第3惑星(2)悪魔の双子
※(2022/11/27現在)
前話(10話目)のラストで「木星」と書きましたが、「金星」の間違いです。失礼しました。
「ここが金星……」
「地球に似ていないですか?」
モニターを眺める俺にルームウェア姿のアユミちゃんが話しかけてくる。シャワーを浴びてきたのであろう、シャンプーが良い匂いだ、などと言ったらドン引きされるので、そこはもちろん触れないでおく。
「う、う~ん、そう言われるとそんなような気もするけど……」
モニター越しだとよく分からないのが正直な所だ。アユミちゃんは構わず続ける。
「金星は地球型惑星にカテゴライズされているんです」
「ああ、地球も含めて、水星・金星・地球・火星がそれだっけ?」
「そうです! その中でも金星は『地球の姉妹惑星』や『地球の双子』と形容されることが多いんですよ! 何故だか分かります?」
「い、いや、ちょっと分からないな……」
「なんと地球と大きさがほぼ同じなんです!」
アユミちゃんが両手をバッと広げてみせる。かわいい。ルームウェアはピンク色なんだ、謎のキャラクターがプリントされている。ちょっと子供っぽい……だがそれがいい! ……そうじゃなくて、俺は発言に反応する。
「大きさが一緒と言われても……よく分からないな……」
「さらに金星は平均密度も地球にもっとも似ているんです!」
いや、そんなこと言われても、自分の母星の平均密度をいちいち確認しているやつなんていないだろう。うわあ、俺の星と平均密度がほぼ一緒だ! ってリアクションでもすれば良いのか? さすがに馬鹿馬鹿しい……。
「それはちょっと……いや、大分……分から……」
「えっ?」
アユミちゃんが潤んだ青い瞳で俺を見つめてくる。
「……うわあ、俺の星と平均密度がほぼ一緒だ! こいつは驚いた! 確かに肌で感じる『密度』感? っていうのかな? それがもう懐かしい感じだもん! 驚いた、完全に地球と双子だあの星は!」
「そうでしょう⁉」
モニターを指差す俺にアユミちゃんが頷く。ケイちゃんが呆れ気味に部屋に入ってくる。
「まだ着いてもいないのに、何をはしゃいでいるの?」
「双子なんですって! 地球と金星は!」
「ああ、『悪魔の双子』ね」
「え?」
悪魔というワードに俺が固まる。アユミちゃんが抗議する。
「もう、ケイさん、水を差さないで下さいよ!」
「……事実を述べたまでよ」
「なんてたって海がないものね~」
「ああ、確かに……」
コウちゃんの言葉に俺は頷く。ケイちゃんが補足する。
「それに地球に比べると生活環境も決して良いものではないわ」
「火山活動が大昔から活発で、気温も上昇して、二酸化炭素が充満しているんだっけ?」
「火山活動が全てではないわ、大気上層部の『スーパーローテーション』もその一因よ」
「『スーパーローテンション』?」
「『スーパーローテーション』……金星独特の風よ」
「風?」
「そう、4日で金星を一周するの」
「4日で⁉」
「そう、それによって、二酸化炭素などがすぐに拡散してしまう……もっとも熱なども吹き飛ばしてしまうから、昼夜を問わず、地表の温度には大して変化がないわ」
「ほ、ほう……」
「温暖化が進み過ぎた世界線の地球って感じかな~♪」
「な、なるほど……」
俺がコウちゃんの言葉に頷くと、ケイちゃんが少しムッとしたような表情で告げる。
「もうすぐ着陸よ。コウは船の警戒をしっかりね。アユミは待機、体をちゃんと休めなさい」
「は~い♪」
「は、はい……」
「私はまず所用を済ませてくるわ。仕事の話は戻ってから打ち合わせましょう」
「りょ、了解しました」
「あ、あの……ハイジャさん、俺は?」
「貴方は私と一緒に来なさい」
「い、良いんですか⁉」
「ええ、早くしなさい」
俺は急いで準備する。もっとも小豆色のジャージから黒ずくめの普段着に戻るだけだが。
「お待たせしました」
「……これを着けて」
「ガ、ガスマスク⁉」
ケイちゃんから手渡されたものに俺は驚く。
「大体の場所は普段着で活動出来るまでにはなったのだけど、一部の区域を除けば、まだまだこれは手放せないわ」
「そ、そうなんですか……」
俺は戸惑いながら、ケイちゃんとともに金星に降り立つ。これが金星か……。宇宙港の少し離れたところにいくつかの街が見える。ケイちゃんがそれを指差す。
「あの街に行くわ」
宇宙港で車を借り、道路を進む。この車は整備された道路を走るのが専門だが、整備されていない、いわゆるオフロードもある程度走れる車だ。何故、ケイちゃんはそんなものを借りたのかと不思議に思っているうちに目的地に着いた。
「ここは……?」
「ショッピングゾーンよ」
「え? まさか俺を連れてきた理由って……?」
「荷物持ち、よろしくね。ああ、この辺りはガスマスクを外して大丈夫だから」
マジかよ。ケイちゃんと楽しく金星観光だと浮かれていた自分が恥ずかしい。まあ、ガスマスクを渡された時点で浮かれるなという話だが……。
「……大体こんなものかしらね」
「お、終わりですか……?」
「ええ」
前回は3人の荷物持ちだったが、今回は1人の荷物持ち、まあ楽勝だろうと思っていたら、それが間違いだった。1人で3人分、いや、それ以上買っているんじゃねえか、これ……? お、重い……。俺は提案する。
「は、腹が減りました。金星料理を食べてみたいんですが……」
「それはまた後で、もう一軒いくわよ」
「ええっ⁉」
「……このような感じになりますが?」
「悪くないわね。馬子にも衣裳ってやつかしら。じゃあ、これとさっきのを買います」
「ありがとうございます」
「あ、あの……」
俺が連れられてきたのは紳士服店だった。言われるがままにスーツを何着か試着し、ケイちゃんが購入を決める。ケイちゃんが俺に向かって話す。
「私たちのマネージャーだというなら、それなりに身なりを整えてもらえないといけないからね。購入代は給料から引いておくから……ああ、その服は下取りにお願いします……」
「い、いや、ちょっと待って下さい! 思い出ある服なんです!」
買い物を終えた俺たちは整備されていない道を車で行く。ケイちゃんが呟く。
「これが今日の所用よ……着いたわ。ガスマスクは外して大丈夫よ」
「は、はい……」
俺は促されるまま、車から大量の荷物を下ろす。近くの建物から子供たちが出てくる。
「あ、チーママだ!」
「チーママ!」
「チ、チーママ⁉」
ケイちゃんに子供たちが群がる。予想外の光景に俺は困惑する。
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