第2惑星(4)高速ローリングダンス

「ふふふっ! まんまと引っかかったな!」


「こ、これは……⁉」


 ボス格のニンジンが声を上げる。


「お前らがこの街に来るという情報は掴んでいた! しかもライブ会場を探しているというではないか! 様々に手を回して、この屋外ステージに来るように仕向けたのだ!」


「そ、そんな……」


「ハメられたってことだね~♪」


 コウちゃんが呑気な声を上げる。俺は慌てる。


「ま、待ってくれ!」


「待つか! 同胞の仇を討たせてもらうぞ!」


「……いくつかの月面都市で暗躍している、賞金首の半グレ集団『キャロットデビルズ』……先日壊滅させていたと思ったけど、残党がまだこんなに……しぶといわね……」


 ケイちゃんが淡々と呟く。


「お前らは完全に包囲されている! このステージがお前らの墓場だ!」


「くっ、俺のせいだ、すまん……」


「……上出来よ」


「え?」


 ケイちゃんの言葉に俺は彼女の方に振り向く。


「残党が色々悪さしているという情報はキャッチしていた。だけど、なかなか尻尾を掴むことが出来なかったの……まさかこうして相手の方から顔を出してくれるとはね……」


「ふん、強がりを!」


「ちょっと多いわね……アユミ、任せるわよ」


「はい!」


「ええっ⁉」


 俺は驚いた、アユミちゃんが一瞬液体化した後、9人に分身したからである。


「はっ!」


「ば、馬鹿な⁉」


 分身したアユミちゃんは俺たちを包囲していたニンジンにそれぞれ迫る。


「それ!」


「ぐはっ……!」


 分身したアユミちゃんが短刀をニンジンたちに突き立てる。その手際の見事さと素早さに、ニンジンたちは銃を発砲する間もなく、崩れ落ちる。


「恨みはないですけど……悪い方々を野放しには出来ませんから」


「す、すごい……液体化して……分身した?」


「水星生まれならではの特殊能力よ」


 俺の疑問にケイちゃんが答える。


「そ、そうなのか……」


「ちっ、お、お前ら! こいつがどうなっても良いのか⁉」


 一人残ったボス格のニンジンが目隠しをされ、両腕を縛られた状態の男性を引っぱり出してくる。アユミちゃんが尋ねる。


「そ、その方は⁉」


「このステージの元々の持ち主だよ! こいつの頭をぶち抜くぞ!」


「ひ、ひっ!」


「や、やめてください!」


「ならばまずはその妙な分身を解きな!」


「くっ……」


 アユミちゃんが言われた通りに分身を解こうとする。俺が叫ぶ。


「待て! アユミちゃん! 奴に向かって縦一列に並べ!」


「ええっ?」


「早く!」


「わ、分かりました!」


 9人のアユミちゃんが縦一列に並ぶ。俺はさらに指示を出す。


「そこでローリングダンスだ!」


「は、はい!」


 アユミちゃんは俺の指示に従い、前の方から腕をぐるぐると回しながら上半身を時計回りに動かす。ボス格のニンジンが戸惑う。


「な、なんだ⁉」


「アユミちゃん、もっとだ、もっと速く!」


「は、はい‼」


 アユミちゃんがローリングダンスの速度を速める。


「ぐっ……目、目が回る……」


 9人のアユミちゃんがぐるぐると動くのを見たボス格のニンジンが人質を手放す。


「今だ!」


「はい!」


「し、しまった!」


「お覚悟を……」


「ま、待て、俺は賞金首だぞ!」


「生死は問わないということですから!」


 ボス格のニンジンの懐に入ったアユミちゃんが短刀を振りかざす。


「し、神聖なステージを血で染めていいのか⁉」


「まずは汚れたあなたにご退場頂きます……」


「⁉」


 アユミちゃんが短刀を突き刺し、パッと抜く。ボス格のニンジンはただ崩れ落ちるのみであった。アユミちゃんが呟く。


「血まみれの姿をご家族に見せたくはないでしょう? もう聞こえていませんか……」


「お見事~♪」


 ボス格のニンジンの手を離れ、転びそうになった男性をコウちゃんが受け止める。


「た、助かった……?」


「3人はここからちょっと離れていて下さい」


「どういうつもり?」


 俺の言葉にケイちゃんが首を傾げる。


「いや、あらためて交渉をと思いまして……」


「なるほど、そういうこと……2人とも、死体をさっさと片付けるわよ」


 ケイちゃんたちは死体を手際よく片付ける。その後……。


「皆さん、あらためまして、『ギャラクシーフェアリーズ』のライブにようこそ!」


「わあああ!」


 翌日、屋外ステージでギャラクシーフェアリーズのライブが行われた。急な開催にも関わらず、観客はほぼ満員だ。ステージ袖でそれを見つめる俺にケイちゃんが話しかけてくる。


「よく交渉をまとめたわね……」


「皆の手柄を横取りする形だが、あの半グレ集団を俺が倒したことにしたら、『君は命の恩人だ!』ってことになって、話が思いのほかスムーズに進んだよ」


「ふむ……」


「それじゃあ、わたしのソロナンバーを聴いて下さい! 『アユミの恋路、負け知らず!』!」


「うおおおっ!」


 ステージではアユミちゃんがフリフリの衣装を着て、王道のアイドルソングを満面の笑顔で歌っている。観客も大盛り上がりだ。ケイちゃんがそれを見て目を細めて呟く。


「アユミは楽しそうに歌うわ。アイドルが本当に好きなのね、あの子は……」


「ああ、ただ、歌唱力がまだ発展途上だな、アイドルソングにはほど良いかもだが……」


「またはっきりと言うわね」


「す、すまん……」


「まあ、貴方の影響なのか、あの子のステージングにも幅が出てきたようだわ……これからもよろしくね、マネージャー」


「え? それって……」


「こういうライブ会場を抑えてくれるなら、私たちの手間も減るわ、この調子でお願いね」


「あ、ああ!」


 俺は力強く頷く。どうやら宇宙でいきなり無職生活は避けられたようだ。良かった……。ステージではアユミちゃんが曲の合間にローリングダンスを披露している。ソロでやることでは無いと思うが。楽しそうに踊る姿に俺も観客も笑顔になる。

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