第十六章
春が来た!
「春が来たぁぁぁ!」
「うん!
春が来た!」
柔らかな陽光が注ぐ我が家の玄関前にて、わたしが叫ぶと、隣にいるシャーロットちゃんも続けてくれた!
あれほど積もっていた雪は欠片も無くなり、我が家前の広場には青々とした草が生え広がっていた。
吹く風も柔らかな温かさと共に若草の匂いを運んでくる。
うむ、一発遠吠えをしたいほど清々しい気分だ。
まあ、シャーロットちゃんを挟んだ向こう側にいるイメルダちゃんに怒られるから、やらないけどね。
いやはや、冬ごもり中は何かと忙しかった!
文字の読み書きを頑張ったし、リバーシもシルク婦人さんに教わってある程度上達した。
料理もシルク婦人さんに教わったり、逆に教えたりもした。
軽運動室でやる棒当てゲームにハマり、皆で盛り上がったりもした。
魔術や魔法を試行錯誤をして、新しい技を考えたりした。
うむ、充実していたとも言って良いと思う。
ふっふっふ!
そして、なのだ!
冬ごもりが終わった今、わたしはあの頃のわたしとは違う!
ニューサリーとなったのだ!
妹ちゃん達の後ろにさっと回り込むと、二人の腰に手を回す。
「ん?」
「きゃ!?」
と声を上げる妹ちゃんを持ち上げると、わたしは新たなる力を発動させる!
「うぉりゃぁぁぁ!」
風景が下に降りていき、妹ちゃんの悲鳴が響く。
わたし達は近くにある木、その頂点ぐらいまで
前世で言う二階くらいの高さかな?
まだまだ、上がるけど、妹ちゃんに配慮してこの辺りにしておいた。
わたしは新たなる力が呼び起こされ――足から白いモクモクを出すことが出来るようになったのだ!
今は右足から出した白いモクモクを発現させ、わたし達をここまで持ち上げたのである。
これは、白狼君達の様に雪の上を走れるようになろうと努力した副産物として、出来るようになった。
体得するのに、結構時間がかかったけど、やれることがかなり広がったと思う。
そして、実はもう一つ、出来る事が増えたのだが――。
「うぁぁぁ!
高ぁぁい!」
とシャーロットちゃんはわたしに抱きつきながらも嬉しそうにしている。
喜んで貰えて、何よりだ!
ただ、イメルダちゃんは「キャァ! 高い!」と涙目でわたしにしがみ付いている。
……後がちょっと怖い。
春になって喜ばしい限りではあるけれど、注意する点もある。
家の周りから、魔獣の気配を感じるのだ。
まあ、大型だったり、強者のそれは感じないから、わたしにとっては問題ないだろうけど……。
妹ちゃん達は気をつけなくてはならない。
それに、ここに来てまだ、秋と冬しか体験していない。
春、夏だとどのような魔獣が現れるかは分からないのだ。
油断すべきでは無い。
まあ、もっとも、この結界内にいればよほどのことが無い限り問題ないだろうけどね。
そんなことを考えていると、シャーロットちゃんが「ねえねえ、サリーお姉さま」と肩を引っ張ってきた。
「あそこに、妖精ちゃん達のお家があるんだよね?」
「ん?」
シャーロットちゃんの指す方を見れば、大木の中央にある
ああ、そういえばそんなのもあったね。
っていうか、大木、むちゃくちゃ大きくなってない?
冬ごもり前にそうは聞かされていたけど、我が家四つ分ぐらいにはなっている。
高さだって、二十階建てのマンションぐらいにはなってた。
ひやぁ~
わたしが驚愕していると、シャーロットちゃんがもっと驚くことを言ってきた。
「サリーお姉さま、あそこに行ってみたい」
「え!?
あそこに!?」
「流石に、あそこまで連れて行くのは、難しいかな?」
「このまま、足のモクモクを伸ばしていったら、行ける!」
「う~ん……」
いや、高さだけは行けると思う。
問題は、
大木はビルとは違い、先が尖った形になっている。
なので、まっすぐ上がるだけでは駄目で、その高さのまま大木側に倒れなくてはならない。
まだまだ、慣れていない足の白いモクモクで、そこまで上手い具合調整できるかというと――正直、自信が無い。
その辺りに気づいたのだろう。
イメルダちゃんが「駄目! 絶対に駄目!」と叫んでいる。
「えぇ~」と不満そうにするシャーロットちゃんをどう宥めようかと考えていると、黄金色の羽根が目に入った。
妖精姫ちゃんだった。
なにやら、身振り手振りで言っている。
え?
是非、
お願いしたいことがある?
皆一緒でも構わない?
いや、皆であそこまで行くのは難しいんだけど……。
すると、近衛騎士妖精君達が何かを掴んで持ってきた。
わたし達が入っても問題なさそうなほど、巨大な籠だった。
えぇ~
一旦、下に戻ると、改めて籠を眺める。
巨大な蔓を編んで作って有り頑丈そうである。
それを見た目は小さいけど、力持ちな近衛騎士妖精君達が運んでくれる。
まあ、問題はなさそうではある。
シャーロットちゃんなどは、わたしのセーラー服の脇辺りを引っ張り「サリーお姉さま、行きたい!」などと言っている。
ただ、イメルダちゃんは明らかに嫌そうな顔で、籠を眺めている。
わたしとシャーロットちゃんだけで行くという手もある。
そのことを話そうとすると、玄関から声がかかった。
「ねえ、何かあったの?」
ヴェロニカお母さんだった。
玄関の扉を開けて、不思議そうに巨大な籠を見ている。
その側を、近衛騎士妖精の潮ちゃんが護衛するように飛んでいる。
わたしが説明をすると、シャーロットちゃんと巨木を見た後、わたしに向かって言う。
「わたくしも、行ってみたいわ!」
えぇ~
まあ、言うと思ったけど……。
そんな母親を、目を見開きながら見ていたイメルダちゃんだったが、意を決したように言う。
「わたくしも、行くわ!」
「いや、無理しなくても……」
「無理なんかしてないわよ!」
えぇ~
絶対無理してるでしょう?
そんな親子に対して、妖精姫ちゃんは気楽な感じに”じゃあ、乗って”という様にジェスチャーをする。
……まあ、大丈夫かな?
わたしは皆が籠に乗りやすいよう白いモクモクで階段を作る。
外側と内側にモクモクし、手で支えて乗り込ませる。
最後に、わたしが乗ると近衛騎士妖精君達が飛び始めた。
「うぁ~!」
とシャーロットちゃんは嬉しそうに外を見ている。
シャーロットちゃんの肩に手を置くヴェロニカお母さんも「高いわねぇ~」とニコニコ言っている。
イメルダちゃんだけは顔を引きつらせ、カチコチに硬直している。
無意識にか、わたしの手をしっかり握っていて、絶対に怒るから言わないけど、可愛らしかった。
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