教える。


「ふむ……そんなことさせてどうするんだよ⁉」


「あの大会には大きな金が動く……俺たち裏社会の者にとっては重要な稼ぎ時だ。俺はお前が入ったチームの初戦の負けに大金を賭ける。普通に考えれば、負けはあり得ない格下チーム相手だ、そこをお前がオウンゴールを決めることによって、敗戦を確実なものにする!」


「や、八百長ってやつか……」


 俺が呟く。コウちゃんが思い出したように頷く。


「そういや、昔にも似たような話を持ち掛けられたような……当然無視したけど」


「へっ、あの時は大損こいたぜ……今度こそ俺らの言うことをしっかり聞いてもらうぜ」


「だからなんで言うことを聞かなきゃいけないんだよ!」


「分からねえやつだな! この状況が目に入らねえのか!」


 キュウリの1人がおばあさんに向かって銃を突きつける。


「あ、そっか」


 コウちゃんの反応に俺はずっこけそうになる。どうも調子狂うな……。


「さあ、どうする⁉」


「コ、コウや……」


「おばあちゃん……」


「アンタの思うようにしな……」


「分かった! 言うことは聞かない!」


「なっ⁉ こ、このババアがどうなっても良いのか⁉」


「いいわけないでしょ!」


「がはっ⁉」


 次の瞬間、コウちゃんが足の裏から火を噴き出したかのような凄まじいダッシュを見せ、いつの間にか手に持っていた槍でキュウリの1人の腕を貫く。コウちゃんが笑う。


「おニューの靴だから、勢いつき過ぎて狙いが外れた♪ どてっ腹を狙ったんだけど……」


「ぐっ……! 交渉は決裂! ババアを撃て!」


 キュウリが槍を抜き、すぐさま指示を出す。


「⁉」


「な、なにっ⁉」


 キュウリたちが驚く。組み伏せられていたおばあさんがあっという間にキュウリを投げ飛ばし、逆に奪った銃を向けたからである。


「コウに体術もろもろを仕込んだのはアタシだよ……なめてもらっちゃあ困るね」


「ぐっ!」


「ど、どうする⁉」


「て、撤退だ!」


「お、おう!」


 キュウリたちが逃げ出す。案外逃げ足が素早い。よく見ると足にホバーがついている。


「! 3人バラバラの方向に逃げ回っている⁉」


 コウちゃんが戸惑う。リーダー格と思われるキュウリが叫ぶ。


「1人でも逃げ切れ! コウ=マクルビの本性をあることないこと吹聴して回るんだ!」


「ちっ、あの速さなら捉えられても1人……どうする⁉」


「……! おばあさん、銃を貸して下さい!」


 俺はおばあさんから銃を受け取り、おもむろに連射する。


「! ふん、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるか? そんなもんに当たるかよ!」


 リーダー格のキュウリが叫ぶ。コウちゃんが戸惑う。


「ちょいちょい! マネージャー! へっぴり腰過ぎるよ! それじゃ当たらないって!」


「慣れてないからしょうがないでしょう! でも、これで良いんです!」


「え⁉ ……あっ!」


 コウちゃんが視線をキュウリたちの方に向けると、あることに気付く。俺は笑う。


「……これでどうです?」


「! し、しまった! ひとかたまりに誘導された⁉ ヘタクソに見せてわざとか⁉」


「一直線に並んでくれたらこっちのものだよ!」


「がはあっ!」


 コウちゃんが突撃し、キュウリを3人ごと貫く。腹部を貫かれたキュウリはガクッとなる。


「勢いに任せてやっちゃった……多分、賞金首だよね……知らんけど」


 コウちゃんは頭をポリポリと掻く。


「す、凄い加速力だ……足裏から火が噴き出したようなダッシュ……」


「ような、じゃなくて、噴き出しているんだ。火星生まれならではの特殊能力だよ」


 俺の呟きにおばあさんが応える。コウちゃんは大雑把ながら後始末をする。その後……。


「皆さん、あらためまして、『ギャラクシーフェアリーズ』のライブにようこそ!」


「わあああ!」


 翌日、火星のあるホールでライブが行われた。観客は超満員だ。


「すごいな、立ち見も一杯……凱旋ライブだからな。そりゃそうか……」


 関係者席で呟く俺におばあさんが話しかけてくる。


「今日はお招きありがとうね。マネージャーさんや……」


「いえいえ、大事なお身内なんですから当然ですよ」


「それじゃあ、アタシのソロナンバーを聴いてね! 『コウの愛で貫くよ!』!」


「うおおおっ!」


 ステージではコウちゃんがポップな衣装を着て、ポップスを楽しげに歌っている。ステージを左右素早く移動して行うファンサービスに観客は大盛り上がりだ。おばあさんが呟く。


「ポジティブな歌声をしとるねえ。思い出すねえ、ツンデレ系アイドルだった若い頃を……」


「アイドルも育ての親譲りってことか……?」


 俺は首を傾げる。若い頃うんぬんは聞かなかったことにする。

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