ため池作りの問題
結界を越えて、我が
ため池予定地にて、何やら、物作り妖精のおじいちゃん達と話し合うイメルダちゃんの姿が見えた。
「ただいまぁ~!
どうしたの?」
と手を振り近づくと、イメルダちゃんはこちらを振り向き「お帰り」と言ってくれる。
そして、白いモクモクをソリ状にして運ぶ、氷付けのロック鳥さんお肉に視線を向け「また、いっぱいお肉を持ってきたわね」と苦笑した。
まあ、冷凍室の中には結構な量の肉があるからだろうけど、これは別だからね!
「これはロック鳥さんの肉だから、凄く美味しいんだよ!」
と説明をすると、「え? ロック鳥? 倒したの?」とイメルダちゃんは目を丸くした。
なので、たまたま出会った
「それより、何を相談していたの?」
と訊ねると、イメルダちゃんは困った顔をする。
「どうも、この場所の土はため池を作るのに適してないみたいなの」
「え?
そうなの?」
と物作り妖精のおじいちゃんに視線を向けると、おじいちゃん達は何やら恥ずかしそうに身振り手振りをする。
え?
土管を作る事で頭がいっぱいになり、その辺りの調査を疎かにしてた?
ちょっとぉ~!
え?
ため池の底に粘土を使えば何とかなる?
土管用ほどで無くても良いけど、粘土のような土で固める必要があるのね。
え?
探しに行く?
わたし、どういう土が良いか、分からないんだけど……。
え?
おじいちゃんも付いていく?
探してくれるなら大丈夫かな?
でも、粘土って、どういう所にあるの?
え?
崖?
川にもあるの?
川なら東にあるから、そこでもいいかな?
そういえば、結局今日も川まで行かなかったんだよね。
明日辺り行ってみようかな?
その事を話すと、物作り妖精のおじいちゃん達は大きく頷いた。
「ただいまぁ~」と家に入ると、シャーロットちゃんが「お帰りぃ~」と駆け寄ってきてくれた。
可愛い!
「美味しい肉を獲ってきたよ」と言いつつ一抱え分の冷凍肉を見せて上げると、愛らしい妹ちゃんは嬉しそうにする。
因みに、ロック鳥さんのお肉は大きすぎるので、外でバラし、今持っている分以外は貯蔵庫の裏口から貯蔵済みだ。
「それ、何のお肉?」と聞かれたので「ロック鳥さんだよ。とっても美味しいの」と答える。
「楽しみ!」
とわたしの腰に抱きつくシャーロットちゃんにほんわかしていると、台所からシルク婦人さんが出てきた。
なので、婦人さんにもそのことを説明する。
興味深げにわたしが持つお肉を眺めていたシルク婦人さんに訊ねる。
「すぐに使うなら、解凍するけど?」
でも、婦人さんは「明日」と首を横に振った。
今日はもう、別のものを準備してるんだろうね。
妖精メイドのサクラちゃんが貯蔵庫に持って行って上げると身振り手振りをしてくれたのでお願いし、「今日食べたい!」と主張するシャーロットちゃんを「明日の楽しみにしようね」と宥めながら、部屋に入り帽子や籠を下ろす。
あ、これもあった。
これは……。
シャーロットちゃんがいない時がいいかな?
なんて思っていると、妹ちゃんはケルちゃんの元に行って、モフモフ毛皮に抱きついている。
よし、この隙に。
わたしは籠から出した物を持って、素早く台所に移動する。
中ではシルク婦人さんが鍋の中身をかき混ぜていた。
今日はクリームシチューかな?
白色でまろやかな汁に鶏肉やにんじん、ジャガイモなどを煮込んだシチューで、とても美味しい。
因みに、これはわたしの前世知識ではなく、シルク婦人さんのレパートリーだ。
というより、前世ではテレビとかで見た事はあっても、実際に食べた事すら無いので、わたしでは作れない。
いつか、教えて貰おうと思っている。
いや、それは良いとして……。
「シルク婦人さん、ちょっと見て貰いたい物があるの」
わたしが言うと、婦人さんは物作り妖精のおじいちゃんに作って貰ったお玉を置くと、こちらを見た。
今日の狩りの成果のもう一つ――ティラノサウルス君のお肉を見せながら訊ねる。
「この肉、凄く堅いんだけど、料理できるかな?」
シルク婦人さんはこちらに来ると、わたしの持つティラノサウルス君の肉――その上部を指で押した。
一見すると、牛肉の赤身――だが、その指先で感じられる”何か”で、その違いを察したのか、シルク婦人さんは眉を寄せて、考え込む。
そして、テクテクと移動すると、包丁を手に戻ってくる。
わたしがまな板の上にそれを置くと、シルク婦人さんは肉の上に包丁を走らせた。
……本来であれば、すぅーっと切れ目が出来るはずの赤身だけど、痕すら残さない。
「……肉?」
シルク婦人さんはぼそりと呟くと、再度、包丁を引く。
薄らだが、ようやく一本、跡が残る。
「……人が食べられる肉?」
婦人さん、凄く渋い顔でこちらを見てくる。
ま、まあ、やっぱり難しいか。
しまったなぁ~
こんなことなら、
あ、ケルちゃんなら行けるかな?
なんて思っていると、シルク婦人さんが言う。
「切る事が出来る道具」
「え?
切る事が出来れば、何とかなるの?」
「試す」
試す事が出来るって事ね。
わたしが白いモクモク刀の要領で包丁を作る。
どれくらいかかるか分からないから、一応、繋がっているタイプの物だ。
初めて見る白いモクモク刀を訝しむような渋い顔で眺めていたシルク婦人さんだったけど、試しに使ってみて、すんなり切れる事が分かると、満足げに頷いていた。
そして、「別の時も」と言う。
はいはい、別の時も使いたいって事ね。
その時は、言ってください。
――
朝、起きた!
腕にくっ付いているシャーロットちゃんをそっと外し、代わりにケルちゃんぬいぐるみを持たせて上げる。
すると、眠りながらニコニコしている妹ちゃんは「サリーお姉さま、ロック鳥さんもっと……」と言う。
よほど、ロック鳥さんが気に入ったらしい。
昨晩、迂闊にもロック鳥さんのお肉が美味しかった話をしてしまい、肉食系(意味違い)なシャーロットちゃんが「食べたい食べたい!」と騒ぎ始めてしまった。
なので、致し方が無く、少しだけ焼いて上げたのだけど……。
シャーロットちゃん、ついでにケルちゃんもその味の虜になってしまった。
さらに、ヴェロニカお母さんやイメルダちゃんも「美味しいわぁ~」「本当に」と目を丸くしていた。
なので、今晩はロック鳥さんのお肉三昧という事となった。
多すぎるかな? と思っていたロック鳥さんのブロック肉だけど、再度手に入れる難易度を考えたら、もう少し貰っておけば良かったかと、少々後悔をしている。
「今晩はいっぱい食べようね」
と声をかけつつ、シャーロットちゃんの肩まで布団を掛けて上げる。
そして、着替えると、部屋からそっと出た。
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